小腸の働き

 腸管は口腔、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、肛門から成りますが、栄養素の90%は小腸で吸収されます。口から入った食物は唾液や胃液、膵液の中にある消化酵素で分解消化されます。つまり糖質(炭水化物)はアミラーゼ、蛋白質はペプシンやトリプシン、脂質(中性脂肪)はリパーゼにより分解されますが、最終的な単糖類やアミノ酸、脂肪酸とモノグリセリドなどの低分子栄養素とビタミン、塩類、水分、他の微量栄養素などは小腸粘膜から吸収されます。小腸粘膜には多数の輪状ひだがありその表面は絨毛に覆われ、さらに微絨毛が密生し吸収面積を広げています。成人男子の小腸の吸収総面積はテニスコート一面にあたるとされています。

小腸粘膜の断面図。輪状ひだ→絨毛→微絨毛と吸収面積が広がる。

 このような小腸が生まれつき短い、或いは色んな病気で大量に切除してしまわないといけない患者さんがおられます。小腸が通常の25%しかない短腸症候群ではその80%は新生児期に手術を受けた小児で、低出生体重児にみられる壊死性腸炎や腸軸捻転、腹壁破裂などがあり、他に腸が蠕動しにくい病気や成人の炎症性腸疾患もあります。このような場合にはミルクなどの経口摂取が出来なく下痢などがおきるために、静脈栄養といって点滴からの栄養や水分を補わないと維持できなくなります。腸管不全患者さんでも腸を使った栄養を行うと徐々に腸が馴染んできますが(適応)、長期に静脈栄養を行うと点滴する静脈が無くなったり、カテーテルの感染や腸管内に細菌が増殖したり、肝臓の障害が起こります。ひどくなれば小腸移植が必要になりますが、小腸には病原体が多くまたリンパ組織が豊富なため長期的にも拒絶反応がおこりやすく、肝臓などの移植ほど良好な結果ではありません。このため、腸管不全患者さんに対して色んな治療、輸液やカテーテル管理、薬物治療、外科治療を色んな角度から多角的に検討するという多職種による腸管リハビリテーションプログラムが1990年代から欧米を中心に設立され、小腸移植もその1つの治療法と位置付けられるに至りました。(2021.3)