リヒャルト・ワーグナー「ニュルンベルグのマイスタージンガ―」

 2年ぶりにオペラを観てきました。演目はリヒャルト・ワーグナー作曲「ニュルンベルグのマイスタージンガ―」という3幕もので、上演時間は約6時間、14時開始で休憩をはさんで終わったのは20時過ぎ。最近の欧米における蛇使いの女性とニシキヘビ、象や馬、犬やワニなどが登場する演出とは違い、劇中劇も取り入れたオーソドックスですが見ごたえのあるものでした。

 会場である新宿の新国立劇場では感染対策のためクローク無くコートやカバンを椅子の下か膝に抱えないといけないし「ブラヴォー!」の掛け声禁止。観客が曲の間におこなう咳払いも周りの「自粛警察」による咳エチケットのチェックが徹底され殆ど聞かれませんでした。長い公演の間の飲食についてはホワイエでのシャンパンやワインサービスは勿論なく、座る椅子も減らされており皆さん持参のおにぎりやサンドイッチを立って食べるという状況でした。

 最も大きな問題はトイレで順番待ちに1-2m空けて並ぶようにという規制が明記されていましたが、ちゃんと守ると新宿駅まで長い行列ができたことでしょう。

 これらのことはどうでもいいのですが、オペラの内容はギルドという職業組合や徒弟制度が全盛であった中世のドイツにおいて「ジンガ―(歌手)のマイスター(職人)」を選ぶために歌合戦を行うというものです。ポーグナーという裕福なマイスターが伝統と格式をもつ素晴らしい歌を作詞作曲して優勝したものに、自分の全財産と一人娘を与えるという「吉本新喜劇」でも取り上げられないような茶番の内容で、ワーグナーが作曲した唯一の喜劇です。

新国立劇場:いつもならこのホワイエ(ロビー)でシャンパンやワインがふるまわれる。

 19世紀半ばの当時「標題音楽・舞台芸術」を追求していたワーグナーは、音楽は音による構成によってのみ価値があるという「絶対音楽」をバッハやベートーベンから受け継いだブラームスと激しく対立していました。

 特にブラームスを支持する音楽評論家のエドウアルト・ハンスリックからはいつも酷評されていたため、オペラの中でハンスリックをベックメッサ―という書記官として登場させ、狡猾な手段を使ったが結局歌い損ねて敗北し、民族的・宗教的な恨み辛みも併せ散々な目に合わせております。

 その姿をミュートしたトランペットとホルンによるグロテスクな響きをバンダという別編成隊で演奏されていました。これに対しワルターという他所から来た若い騎士には「人生の冬の喧騒の中で美しい歌を作れる人が真のマイスターである」として見事優勝させており、新しい芸術(標題音楽・舞台芸術)が低迷していた古臭い音楽(絶対音楽)を凌駕するという手前味噌的、倒錯した主題がこの作品の1つのテーマになります。

 が、オペラの音楽自体はライトモチーフが各所で表現された作品で、野和士指揮東京都交響楽団と新国立劇場、二期会合唱団の演奏は素晴らしかったです。

 演出はドイツで活躍するダニエル・ヘルツオークで、最後にマイスターの称号を与えられたワルターが自分の肖像画を破り捨てるという試みも斬新で面白かったです。(2021.12)

誉池月(ほまれいけづき)

松江医療センター診療部長中野先生より提供していただいた銘酒「池月」です。広島県境に近い島根県邑南町で醸される純米酒で、島根県山間部の水を使い良質な酒米から醸造されたもので中野先生の一押しです(池月酒造)。(2021.12)

ショパンコンクール

やりましたね!

日本の27才と26才の2人。

そうです! 今年のショパン国際ピアノコンクール(ショパコン、図1))で2位の反田恭平さんと4位の小林愛実さん。

ショパン国際ピアノコンクール

何かの本で読んだのですがショパコンの審査は初期の頃は結構いい加減で、審査員の合計加点が同点の場合コインを投げて優勝者を決めたこともあったようです。ところが、1980年の第10回ショパコンで「事件」が起きました。審査員であったマルタ・アルゲリッチがユーゴスラビアのイーヴォ・ポゴレリッチが本選に選ばれなかったことに猛烈抗議して審査員を辞退した「ポゴレリッチ事件」です。

ピアノコンクールではチャイコフスキー国際コンクール、エリーザベト王妃国際音楽コンクールと並ぶ、最も権威のあるショパコンですが、あまり知られていないことだけにしておきます。

 「だって彼は天才よ」と言い残して途中でアルゼンチンに帰国したことだけが知られていますが「魂の無い機械がはじき出した点数だけで合否を決めてしまうのは遺憾で審査席に座ったことを恥じる」と述べ、当時の審査体制を批判しています。その後優勝者や第2位が無かったコンクールがしばらく続きましたがこのことが影響したかどうかは分かりません。しかしいずれにしても現在の厳正な審査による世界的なコンクールに2人の日本の若者が入賞したことは画期的なことでしょう。私が小・中学生くらいの時には近所の子供たちがこぞってピアノを習っており「これだけピアノ塾に沢山の人が行っているのに何故日本には世界的なピアニストやコンクール入賞者はいないんやろう」と斜交いに構えて見ていましたが、彼らやその親たちは先見の明があったのでしょうね。彼らをちょっと馬鹿にしていた私は今さらながら後悔すること限りなしです。(2021.12)

体温調節

 急に寒くなりました。山陰では季節の変わるのが早く10月末からすでにストーブを出しております。

 今回熱の産生や体温調節について考えたいと思います。寒い環境でじっとしていると「ふるえ」が起こります。つまり骨格筋が細かい周期で律動的に収縮する現象でこれにより熱が発生して体温が保持されるのです。しかし冬眠をする動物などではふるえによらない基礎代謝量を増加させる熱産生があり、特に褐色脂肪細胞がその役割を果たし人間では新生児でのみこれをもっています。肥満などで中性脂肪をため込む白色脂肪組織とは異なり、褐色脂肪細胞は両肩甲骨の間、頸部、大動脈周囲に多く、ミトコンドリアに富み、血管が豊富、交感神経支配が極めて密であり、交感神経系の興奮によりノルアドレナリンが放出され脂肪酸が代謝されて熱を産生します(図)。赤ちゃんは自由に動けないので、いわば天然ダウンベストをまとっているわけです。が、これでは十分ではなく生まれて間もない新生児に手術をした後などは保育器で体温保持を行います(図)。先日NHK、Eテレビ番組「ダーウインが来た」で「カワイイ!動物赤ちゃん大集合SP」を放映しており、西表山猫やハリネズミの親子などを見ていて、同じ遺伝子を持つとここまでフェノタイプ(姿や形)がそっくりになり、親が子を、子が親を識別する能力ができるものだと感心しました。赤ちゃんは親の庇護を受けないと到底生きていくことができず、栄養、外敵からの保護、保温などすべて親に依存し、他からの助けが必須なのです。(2021.12)

白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞

体温保持のための新生児保育器、ラジアントウオーマー
 

山陰の旅(鳥取県東部~中部)

鳥取花回廊
鳥取駅の巨大花笠
鳥取砂丘
青山剛昌ふるさと館 鳥取県中部東伯郡大栄町で生まれ「名探偵コナン」などを描いた漫画家
(2021.11)
観光列車「天地 あめつち」.
「古事記」では山陰地方を舞台にした神話が多く、冒頭「天地(あめつち)の初発(はじめ)のとき」にちなんで名付けられたそうです。

地球温暖化

 2021年10月初旬。寒いはずの山陰でも30度を超える日が続いております。地球温暖化が影響するのかとぼんやりと考えていたら、ノーベル物理学賞を取られた真鍋淑郎教授のニュースが飛び込んできて、何とその仕事は「温暖化対策につながる気候変動のシミュレーションとなる予測モデルを物理学的な手法を用いて行った」というものらしいです。詳しい内容は理解できませんが、当初世界初の汎用コンピュータを用いて気象を予測したというもので、画期的であったことは専門外の私でも容易に想像できます(図)。

2021年ノーベル物理学賞を受賞された真鍋淑郎先生(Wikipediaより)

 地球温暖化とは太陽からの熱エネルギーを地表から逃がさない二酸化炭素などの温室効果ガスが、石油や石炭などの燃料の大量燃焼により増え続け、地表での熱が放出されないで気温が上昇することです。その影響は①海面の上昇、②気象災害の頻発、③健康被害、④生態系の破壊などが挙げられます(図2)。このうち③健康被害について、最も分かりやすい例では「熱中症」があります。脱水症状や付随する腎機能低下、心肺疾患、皮膚がん、アレルギ―、熱帯感染症、精神衛生上の異常、妊娠合併症も増えるとされています。

全国地球温暖化防止活動推進センターHPより

 真鍋先生は愛媛県の医師の家庭に生まれ一旦今の大阪市立大学医学部に入学されたようですが、ご自身の言葉を借りれば「理科の実験で失敗し、緊急時に頭に血が上る性格だから医師には向かない」と判断されたということです。私の周りには「緊急時に頭に血が上る」医師は数え切れない程おりますが(特に外科医に抜きんでて多い)それぞれに立派に活躍されていますので、真鍋先生のこの判断が正しかったかどうか私の口からは何とも言えません。が、純粋な学問である「地球物理学」や「気象学」の方により興味があったのでしょうね。当時の理系精鋭が集まる東京大学理学部大学院で理学博士号を取得されたのですが、日本では進路に恵まれることは少なくアメリカ国立気象局からプリンストン高等研究所(アルバート・アインシュタインやロバート・オッペンハイマーが在籍していた)に招聘されました。この時に呼ばれたのはジョセフ・スマゴリンスキー教授で、アメリカでIBM社製の最新コンピュータを自由に使い潤沢な資金で研究に没頭されました。その後一旦日本に帰国され「地球温暖化予測研究」の主任研究員に就任されましたが、他の研究機関との共同研究が科学技術庁の官僚から難色を示され、日本の縦割り行政が学術研究を阻害していることを不満に思い再度渡米しプリンストン大学に戻られています。当時「頭脳流出」として報じられたようです。この時の年令は何と70才。ノーベル賞を受賞された今年は90才。かつて伊能忠敬は55才で現職を定年退職した後、全国行脚をして亡くなるまでの17年間に「日本地図作製」という偉業を達成されました(図3)。偉人と呼ばれる人はこのあたりの活躍がすごいですね!!

伊能忠敬氏の伝記(講談社文庫表紙)

 真鍋先生は日本に帰らずにアメリカ国籍を取得した理由として、日本人は調和を重んじ周りが何を考えるかを気にして他人に迷惑をかけずにうまく付き合うことが最も重要で「アメリカ人は他人がどう受け止めようが気にせず自分の思う通りのことをやる。私は調和に生きる人間ではない。」とジョークにもとれる口調でマスコミからのインタビューに答えておられました。日本人の1番の弱点は「世間体」であるとよく指摘されます。つまり周囲の目を意識させる言葉や態度をとられるとその目を遠ざけることに意識が向けられます。「我々の県内では絶対にクラスターを発生させないように」など「不必要なまでに規制をかけようとする」のは1つの例です。ただ、アメリカでの自己主張に裏打ちされる競争世界はかなり熾烈であり、「周りが考えてくれる」日本が最も居心地良いと思っている私なんかはやはり「小物」なんでしょうね。それとアメリカでは後進に対する「教育」「指導」意識がしっかりしており、自分らも苦労してきた分後輩には惜しげもなく手を差し伸べる姿は我々日本人も見習うべき点であります。事実真鍋先生のアメリカでの指導者であったスマゴリンスキー教授もソ連のボグロム(大虐殺)を逃れてアメリカにやってきた科学者であったようです。(2021.11)

低出生体重児

2 021年9月10日に厚生労働省より発表された2020年の人口動態統計(確定数)によれば、日本の出生数は過去最低の84万835人(前年より2.8%減)でありました。また、新型コロナ感染の流行によって妊娠を先送りするカップルや経済的困窮におかれた若い世代の増加、外出を規制する政府や自治体の政策により結婚を希望する人たちの出会いの場が少なくなっているため、2021年以降の出生数はさらに減少することが予想されます。一方、日本小児外科学会の集計によれば、人口の微増に対し出生数は減少していますが、新生児期に手術を受ける患児の数は確実に増加しているという事実が示されております(図)。この理由として、職業を持つ女性が多くなったことなどで結婚や妊娠年齢が高くなり、高齢妊娠やハイリスク出産が増えているため、早産の傾向となり低出生体重児が多くなっていることが指摘されています。過度のダイエットによる「痩せ」やストレス、喫煙もリスク因子になります。

 人口(橙色■)、出生数(緑●)、新生児外科症例数(青■)の推移 (日本小児外科学会全国集計)

 低出生体重児に多い小児外科疾患として消化管穿孔があげられ、これが予後を最も不良にしております。口から食べ小腸の管腔内に入った栄養素(例、グルコース)にはそれぞれ特異的な輸送蛋白(例、Na依存性グルコース輸送体)が上皮細胞膜に存在し能動的に細胞内に取り込み、その後血液中に運ばれます。これに対し小腸内にいる細菌や異物は、腸管上皮のバリアによって血中に入るのを妨げられる機構があり、その1つとして上皮細胞間の間隙にあるタイトジャンクション(密着結合)があげられます(図)。隣り合う1つ1つの細胞自体を密着させるのがタイトジャンクションにおける接着因子と呼ばれる「クローデイン」になります。つまり小腸内には栄養素と細菌叢や異物など、良いものと悪いものが「玉石混交」状態で混在し、生体はその分子をうまく見分け、栄養素を取り入れ不要な物質をシャットダウンする機構が出来ているわけです。ところが、最近の研究によると、低出生体重児では、低酸素症や低血糖、酸化ストレス等の「小胞体ストレス」のためにこのクローデインが正常に機能せず、タイトジャンクションに穴が開いたり安定化するのが妨げられ、結果的にバリア機能が破綻して小腸粘膜の透過性が高まって細菌叢が血中に入り全身感染に至るとされています(FASEB journal, 2021)。

小腸上皮細胞ではグルコースなどの栄養素は細胞膜にある特異的な輸送蛋白を介して吸収されるが、腸内細菌叢や異物はタイトジャンクション(密着結合)などにより血中に侵入するのが防御されている。「細胞の分子生物学」より

 出生動向における上記の日本の状況に関する某新聞の記事によると、イスラエルにおける出生数は多く、1人の女性が生涯に産む子供の数である、合計特殊出生率は過去40年3.0とほぼ一定で世界的に最も高く、2位のメキシコ(2.1)以下を大きく離しています(日本は1.36)。この理由として、ユダヤ民族は長い間離散していた歴史があること、ナチスやソ連での大量虐殺の経験などで、自分と類似のDNAを持つ家族を残そうとする「長年培われた民族の知恵」であるとの指摘があります。またユダヤ系親族の結束の強さで、子供の世話を両親のみに集中するのではなくお互いに助け合うという、昔の日本のように「地域の年寄りが子供たちを集めて遊んだり教育をする」コミュニテイーが基本にあるようです。また新型コロナワクチンを開発したファイザー製薬のアルバート・ブーラCEOは、ナチスによるホロコーストを生き延びた両親を持つということですが、両親からはナチスに対する怒りや復讐心を持つのではなく、どうやって生き延びることを考えたか、その幸運と人生の喜びを常に教えられていたと言っています。失った機能を嘆くのではなく、残った器官や臓器を最大限活用して他の人にできないことにチャレンジするパラリンピックの選手の姿勢に通じるものがあると思われます。(2021.10)

大友直人指揮、清水和音のベートーベン

 1年8か月ぶりにクラッシックコンサートに行ってきました。

米子市公会堂 入り口の天井がピアノ鍵盤の形をしている

 新日本フィルハーモニー交響楽団による米子市公会堂での公演で、大友直人指揮、清水和音ピアノ独奏の、ベートーベンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」と交響曲第7番でした。久しぶりに聴く「生の音」はやはり素晴らしく、指揮者佐渡裕氏は「音楽は“不要不急”ではない。人と人がつながり、ともに生きる喜びを感じるためにある」と言っており、他の多くの音楽家も同じ思いで徐々に演奏会を再開しております。

 勿論、この日も感染対策は万全にされておりました。(2021.9)

東京オリンピック・パラリンピック

 2021年夏、東京オリンピック・パラリンピックを観ていて、医療者の立場から幾つか感動する場面がありました。まず急性リンパ性白血病を克服してオリンピックに出場した水泳の池江璃花子選手。骨肉腫にて足を切断し義足にてトライアスロンに出場した谷真海選手。小児期におこる癌は成人に比べ極めて稀ですが、白血病や骨肉腫を扱った山口百恵、三浦友和主演のテレビドラマ「赤い疑惑」や阪大病院がモデルとなった吉永小百合主演の映画「愛と死をみつめて」が放映された半世紀前では、致死率が高い悲惨な病気という印象が強かったことと思います。しかしその後、化学療法や骨髄移植、幹細胞移植などの医療が進歩し、今では小児がんの70%は完治する時代になっておりますが、治療中の身体への負担と抗がん剤の副作用との戦いは熾烈なもので、これを克服して大会に臨んだ選手たちの努力には敬服したします。また、先天性四肢欠損症による運動機能障害の部でいくつものメダルを取った水泳の鈴木孝幸選手、戦争の爆撃で四肢を失ったイラクの選手など。視覚障害のサッカー選手は音の出るボールを頼りにプレーをします。音楽の世界では先天性小眼球症で聴覚だけで楽譜を暗記していたピアニストの辻井伸行さんは若干20歳の時にアメリカ、クライバーン音楽祭で優勝されました。我々小児外科医は新生児~小児期に器官や臓器の形成不全のために手術を行いますが、その後の患児の成長や発達能力の凄まじさに目を見張るものがあり、逆に彼らから「元気」をもらい小児外科医のモチベーションになります。さらにパラリンピックで活躍する選手を見ていて、失った機能を他の器官・臓器で代償する人間の能力は計り知れないものがあることが実感できます。いまだに水泳のクロールが全くできない私は、彼らの爪の垢でも煎じて飲みたいです。(2021.9)

京大 おどろきのウイルス学講義

 新型コロナウイルスはなかなかその勢いを止めてくれず、ウイルスは昨今一番の悪者にされていますが、病気を起こすウイルスはごく一部で殆どは非病原性ウイルスで中には哺乳類の進化を促進した有用ウイルスも多く存在し、我々にとって必要なものであるという趣旨の本が最近出版されたので紹介したいと思います。2021年4月に獣医師で京都大学ウイルス・再生医学研究所の宮沢孝幸准教授によるPHP新書「京大 おどろきのウイルス学講義」です(図)。地球上に酸素が過剰であった時代に酸素を消費してエネルギー源であるATPを産生していた細菌を、多くの生物の祖先である原始真核細胞が後にミトコンドリアとして内部に取り込みますが、同じように哺乳類がウイルスの1種であるレトロウイルスの機能を拝借したというのです。

 生物の細胞の増殖は、核の中にあるDNA上の情報がメッセンジャーRNAに写し取られ(転写)、切り取られた(スプライシング)ものから生存に必要な蛋白質が合成(翻訳)されます。これをセントラルドグマ(中心教義)と言い、全ての細胞に共通する掟(おきて)になります。ウイルスにはDNAかRNAしか持たない原始的な寄生体で、このうちレトロウイルスはRNAを持っているのですが、細胞内に入るときにセントラルドグマの掟を破って自分のRNAを核内に持ち込みDNAに変換(逆転写)して、細胞のゲノムDNAに割り込んで自分のDNAを付け加え設計図自体を書き換えてしまうという厄介なウイルスで、エイズをひき起こすHIVや成人T細胞白血病のHTLVが含まれます。その後自分が書き換えた部分だけをコピーして工場である細胞質内のリボソームに運んで蛋白質を作り増殖していくのです(図)。ウイルスは自分自身では増殖できず宿主の細胞内に入って常に感染し続けないと生き残れないのですが、生体にはウイルスに対する免疫を作ってしまうので変異を繰り返さないと生き残れないのです。単に複製ミスによる変異だけでなく、別のウイルスとの組み換え、文節の交換、まったく別系統のウイルスの遺伝子や宿主の遺伝子を拝借して生き残り、筆者はウイルスへの思い入れがあるのか、原文を引用すると「ウイルスも生き残りに必死なんです」ということです。

京大 おどろきのウイルス学講義 より

 本書の最初の方の章で新型ウイルスは様々な動物の細胞に数多く寄生・棲息しており、無防備なところからいきなりやってくるという警告が述べられているのですが、後半からはウイルスが人間などの哺乳類に貢献した明るい話題にうつり、宮沢先生の研究業績が紹介されます。哺乳類の胎盤形成にレトロウイルスが関与していたというものです。2000年にイギリスの科学雑誌Naure に、「シンシチン1」というレトロウイルス由来の細胞融合蛋白質が人間の胎盤形成に関与していることが発表されています。さらに胎児の細胞には父親の遺伝子が含まれるため、母親の細胞が異物として攻撃するのですが、もう一つの蛋白質「シンシチン2」が免疫抑制性の配列を含んでいることが分かり、免疫抑制作用を有しているというのです。これらは過去に宿主の生殖細胞に感染して固定化するとその配偶子から発生した全ての体細胞に入り込むという、内在性レトロウイルスに含まれます。宮沢先生らは牛の胎盤形成に使われる因子を発見し、Fematrin-1と名付けられました(図)。これは2500万年くらい前に牛に感染したレトロウイルス由来のBERV-1がDNA遺伝子を書き換えたものです。彼らの説によると、通常細胞が分裂する時には1個の核が分裂して2個の細胞に分かれますが、牛の場合胎児の栄養膜細胞が着床する時には、核が2個になったのに細胞は分裂しないで2核細胞(BMC)になるものがあり、母親の細胞(子宮内膜細胞)と融合して3核細胞(TMC)になるのです。これにより母親の子宮壁側に移動することが出来妊娠関連ホルモンを母親の血中に効率よく届け「私はあなたの子供ですよ。守ってね。」というシグナルを出すというものです。

宮沢ら、Nature. com, 2013より

 その他、皮膚やその他進化に関与する内在性レトロウイルス以外にも、ヘルペスウイルスのある種のものは特定の感染や病気にかかりにくいといったこと、癌に抵抗するウイルスや癌抑制性マイクロRNAを発するウイルスなど、遺伝子操作を駆使して治療につなげようとされております。

 病原性ウイルス、有用性ウイルス、いずれにも負けたくないものです。(2021.9)

ワクチン接種

 コロナウイルスのワクチンはもう接種されたでしょうか。ファイザー社、モデルナ社、アストラゼネカ社製のワクチンは、メッセンジャーRNAなど遺伝子を利用したものです。遺伝子は通常細胞の核内に存在し(細菌でさえ)保護されているのですが、ウイルスは核を持たずにDNAやRNAの遺伝子のみから成り立ち蛋白質の殻に包まれています。ワクチン製造は簡単に言えばその遺伝子の一部を鋳型にして蛋白質である抗体を作るということです。このような情報が広まっているため「コロナウイルスワクチンを打つと身体の遺伝子が作り変えられる」ような「無知」から来る恐怖感に煽られることが多く起こっているようです。さらに「卵巣に成分が蓄積する、不妊になる」などの「デマ」も横行しています。

 18世紀、イギリスのジェンナーが天然痘のワクチンを同じ病原ウイルスである牛痘(牛にできる天然痘で人と同じような症状を発する)から生成して人に接種することで、発症を防いだだけでなく天然痘の根絶に至ったのですが、開始した当時「牛からとった物質を人間に注入することは汚らわしい、神の摂理への不信である」と言われただけでなく「牛のような顔になった」「牛の毛が生えてきた」などの噂が絶えなかったようです。この頃から3世紀も経った現在でも状況は変わっていないことがうかがえます。ジェンナーや日本の緒方洪庵医師が一つ一つ丁寧に粘り強く説明をしていって、長年の後にやっと一般の方々に理解をいていただき天然痘の撲滅に至りました(図)。遺伝子ワクチンという聞きなれない手法で出来たワクチンのため、一般に捉えられる印象は3世紀以上前と全く変わっておらず、政治家に任せるのではなく医療従事者がそのメリット、デメリットについて正しい医学的な見地から丁寧に説明することが最も重要なことと思われます。(2021.8)

緒方洪庵。岡山出身。適塾(大阪大学医学部の前身)を開いた(Wikipedia)。

細胞老化とテロメア

 8月は「お盆」の時期で各家庭では「ご先祖様」をお迎えされていることと思います。「精霊の世界」についてはよく分かりませんが、56才で亡くなったアップル社のステイーブ・ジョブズ氏は「死は生命最大の発明である」と言い「古いものを消し去り新しい道をつくる」意義があると言っております。人間の細胞は37兆個ありますが、常に細胞分裂を繰り返して新陳代謝を図っています。この細胞の染色体の末端にはテロメアという「鉛筆のキャップ」のようなものがあり、これがDNAを保護しております(図)。そして細胞分裂の度にテロメアは短くなり、これにより細胞は老化していき臓器の機能が低下していき寿命が決定されるわけです。テロメアの短縮を修正すると癌化することが実証されており、テロメア自体は細胞分裂を制限して癌化を予防する働きがあるのです。このような細胞分裂によるテロメアの短縮は「体細胞系」で行われますが、「生殖細胞系」である卵子、精子ではテロメアが短くならないので、際限なく細胞分裂できます。このことは40億年前に生命が誕生してから、「生殖細胞」が生き残りあらゆる生物と最終的に人間の出現につながったことが説明出来ます。生物の種の存続に関してみれば「生殖細胞」に比較して「個々の死」はそれほど重要ではないわけです。また生殖に関して雄と雌を有する有性生殖が生命体としては効率的であり、父と母のDNAがそれぞれ受け継がれ、遺伝子の変異などを取り入れて新しい多様性ができるというメリットがあります。優れた子孫を残して次世代に後継していくという、メカニズムが出来上がっているのです

テロメア(茶色)はDNAの先端にあり、細胞分裂の度に短くなって細胞の老化と寿命を規定する。この機構が働かないと癌化につながる。(ロビンス、基礎病理学より)

優秀な子ども達を育てる象の群れ

 ご存じのように鮭など一般生物は受精が終わると直ちに死んでしまいますが、人間の子供は出生後成育するまでに手のかかることが多く、「子育て」の期間が長く保たれています。これは現代人と同じグループに属するクロマニョン人が出現した20万年くらい前から徐々に進化した結果と思われますが、優秀な次世代を育成する社会的システムが人間社会の中で生活するうちに培われたもので、後進を育てることが人間しかできない価値のある能力と言えます。今後どのようになっていくか、もし1万年くらい生きられたらその時の人に確かめてみたいものです。(2021.8)

音楽教育ハイフェッツ

 私の好きな音楽家にヤッシャー・ハイフェッツというバイオリニストがいます。1901年にロシアで生まれ、7才でメンデルスゾーンの協奏曲を弾いてデビューを果たし、16才でニューヨークのカーネギーホールでの演奏からアメリカを本拠地として活躍した、早熟の「天才」として著名な人です。「冷たいバイオリニスト」として日本ではあまり人気は高くないのですが、ハンガリー生まれのレオポルド・アウアーに師事し極度の完璧主義で完成された演奏と哲学的な造詣も深いことで、欧米では多くの支持者を得ており沢山のバイオリニストを育てています。彼の生涯を追ったドキュメントテレビによれば、自分の音楽スタイルを追求するだけでなく「アウアーから受け継いだ音楽の理論と技術を後世に残すことが、私の残された使命である」として、57才から第一線の活動ではなく南カリフォルニア大学で後進の指導に邁進することを決意しました。

私も明日からも頑張ろうと思います。(2021.8)

酒か煙草か三密(さんみつ)か

 鳥取県の平井知事や鳥取大学医学部のウイルス学教室、感染治療部の努力により、鳥取県の陽性者は低く抑えられていますが、全国的にはまだまだ多く発生し、政府や自治体は酒を提供する飲食店に休業要請しております。お酒に酔って声が大きくなって唾液などの飛沫感染が増えることが根拠とされていますが、一人で黙って飲む人、泣き上戸の人や酒を全く受け付けない人もおられますし、逆にコーヒー一杯で、延々としゃべる人の方がリスクは高いと思われ、個人の意識により三密や飛沫感染を避けることが出来ると思います。一般に口から飲んだアルコールは口腔や食道の粘膜からごく一部、胃粘膜で20%、小腸の入り口の空腸で大部分の80%が吸収され、ここから肝臓に入って代謝されます。その他、肺から吸収(奈良漬の匂いを嗅いで酔っ払うこともある)され、たぶんあまり経験ないと思いますが、直腸や膀胱からも吸収されます。肝臓に入ってからは脱水素酵素により分解されていきますが、この酵素の強さによって酒に強い、弱い、全く受け付けないなどが決まります。酒に酔う酩酊の段階には個人差がありますが、血中アルコール濃度によって爽快期、ほろ酔い期、酩酊前期くらいまでは、大脳皮質からの理性の抑制が取れ、判断力が鈍り、気が大きくなり、この辺りが要注意の時期と思われます。以前、東北地方の某大学の医師が、学会発表の時に「あがり症」であったため、落ち着くために登壇前にお酒を飲んだらしく、発表が進むにつれしどろもどろになり遂には「俺はこんな発表、ほんどはしたくなかったんだよ」と、管を巻かれたと聞いたことがあります。しかしながら、適当な量のお酒は身体によく、1日当たりの飲酒量2単位(ビール大瓶なら1本、日本酒なら1合)以下なら死亡率の相対危険度は最も低くなるというデータがあります。ただし、過量な飲酒はウイルスへの免疫力を下げる危険性があるため、注意しましょう。

社)アルコール健康医学協会「アルコールと健康」より

これに対し、煙草の方がコロナ感染にはずっと弊害が強いことをご存じでしょうか。

コロナウイルスは呼吸器などの細胞表面にあるアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体という、もともとは血圧をコントロールする蛋白質に結合して、咽頭粘膜や肺などの細胞に侵入して増殖します。煙草に含まれるニコチンはこのACE2受容体を増加させる働きがあるため、習慣性喫煙者ではコロナウイルスにかかりやすくまた重症化しやすいのです。さらに煙草に含まれる有害物質が気管支の粘膜上皮を損傷し、COPD(慢性閉塞性肺疾患)を引き起こすことは広く知られておりますが、細菌やウイルスに対する抵抗が弱くなり肺炎などを起こしやすくしているのです。いくつかの論文では、喫煙者の重症化するリスクは非喫煙者の3-4倍とされています。実際には煙草税による収益が大きいため、なかなか煙草の弊害は言いにくいのでしょうが、このような危険性があることは知っておいていただきたいと思います。また、このACE2受容体は嗅覚ニューロンや舌にある味蕾細胞にも存在し、コロナウイルスにより嗅覚や味覚の障害が起こることが説明出来ます。

以上から、飲酒は個人の意識により必ずしも三密にはつながらないこと、喫煙所は狭くて換気が悪く三密も来たしやすいのですが、煙草は三密以前に身体のウイルスに対する抵抗力そのものが障害されるため、もっともリスクが高いと思われ、以下のようなリスク順位が考えられます。如何でしょうか。(2021.7)

コロナウイルスに対するリスク
高 煙草>>三密>>酒 低

鳥取大学医学部の歴史

 鳥取大学医学部は終戦の昭和20年に最初「米子医専」として発足、その後昭和23年「米子医科大学」となり、翌24年に「国立鳥取大学医学部」が誕生したのです。こちらに来て不思議に思ったのは、タクシーに乗って「大学病院まで」というと「はい、医大ですね」と返され、理容店に予約をすると「医大の長谷川先生が来なさるよ」と言われます。上記の歴史をみると「米子医大」の名称が使われたのはわずか1年間でしたが、記念式典に同じく来賓された伊木隆司米子市長は幼少時より病院に行くときは「医大に行ってくるけん」と言っておられたくらいで、市民に愛されていた病院だったようです。学内開放として、3000人くらいの市民を病院に招いて無料検診や顕微鏡使用など提供していたらしく、市民に近く寄り添っていたようです。

鳥取大学医学部創立75周年記念式典 平井伸治県知事のご祝辞

 鳥取大学病院は鳥取県と兵庫県北部、岡山県北部、島根県東部の約100万人対象の医療圏をカバーしており、卒業生は6000人を超えています。ロボット支援手術などの低侵襲外科やドクターヘリを擁して救急医療に力を入れています。最近、上田敬博教授が救急救命センターに来られ、ますます活気づいています。上田先生は2年前の京都アニメーション放火殺人事件で、90%以上の全身火傷を負った犯人に対し「助けないと犠牲者が浮かばれないと」必死で治療し、この結果犯人は助かり徐々に心を開くようになったと言われていました。(2021.7)

植物の開花

 4月中頃の春真っただ中で、満開の桜からチューリップ、パンジー、つつじへと変わっていきます(図)。植物の開花については、長い冬の間の低温によって、植物の持つ遺伝子(クロマチン)が誘導され、温かくなった春に環境の変化に伴って開花シグナルにスイッチが入り、花が開くという機構が働くとされています。これは動物の発生や進化にも共通したメカニズムで(生体内のエネルギー代謝は植物と動物では真逆ですが)、長期間にわたって働く分子タイマーの存在が明らかになっており、また機会があれば詳しく取り上げたいと思います。(2021.6)

開花する花たち

脂質代謝

 春はまた、新入社員が入ってくる季節で恒例の健康診断が行われます。健康診断のために1週間くらいお酒を我慢し、甘いものや脂っこいものを控える人がいますが、本来は通常の生活をしているときの状況を把握するのが目的です。図に最近の検査項目別有所見率を示します。何らかの異常所見が見つかった人は半数以上にのぼり、最近微増する傾向にあります。このうち最も多いのは血中脂質異常で約1/3弱の人に見られ、肝機能、血圧、血糖、心電図の異常と続きます。

定期健康診断検査項目別有所見率(森晃爾:産業保健ハンドブックより)

 脂質はエネルギーを貯蔵(中性脂肪)し、細胞膜や脳の構成成分(リン脂質、糖脂質、コレステロール)として、またステロイドホルモンやプロスタグランデインのような生理活性物質など、生体にとって必要な重要な物質です。脂肪(中性脂肪)は、皮下脂肪、内臓脂肪など、健康の大敵のように罵られていますが、これがないと動物は長期の絶食や飢餓に耐えることが出来ません。つまり中性脂肪を蓄えることによって、飢餓に耐える能力を飛躍的に増進したことが、人間を進化させたとも言えます。中世脂肪の化学構造式を見てみますと、グリセロール(グリセリン:3価アルコール)に脂肪酸3分子がそれぞれエステル結合したもので、トリアシルグリセロール(トリグリセリド)とも言います。脂肪酸には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸(炭素同志が二重結合を形成している)があり、二重結合の部分では折れ曲がる性質を持っています。二重結合が複数あるものを多価不飽和脂肪酸と言い、魚の油に含まれ身体に良いといわれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)はこれに含まれます。このうちリノール酸とαリノレン酸は体内では合成されないため、必須脂肪酸と言われます。

中性脂肪(トリアシルグリセロール)の化学構造式(田中文彦:忙しい人のための代謝学)

飽和脂肪酸(左ステアリン酸)と不飽和脂肪酸(田川邦夫:からだの生化学)

 ここで、私の専門に関係ある発生・進化について面白い話を紹介します。かつて大阪大学医学部で生化学の教授をされていた田川邦夫先生には、学生時代再々再追試までお付き合いいただいた(つまり2回試験に不合格になった)のですが、著書「からだの生化学」から興味深いお話を引用します。

 「肉食がサルからヒトを進化させたという説に、生化学的根拠を加えて修正した挿話である」と前置きされたうえで、「動物は必須脂肪酸を合成できないので、直接または間接的にそれを植物から摂取しなければなりません。植物の油脂は種子中に多量に貯蔵されているので、これを摂取すれば必須脂肪酸の欠乏をきたすことはないのですが、サルは草食性なので、全ての必須脂肪酸を植物に依存しています。しかし、サルにとって非常に不都合なことに、多くの種子中にはヒマのリシンや大豆のトリプシンインヒビターのような蛋白性の毒物が含まれております。このためこれを大量に食べることが出来ないので、常に必須脂肪酸が欠乏しがちであります。」

 ここから、サルからヒトへ進化する説が展開されていきます。「しかし、ある時サルの中に肉食をするものが出現しました。このサルは生体膜に富んだ動物の内臓を食べることにより必須脂肪酸を十分摂取することが出来、これが大量のリン脂質を必要とする大脳を発達させる栄養的根拠となった。」というわけです。「大脳の発達した『サル』は火を使うことを知り、種子を熱することにより毒性タンパク質を変性させて無毒化するようになったため、あらゆる種類の種子を食物に出来る」ようになりました。

 サルから突然変異した我々人間は脂肪を取ることにより、大脳が発達してきたようですが、今は逆に生活習慣病で人間が苦しんでおり、この現象は因果応報というか、自然の人間に対するリベンジなのでしょうか。(2021.6)