少子高齢化における小児医療

   ハイリスク妊娠が増加している現状において周産期母子医療センターの担う使命

                         副院長 長谷川利路

 

働く女性の増加、核家族化、女性の無理なダイエット等、女性を取り巻く最近の社会構造の変化によって、高齢妊娠・高齢出産が増加傾向にあります。それに伴い、ハイリスク妊娠(早産等の合併症)も増えています。ご存知のように、日本の出生率(数)は、現在、減少傾向にありますが、前記の理由から、低出生体重児は逆に増加しているのです。結果として、外科手術を受ける患児は増加しています。核家族化と出産後も仕事を継続する女性が多いことから、少ない子どもを、健全かつ安全に育てていくという意識傾向の変化が見られます(グラフ、FMC11月号使用と同じもの)。

 

低出生体重児には臓器の未熟性による様々なリスク因子があります。胎児期からの循環動態が残っている動脈管開存症は心不全を来し、発達障害につながる水頭症、失明リスクがある網膜症は主要なリスクです。これらに加え、肺組織の未熟性による呼吸不全も低出生体重児には認められ、呼吸不全による低酸素血症に対する、酸素投与自体の医療行為も、網膜症を増悪する要因となります。

 

低出生体重児に多く、小児外科医が関わる病気として、壊死性腸炎があります。これは胎児・新生児仮死による低酸素血症や循環不全が大きく関わっており、上記の疾患も含め、ハイリスク妊娠・出産にはMFICU(母体胎児集中治療部)を有する、総合周産期母子医療センター等での適切な周産期管理が必要です。もし消化管の穿孔や壊死が疑われれば腸を切除する手術が必要となり、時に多くの腸が失われることになります。

 

また新生児外科疾患の多くは、胎児超音波検査などで出生前に診断可能です。これによりハイリスク症例は母体搬送され、分娩時期や方法、出生した新生児の蘇生、手術が必要かどうかや時期、方法などをあらかじめ計画できるメリットがあります。重症の新生児外科疾患としては、胎児期からの肺圧迫による呼吸障害を来す先天性横隔膜ヘルニアや嚢胞性肺疾患があります。重症が予測されれば胎児が発育した週数で予定分娩や帝王切開で娩出した後、数分以内に気管内挿管、呼吸循環管理を行った後、安定した時期に根治手術を行います。これは産科、新生児科、麻酔科、小児外科、等で手順を確認し協力体制を組むことが最も重要です。

 

先天的に腹壁が閉じないで腸が体外に飛び出ている腹壁破裂という病気があります。他の合併奇形が少なく、本来予後の良い疾患なのですが、時に胎児期に腸が飛び出た状態で、腹壁が閉じてしまい、腸が短くなることがあります。これは胎児期に頻回にモニターして、閉鎖傾向がみられれば分娩時期を早めると防ぐことが出来ます。この状況や上記の壊死性腸炎では短腸症候群となり、経口摂取が進まないため、長期に静脈からの栄養補給が必要となります。新生児、特に低出生体重児では、高カロリーなどで肝障害を来しやすく静脈栄養から離脱できない場合には小腸移植が適応となり、時に肝移植を同時に行うこともあります。

 

最後に、日本と諸外国における周産期医療の現状を比較してみたいと思います。周産期死亡の指標のうち、乳児死亡率を挙げてみると、新生児、乳児の健康指標であるとともに、地域社会の健康水準を示す重要な指標とされています。2007-8年における乳児死亡率は1000出生あたりアメリカ6.9、イギリス4.8、オランダ4.1、ドイツ3.9、フランス3.6、イタリア3.5と欧米諸国に比べ、日本は2.4と世界トップクラスを誇っており、スエーデン2.5、シンガポール2.6がこれに続きます。さらに上述した小腸移植の適応となる短腸症候群の原疾患は欧米では腹壁破裂が上位を占めますが、日本では腹壁破裂で小腸移植に至った症例は皆無です。また静脈栄養関連肝疾患の発症率も極めて低く、これらは日本における周産期医療の質の高さを示すものと言えます。

今後とも増え続けると予想されるハイリスク妊娠に対し、総合周産期母子医療センターなどに集約した診療体制が望まれると思われます。