変異したコロナウイルスがまたまた猛威を奮っていますが、皆さんはお正月休みはどのように過ごされましたか?
私は感染対策を十分に行った上で、趣味の1つで道楽でもある「オペラ」を2つ観てきました。
1つは、ウクライナ国立歌劇場によるビゼー作曲「カルメン」です。ウクライナ歌劇場はボリショイ劇場(モスクワ)、マリインスキー劇場(サンクトペテルブルグ)と並ぶ旧ソビエト連邦における3大歌劇場です。以前キエフ劇場(キエフはロシア語、ウクライナ語ではキーウ)と呼ばれ、学生時代には歌劇場附属のオーケストラを聴きにいったことがあります。現在ロシアとの戦争の渦中にあるウクライナは、人口4000万人ちょっとと日本の約1/3ですが、肥沃な土地と恵まれた気候、水資源のため「欧州の穀倉地帯」と言われていることはご存じのことでしょう。この豊沃な資源と同様に、すぐれた音楽家を多く輩出しています。ギレリス、ホロビッツ、リヒテルなどのピアニスト、オイストラフ、スターン、ミルシテインなどのバイオリニスト、作曲家プロコフィエフ等、枚挙にいとまがありません。ただそのほぼ全員がヒットラーやスターリンに迫害されアメリカやイスラエルなどに移住し活躍されています。また第二次世界大戦中にキーウ近郊バビ・ヤールでナチスによる大虐殺を受け、昔から紛争の絶えなかった地域です。この事件を題材にしてショスタコ―ビッチは交響曲13番を創作し、暗く陰鬱な曲想によって民族の悲哀と迫害の偽善性や無意味さを表現しました。
「カルメン」の内容は周知のことなので詳しくは触れませんが、妖艶で美しい「カルメン」は自由で移り気なジプシー女で、これに翻弄される純情で一本気な竜騎兵の伍長「ドン・ホセ」が主人公で最後にはカルメンを刺し殺すのです。人が死ぬため「悲劇」として扱われますが、アリアが少なく「闘牛士の歌」や「ハバネラ」「カルタの3重奏」の舞曲風の歌、フルートとハープの美しい「間奏曲」などが有名で、すぐに口ずさみたくなるような「大衆性」に溢れています。
もう一つは英国ロイヤルオペラハウスによるベルディ作曲「アイーダ」です。これは映画館での「ライブビューイング」として観ました。といっても2022年10月の上映の収録なんですが、ロバート・カーセンによる現代の軍事情勢を彷彿とさせる新演出で非常によくできていました。原本では古代エジプトを舞台にエチオピア人奴隷のアイーダがエジプトの将軍ラダメスへの愛と祖国愛の間で引き裂かれる悲劇です。カーセンは軍事力を行使する架空の大国を考案し、エジプト王(どこかの国家元首に似ていました)とその娘はそれぞれ明るい青、真紅のブランド服を身にまとっていましたが、その他の全員が軍服に身を固め、実際の戦争の映像を背景に映しだしていました。掲揚される国旗も赤と青地に白い★です。サッカーワールドカップなどで聴かれる「エジプト軍の凱旋場面」は大国の軍事行進を模倣し、最後に逮捕されるラダメスとアイーダは核兵器が収納されている地下室に生き埋めになります。ちなみにこの時のラダメスはTシャツのような濃い緑の軽めの服装でしたが、左胸の文様があるのかはっきり見えませんでした。 今回、新型コロナ感染に翻弄され、またロシア軍侵攻の只中にあって来日されたウクライナ国立歌劇場の公演と、大国を果敢に皮肉った歌劇「アイーダ」を観たことは得難い貴重な経験となりました。