低出生体重児

2 021年9月10日に厚生労働省より発表された2020年の人口動態統計(確定数)によれば、日本の出生数は過去最低の84万835人(前年より2.8%減)でありました。また、新型コロナ感染の流行によって妊娠を先送りするカップルや経済的困窮におかれた若い世代の増加、外出を規制する政府や自治体の政策により結婚を希望する人たちの出会いの場が少なくなっているため、2021年以降の出生数はさらに減少することが予想されます。一方、日本小児外科学会の集計によれば、人口の微増に対し出生数は減少していますが、新生児期に手術を受ける患児の数は確実に増加しているという事実が示されております(図)。この理由として、職業を持つ女性が多くなったことなどで結婚や妊娠年齢が高くなり、高齢妊娠やハイリスク出産が増えているため、早産の傾向となり低出生体重児が多くなっていることが指摘されています。過度のダイエットによる「痩せ」やストレス、喫煙もリスク因子になります。

 人口(橙色■)、出生数(緑●)、新生児外科症例数(青■)の推移 (日本小児外科学会全国集計)

 低出生体重児に多い小児外科疾患として消化管穿孔があげられ、これが予後を最も不良にしております。口から食べ小腸の管腔内に入った栄養素(例、グルコース)にはそれぞれ特異的な輸送蛋白(例、Na依存性グルコース輸送体)が上皮細胞膜に存在し能動的に細胞内に取り込み、その後血液中に運ばれます。これに対し小腸内にいる細菌や異物は、腸管上皮のバリアによって血中に入るのを妨げられる機構があり、その1つとして上皮細胞間の間隙にあるタイトジャンクション(密着結合)があげられます(図)。隣り合う1つ1つの細胞自体を密着させるのがタイトジャンクションにおける接着因子と呼ばれる「クローデイン」になります。つまり小腸内には栄養素と細菌叢や異物など、良いものと悪いものが「玉石混交」状態で混在し、生体はその分子をうまく見分け、栄養素を取り入れ不要な物質をシャットダウンする機構が出来ているわけです。ところが、最近の研究によると、低出生体重児では、低酸素症や低血糖、酸化ストレス等の「小胞体ストレス」のためにこのクローデインが正常に機能せず、タイトジャンクションに穴が開いたり安定化するのが妨げられ、結果的にバリア機能が破綻して小腸粘膜の透過性が高まって細菌叢が血中に入り全身感染に至るとされています(FASEB journal, 2021)。

小腸上皮細胞ではグルコースなどの栄養素は細胞膜にある特異的な輸送蛋白を介して吸収されるが、腸内細菌叢や異物はタイトジャンクション(密着結合)などにより血中に侵入するのが防御されている。「細胞の分子生物学」より

 出生動向における上記の日本の状況に関する某新聞の記事によると、イスラエルにおける出生数は多く、1人の女性が生涯に産む子供の数である、合計特殊出生率は過去40年3.0とほぼ一定で世界的に最も高く、2位のメキシコ(2.1)以下を大きく離しています(日本は1.36)。この理由として、ユダヤ民族は長い間離散していた歴史があること、ナチスやソ連での大量虐殺の経験などで、自分と類似のDNAを持つ家族を残そうとする「長年培われた民族の知恵」であるとの指摘があります。またユダヤ系親族の結束の強さで、子供の世話を両親のみに集中するのではなくお互いに助け合うという、昔の日本のように「地域の年寄りが子供たちを集めて遊んだり教育をする」コミュニテイーが基本にあるようです。また新型コロナワクチンを開発したファイザー製薬のアルバート・ブーラCEOは、ナチスによるホロコーストを生き延びた両親を持つということですが、両親からはナチスに対する怒りや復讐心を持つのではなく、どうやって生き延びることを考えたか、その幸運と人生の喜びを常に教えられていたと言っています。失った機能を嘆くのではなく、残った器官や臓器を最大限活用して他の人にできないことにチャレンジするパラリンピックの選手の姿勢に通じるものがあると思われます。(2021.10)