幹細胞(ES細胞・iPS 細胞)

 最近よく話題になっている幹細胞について述べます。ES細胞やiPS 細胞などです。Wikipediaによると幹細胞(かんさいぼうStem cell)とは、分裂して自分と同じ細胞を作る能力(自己複製能)と、別の種類の細胞に分化する能力を持ち、際限なく増殖できる細胞と定義されています。発生における細胞系譜の幹(Stem)となることから、名付けられています。ES(Embryonic Stem Cell)細胞は初期胚の内細胞塊から取り出し、その未分化性を保ったまま培養下で増やし樹立した細胞で、胚性幹細胞(Embryoは胚という意味)と呼ばれ、成体のどのような細胞でも生み出せるものです。一旦細胞が分化を始めると後戻り(脱分化)は出来ません。分化によって機能的・形態的な変化は起きるのですが、細胞個々のゲノム(生物が正常な生命活動を営むために必要な、最小限の遺伝子群を含むひとまとまりの染色体)や遺伝子情報は当初の受精卵と同じで何ら変化していないのです。このため分化が進行した体細胞でも遺伝子発現の制御状態を巻き戻したり、リセットすることが出来ないかと考えられ、人工的に初期化(リプログラミング)したのが、かの有名な山中伸弥先生が作成した、iPS (induced Pluripotent Stem Cell)です。Inducedとは人工的に誘導したという意味で、人工多能性幹細胞とか誘導万能細胞とかに訳されています。山中先生は、マウスの繊維芽細胞(皮膚にある細胞)を用い、初期化を促す転写制御因子(遺伝子DNAにある情報がRNAに写し取られる過程を転写といいますが、これを促進したり抑制する蛋白質)をコードする遺伝子セット(山中因子と呼ばれる3-4個の因子)によりiPS 細胞を作成するというノーベル賞受賞に至る偉業をなされました。これにより多くの難病の再生医療や創薬、種々の臓器作製に寄与していることは皆さんもご周知のことと思います。

 話を人体発生に戻しますと、幹細胞の性質を持つ内細胞塊(図1,2の赤枠)は二層性胚盤から三層性胚盤となり、順に外胚葉、中胚葉、内胚葉と形を変えます。これらの運命として

・外胚葉は神経管(➡中枢神経、網膜、松果体、神経下垂体などに分化)と、神経堤(➡脳神経、知覚神経節、副腎髄質、色素細胞などに分化)を形成する神経外胚葉と、表層外胚葉(表皮、水晶体、内耳、歯などに分化)とになります。(図)

・中胚葉は内側から沿軸中胚葉(➡骨格筋、骨、真皮、結合組織などに分化)、中間中胚葉(➡泌尿生殖器系に分化)、側板中胚葉(➡内臓の筋と結合組織、循環器系、副腎皮質などに分化)になります。 ・内胚葉は呼吸器系(➡気管、気管支、肺の上皮部に分化)と、消化器系(➡消化管と付属線、膀胱などに分化)になります。(2021.1)

受精卵からの発生と分化。三層性胚盤より三胚葉構造となる(前野正夫、磯川桂太郎:生化学・分子生物学。羊土社、より)

外胚葉、中胚葉、内胚葉の分化。(白澤信行:新発生学、日本医事新報社、より)