今年の3月濱口竜介監督「ドライブ・マイカー」がアカデミー賞国際長編映画賞を受賞しました。私は映画をまだ観てないのですが以前原作の村上春樹著「女のいない男たち」短編集の1つで読んだことがあります。その本のまえがきで村上氏は「その作品を仕上げるにあたって、ささやかな個人的なきっかけがあり、『そうだ、こういうものを書こう』というイメージが自分の中に湧きあがり、殆ど即興的に淀みなく書き上げてしまった。何かが起こり、その一瞬の光がまるで照明弾のように普段は目に見えないまわりの風景を、細部までくっきりと浮かび上がらせる。そこにいる生物、そこにある無生物。そしてその鮮やかな焼き付けを素早くスケッチするべく机に向かい、そのまま一息で骨格になる文章を書き上げてしまう。自分の中に本能的な物語の鉱脈がまだ変わらず存在しており、何かがやってきてそれをうまく掘り起こしてくれたと実感できた、そういう根源的な照射の存在を信じられる、このような体験を持てるのは何より嬉しい」と、述べています(村上春樹「女のいない男たち」文春文庫13頁)。私なりに解釈すると、芸術作品などの創作活動には小説に限らず、本能的な欲求が自身の内部にマグマのように出来てくるのが必要であるということだと思います。(2022.5)