私は現在大学医学部に所属していますが、医学部についてあまりご存じない方も多いと思いますのでちょっと紹介してみます。ここ中国地方の医学部は、岡山大学、広島大学、鳥取大学、山口大学、島根大学と各県に1つの国立大学と、私立大学の川崎医大があります。その医学部における教授や教員たちの仕事は何だろうかと思われませんか?山崎豊子の「白い巨塔」の中で、末期癌に侵された浪速大学第一外科財前五郎教授は「国立大学医学部の教授は、教育、研究、臨床の全てに完璧であることを強制されるのか?」という言葉を残して死んでいきました。私たちのような医育機関において最も大事な仕事は言うまでもなく「教育」で、後進を育成することが最も大きな使命になります。医学部は6年間のカリキュラムですが、医学的な専門分野の勉強が段々早くから取り入れられる傾向にあり、鳥取大学では1年生の後半から解剖学や生化学、生理学などの基礎医学が始まり、2年生では解剖学や生理学の実習、基礎的な臨床医学の講義(例えば基礎的な消化器病学等)があります。3年生では地域医療や基礎・臨床医学の教室に何か月か配属されて実験や研究などを行います。4年生から臨床医学系の本格的な講義が始まり、ここら辺りから私の出番が回ってきます。担当は勿論「小児外科学」です。5、6年生はクリニカルクラークシップといって臨床各科を周り、我々は「消化器・小児外科」として、5年生では2週間毎に5人の医学生を受け入れ、外来や入院患者さんの担当、手術への参加、検討会での発表などを、マンツーマンで教官が指導に当たります。今の5年生には福山の高校出身者が5人おられ、毎日「尾道ラーメン」や「鞆の浦」の話題をして飽きません。6年生は「医療倫理学」を学んだ後、前半で1か月ごとにクリニカルクラークシップ2として将来的に専門にしたい科を重点的に3科まで選択できます。この辺りから各診療科による学生の争奪戦が始まるのですが、小児外科に進みたい人が今の6年生に2-3人、興味がある人が5年生に4₋5人おられ、期待したいところです。6年生の夏休みくらいから研修したい病院を選んで試験を受け(病院により異なりますがマッチングプログラム)、卒業試験と国家試験をクリアすれば、目出度く医師免許証が与えられます。鳥取大学の学生は半分以上が関西(特に兵庫県、大阪府)出身者で、兵庫県人である私も鳥取県、島根県に残ってもらうように努力しています。上述の福山出身者には福山医療センターを勧めていますので、実習などに行った場合にはスタッフの皆様からご指導の程お願いします。学生指導において大きな問題は、我々が昔勉強した頃とは医学の進歩とともに、同じ教科書も内容ががらりと変わっているという点です。卒業して40年近く経つのですから、当然といえばそうですが、例えば、小児外科は胎内での人体発生の途中で何らかの問題があっておこる「先天性異常」が原因となるものが大半です。以前は人体発生学では形態学が主でしたが、色んな細胞や器官が形成される過程に分子生物学的なアプローチを導入して、あらかじめ決められた(プログラムされた)遺伝子情報に従って次々と誘導されるわけです。一生懸命勉強していかないと最新の情報についていけません。(2020.11)