AI(人工知能)音楽家

 歌手の「加山雄三」さんの声の発音や抑揚、パターンなどを録音して、AI(人工知能)に学習、記憶させ再現したという報道を聞きました。伝えたい内容を入力すると「加山雄三」さんの声でアナウンスしてくれるという企画で、生まれ故郷でずっと生活の拠点とされている神奈川県茅ケ崎市にて、市役所や市立病院、スーパーや温泉施設でこの4月から館内放送されているようです。また、以前NHKスペシャルで同様に、美空ひばりさんをNHKやレコード会社に残る沢山の音源、映像をもとに、AI技術によって目や特徴的な口元などを歌唱とともに巧みに再現し、視聴者の心を惹きつけていたようです(図1)。少し前、人間不在でコンピュータ音楽のみのボーカロイド・オペラを発表した作曲家渋谷慶一郎氏は、テレビ番組「らららクラシック」において、「狂気のピアニスト」と言われるグレン・グールドの残された音源からAIが学習し、どのような楽曲でもグールド風にピアノ演奏する、またAIが学習したバッハの様式で実際に作曲する、ヴァイオリニスト成田達輝がAIと共演するなどが紹介されていました(図2)。グールド特有の「音を短く切る」「繊細で深みのあるタッチ」「ドライな演奏」など、細かく分析すれば学習・記憶できると思われますが、印象に残ったことは渋谷氏が「凄い演奏家は内部に狂気を持っており、演奏会でハラハラさせられる。例えば気分によって怒って演奏を中断したり、ふざけるなと鍵盤を叩きつける。このような一番人間の極端な部分をAIに忍び込ませると面白いでしょうね」と仰っていました。グールドや他の音楽家、例えばカルロス・クライバー、ウイルへルム・フルトヴェングラー、ウラジミール・ホロヴィッツなどの持つ、演奏に込められた情熱(狂気などと紙一重のもの)という、即興的に出てくる感情を含めた人間らしいものが生み出すようになるかどうか興味のあるところです。(2021.5)

生物と非生物: AIについて

 最近の話題として、歌手の「加山雄三」さんの声の発音や抑揚、パターンなどを録音して、AI(人工知能)に学習、記憶させ再現したという報道を聞きました。伝えたい内容を入力すると「加山雄三」さんの声でアナウンスしてくれるという企画で、生まれ故郷でずっと生活の拠点とされている神奈川県茅ケ崎市にて、市役所や市立病院、スーパーや温泉施設でこの4月から館内放送されているようです。また、以前NHKスペシャルで同様に、美空ひばりさんをNHKやレコード会社に残る沢山の音源、映像をもとに、AI技術によって目や特徴的な口元などを歌唱とともに巧みに再現し、視聴者の心を惹きつけていたようです。少し前、人間不在でコンピュータ音楽のみのボーカロイド・オペラを発表した作曲家渋谷慶一郎氏は、テレビ番組「らららクラシック」において、「狂気のピアニスト」と言われるグレン・グールドの残された音源からAIが学習し、どのような楽曲でもグールド風にピアノ演奏する、またAIが学習したバッハの様式で実際に作曲する、ヴァイオリニスト成田達輝がAIと共演するなどが紹介されていました。グールド特有の「音を短く切る」「繊細で深みのあるタッチ」「ドライな演奏」など、細かく分析すれば学習・記憶できると思われますが、印象に残ったことは渋谷氏が「凄い演奏家は内部に狂気を持っており、演奏会でハラハラさせられる。例えば気分によって怒って演奏を中断したり、ふざけるなと鍵盤を叩きつける。このような一番人間の極端な部分をAIに忍び込ませると面白いでしょうね」と仰っていました。グールドや他の音楽家、例えばカルロス・クライバー、ウイルへルム・フルトヴェングラー、ウラジミール・ホロヴィッツなどの持つ、演奏に込められた情熱(狂気などと紙一重のもの)という、即興的に出てくる感情を含めた人間らしいものが生み出すようになるかどうか興味のあるところです。

生物と非生物の違いについて考えてみたいと思います。Wikipediaによると「生物」とは、動物・菌類・植物・藻類などの原生生物・古細菌・細菌などを総称した呼び方であるとされています。さらに多くの生物者が認める定義として、①自己と外界との間に明確な隔離がある、②代謝(物質やエネルギーの出し入れ)を行う、③自己増殖能がある、を満たすものとされています。また見方を変えると「常に乱雑さを増す宇宙の中で、秩序を生み出し維持できる能力」ということになります。一般に万物は乱雑(無秩序)な状態に自然になっていきます。これを物理学の基本原理、熱力学第二法則といい、宇宙、或いは閉鎖系(外界から完全に孤立した物質の集合)では乱雑さは常に増す方向に向かうということになります。図に示すように放っておくと部屋は乱雑になっていきますが、この方が自発過程でありこれを逆転し整頓した状態にするためには意識的な努力とエネルギーの投入が必要で、自発的には進みません。この乱雑さを数値化したのがエントロピーという量で、万物が乱雑に向かうという熱力学第二法則は、万物はエントロピーが増大する方向に向かうと言い換えられます。「生物」の定義をもう一度考えると、秩序を生み出すために生物の細胞は小有機物質(アミノ酸、糖、脂質など)を用いて化学反応を行い続け、周囲からエネルギーを獲得してそれにより秩序を作り出し、細胞は生活し成長するわけです。

左:整頓されている子供の部屋。右:放っておくと乱雑な状態になる。左の状態に戻すのにはエネルギーが必要。(「細胞の分子生物学」より引用)

生物界のエネルギー代謝(「生化学・分子生物学」より引用)

 こうしてみればAIはとうてい生物とは言い難いですが、人間に極めて近く仕事をしてくれるので、今後我々にとって同僚や家族のような存在になっていくものと思われます。人間とは違ってAIは疲れず「肩を揉んでくれ」とか言わないし、仕事に飽きても「賃金アップ」を要求したり新しいファッションをねだったりしないことが、AIを「生物」から分類する定義かも知れません。皆さんはどう思われますか。(2021.5)

元始女性は太陽であった

 コロナ感染が収束すればオリンピックを初め色んな行事が始まりますが、女性蔑視と思われる発言は良くないですね。平塚らいてうは「元始女性は太陽であった。しかし今は月である。他の光(男性)に依って輝く青白い顔の月である。」と言って、女性解放運動を開始しました。言語能力など女性が優れている点や大部分の女性は甘い食べ物が好きであるなどは実感するところですが、男性から見てちょっとついていけないことが時々あります。だいぶ前になりますが、藤岡幸夫(関西フィルハーモニック管弦楽団首席指揮者)が主催する番組「エンター・ザ・ミュージック」で、伊福部昭氏(映画ゴジラのテーマ曲の作曲で有名)が作曲した舞踏曲「サロメ」の紹介をしていました。「サロメ」はかつてオスカー・ワイルドが書いた戯曲をリヒャルト・シュトラウスのオペラや三島由紀夫の演劇台本演出など、多くの芸術家に取り上げられている有名な物語です。簡単に紹介すると、古代イスラエル王国において継父ヘロデ王が王女サロメ(血のつながりのない娘に当たる)に無理やりに妖艶な踊りを舞わせたところ、その見返りとしてサロメは囚われている美しい預言者ヨカナーン(サロメが心惹かれている)の首を斬り落とすことを要求したという、王女の無垢で残酷な激情と悲劇的な結末を描いたものです(図1,2)。前夫をヘロデ王に殺されたサロメの母ヘロデイアイスのたくらみであったようですが、いずれにしてもおどろおどろしい話です。私がもっと驚いたのはアシスタントとして出ていた、テレビ東京アナウンサー繁田美貴さんは、小学生の時「何故好きな人の首を欲しがったのかわからなかったが、ドキドキしながら原作を読んだ」そうです(図)。小学生の女子が、ですよ。 毎日チャンバラごっこに明け暮れ遅くまでキャッチボールをしていた小学生の私たち男子と比べ、同世代の女子たちはやはり「太古の昔、太陽であった」と驚愕せざるを得ません。男女では生まれつき精神行動学的原理が違うのでしょうか。(2021.4)

ビアズリーによる挿絵。ヨカナーンの首を手にしている(Wikipediaより)。

男と女への分化

 性染色体の構成に関連して減数分裂して得られた正常の精子には23,X(全体で23個の染色体構成で、22個の常染色体と1個の性染色体:この場合はX染色体からなる)と23,Y(性染色体はY)の2種類ありますが、正常の卵子には23,Xの1種類しかありません(図。このように受精卵の染色体は精子の持つ性染色体(X,Y)によって決定され、男性(46,XY)か女性(46,XX)が決まります。初期の生殖器系は男女とも同一で未分化性腺(原始生殖細胞など)が活動を始めるのは胎生第7週からで、男性の表現型の発生にはY染色体が必要です。Y染色体短腕の性決定領域にあるSRY(Sex-determining region Y)遺伝子が転写因子として働き、精巣決定因子TDF(Testis determining factor)のスイッチを入れて、精巣への分化を誘導します。Y染色体がない場合(女性)にはTDFが発現しないで卵巣への分化が始まるのです。その後胎児の精巣は男性化ホルモン(テストステロン、ミュラー管抑制物質)を産生し、内性器や外性器を形成していきます。男性の生殖器はウオルフ管(中腎管)が、女性の生殖器はミュラー管(中腎傍管)という、いずれも中胚葉由来の器官が中心となって分化が進んでいきます。思春期以降の発達についてはそれぞれ成熟した精巣と卵巣から出るホルモン環境が影響していきます。精神行動学に関し、男性化と女性化についても胎児期のホルモン環境の影響があるという説もありますが、エビデンスがイマイチで勉強不足なこともあり今回は触れないことにします。(2021.4)

精子と卵子の形成(ムーア:人体発生学より)

男女生殖器の分化(塩田浩平:人体発生学講義ノートより)

第32回日本腸管リハビリテーション・小腸移植研究会

 ①2020.3福山➡②2020.3.大阪➡③2020.8.大阪➡④2020.8大阪とWEBハイブリッド

 2020年8月8日、大阪千里中央にて「第32回日本腸管リハビリテーション・小腸移植研究を現地開催とWEB会議併用のハイブリッド形式で主催しました。当初は福山医療センターにて昨年3月に行う予定でしたが、新型コロナ感染の全国的な流行に対して会議やイベントを取りやめる規制が国や自治体から一斉にかかったため一旦中止・延期しました。感染は一旦収束するかに見え順調に研究会の準備を進めていましたが、7月頃より再び陽性者が増えるようになり、現地とWEBでの開催を併用することに四たび変更せざるを得なかったわけです。二転三転した苦労話を聞いてください。

大阪現地での様子。協力頂いた大阪大学小児成育外科の方々と。

 通常、学会・研究会は遅くとも2-3年前から主催者(学会長)が自薦や他薦で決まり、ここから開催日時と場所、テーマなどを決めて行きます。私が今回の主催の推薦を受けたのは2018年の研究会の時で、小児外科井深奏司医師を事務局長として医局秘書の岡佳織さんにも手伝っていただき、翌2019年初めから本格的に計画しました。2019年3月慶応大学における研究会では福山での開催を大々的にアピールし、会員一同鞆の浦での温泉と景勝地を楽しみにされたものです。これらは岡さんが準備してくれました。ところが、その年の秋になって私の鳥取大学への異動が急遽決まり、2020年の3月に大阪で開催することに変更しました。その頃には演題募集やテーマ、招待講演なども決まっており、図4のような看板も既に出来上がっておりました。しかしながら、大阪の会場を押さえ、演題も集まりプログラムもほぼ完成した矢先に、「新型コロナ感染」の騒動で、イベントや集会に対する規制がかかり、やむなく中止、延期しました。その後は上記のごとくで、最初現地開催を予定していましたが、特に東京の人が病院の規制などで動けないということで、現地とWEBのハイブリッドにしたわけです。

最初、福山医療センター主催で行う予定であった。

今回、小児外科、看護部、栄養管理部、薬剤部、臨床心理士、ソーシャルワーカー、リハビリテーション部からの演題発表や参加者を多く得ることが出来、多職種チームによるワークショップを設け意義のある話し合いが出来ました。福山医療センターからは外科病棟の松井みのりさんや小児外科井深先生の発表がリモートで聞けて嬉しかったです。国内における「腸管リハビリテーションプログラム」は、鹿児島市立病院や東北大学、九州大学、大阪大学で既に立ち上がっており、患者登録やガイドライン作成、教育や協力体制の確立など、今後の飛躍が期待されます。また、研究会の奨励賞には福山医療センター小児外科の児玉匡先生の論文が選ばれたことを付記しておきます。

今回新型コロナウイルス感染流行の間隙を縫うようなかなりチャレンジングなものの、会場でのリアルな熱い討論や懇親会での親睦も出来ない白けた研究会になりましたが、考えられる限りの感染対策を行いその結果感染者は発生していません。それよりも逆に新たな知見が多く得られ、新型コロナに対する脅威を遥かに凌ぐ実りの多い研究会であったと思います。県境を越えた移動制限のような根拠のないやみくもな規制をするのではなく、ウイルスの性質に基づく伝搬経路を医学的に緻密に検討し、ピンポイントの対策をすることが本当に必要な政策です。卑近な例では、国内での自動車事故で年間3000人が死亡していますが、自動車を無くせば死亡は無くなりますが、自動車の無い生活は今や考えられず、飲酒運転やスピード違反の取り締まりなどの基本的なルールを守れば、通常の経済活動が成り立ちまた個人の生活も楽しめるわけです。また受動喫煙が原因で国内年間15000人が死亡していますが、他人の煙草の煙を吸わないなどの対策をしております。今年もコロナ等に負けないで頑張りましょう!!

最後に、福山医療センターのスタッフを初め、ご協力を頂いたすべての方々に深謝いたします。(2021.3)

コロナ禍での出来事

このような中、私の最近起こった体験談をお話しします。

 正月には外出禁止令が出ていたので行けなかった墓参りに、陽性者数が少しおさまりかけた1月最後の週末に兵庫県の実家に一人で行き、その帰りに神戸の「〇将」でご飯を一人で食べていました。丁度餃子が来た時に、隣のテーブル席にいたお子さん(後から聞くと心室中隔欠損症を持つ1才半の男児)が突然意識がもうろうとし、チアノーゼも出てきたため、そのお父さん(神戸市内の某医療センターのマイナー科の医師)が床に子供さんを寝かせ、ほっぺたをたたいたり心臓マッサージを始めたのです。その時、私の脳裏には鳥取大学の他部署の教授たちから「先生がコロナに感染したら病院は無茶苦茶になりますよ」「学生にはきついことを言っているんやから先生は変なことせんといてくださいよ」と、戒められたことが一瞬よぎりましたが、次の瞬間には子供を抱き上げ椅子に寝かせて蘇生のABCを始める自分がいました。順にA(airway 気道確保)、B(Breahing人工呼吸)、C(Circulation心臓マッサージ)と続くのですが、まず大腿動脈が触知することを確認し、Chin upポジションにし(頸部を真っ直ぐに下顎を挙げて喉頭まで空気を通りやすくし、首や顎の柔らかい小児には有効)、次に私の右手を筒のようにして、1-2回息を送り込むと直ぐに意識は回復し全身がピンクに変色しました。父親が手配した救急車に乗せ、その後未だ冷めていない餃子を三密を避けながら一人でゆっくり頂きました。

鳥取大学では山陰を出る時には「出張届:場所、期間、目的、理由」を提出し、帰ってからは「報告書:上記に加え、現在の体温、症状の有無、滞在中に会議や集会で3密があったかどうか、複数人数で会食を行ったか」を出します。感染対策室に直ぐに報告するとともに、2週間の健康チェックなどを行い、3週間を超える現在までコロナ感染を疑う症状や反応は出ていません。医師である父親に何かの時にと名刺を渡しておいたのですが、その数時間後に資料のような感謝のメールが届きました。医師免許や看護師免許等をもつ我々医療従事者には、飛行機や新幹線の中で「病状の悪い乗客がおられます。お医者様か看護師の方、もしおられれば客室乗務員にご連絡ください」というアナウンスが流れますが、それに対応する義務や規則はどこにも明記されていません。が、私の答えは父親のメールの通りでした。

独自の政策を出す政治家や珍しいケースをレポートして視聴率や読者数を確保しようとするマスコミは、それぞれの立場で必死で対応されていますが、2月13日から「コロナ対策法-まん延防止措置」が施行されており、かえって不安を煽るような結果になっていないか検討して、レアなことにこだわらず、大きな視点で国民を指導していってほしいと思います。かつて、ハンセン病(らい病)は人に伝染する病気として恐れられ、隔離政策がとられていましたが、現在では感染するリスクはほぼ皆無であるという見解です。また、自分でミトコンドリアを持ち体外からの養分を取り込んで自己増殖できる細菌とは異なり、ウイルスはDNAかRNAという遺伝子しか持たない極めて原始的な生物ですので、自分だけでは生きることが出来ず、必ず他の細胞内に入って増殖します。「気持ちを引き締める」ような精神論だけでなく、このようなウイルスなどの医学的な知識を最大限に活用したピンポイントの対応を望みたいところです。(2021.3)

小腸の働き

 腸管は口腔、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、肛門から成りますが、栄養素の90%は小腸で吸収されます。口から入った食物は唾液や胃液、膵液の中にある消化酵素で分解消化されます。つまり糖質(炭水化物)はアミラーゼ、蛋白質はペプシンやトリプシン、脂質(中性脂肪)はリパーゼにより分解されますが、最終的な単糖類やアミノ酸、脂肪酸とモノグリセリドなどの低分子栄養素とビタミン、塩類、水分、他の微量栄養素などは小腸粘膜から吸収されます。小腸粘膜には多数の輪状ひだがありその表面は絨毛に覆われ、さらに微絨毛が密生し吸収面積を広げています。成人男子の小腸の吸収総面積はテニスコート一面にあたるとされています。

小腸粘膜の断面図。輪状ひだ→絨毛→微絨毛と吸収面積が広がる。

 このような小腸が生まれつき短い、或いは色んな病気で大量に切除してしまわないといけない患者さんがおられます。小腸が通常の25%しかない短腸症候群ではその80%は新生児期に手術を受けた小児で、低出生体重児にみられる壊死性腸炎や腸軸捻転、腹壁破裂などがあり、他に腸が蠕動しにくい病気や成人の炎症性腸疾患もあります。このような場合にはミルクなどの経口摂取が出来なく下痢などがおきるために、静脈栄養といって点滴からの栄養や水分を補わないと維持できなくなります。腸管不全患者さんでも腸を使った栄養を行うと徐々に腸が馴染んできますが(適応)、長期に静脈栄養を行うと点滴する静脈が無くなったり、カテーテルの感染や腸管内に細菌が増殖したり、肝臓の障害が起こります。ひどくなれば小腸移植が必要になりますが、小腸には病原体が多くまたリンパ組織が豊富なため長期的にも拒絶反応がおこりやすく、肝臓などの移植ほど良好な結果ではありません。このため、腸管不全患者さんに対して色んな治療、輸液やカテーテル管理、薬物治療、外科治療を色んな角度から多角的に検討するという多職種による腸管リハビリテーションプログラムが1990年代から欧米を中心に設立され、小腸移植もその1つの治療法と位置付けられるに至りました。(2021.3)

地ビールフェスタin米子

地元商店街や鳥取県酒造組合、皆生温泉旅館組合が主催するもので、2年前から毎月末に行われており、地ビールと日本酒で米子市の活性化を図るのが目的です。 昨年はコロナウイルス感染に対して自粛要請が出されたためしばらく開催されませんでしたが、今回知事や市長の後押しもあり2日間にわたり盛大に開催されました。とはいうものの、感染対策を徹底するとのことで参加者はまばらで大声は出さないという状況で、昨年初めに参加した時とはかなりのギャップがありました。その中でも地ビールや地酒など美味しくいただきました。(2021.2)

2020 Miss SAKE鳥取代表

倉吉市出身サックス奏者MALTA氏率いるバンド演奏
奥大山の誇る銘酒「岩泉」(日野郡江府町大岩酒造本店)

生物界の生態

 私は職業柄人間だけではなく生きている生物の生態に大きな興味を持っています。動物行動や生態に関する知見を扱ったテレビ番組「ワイルドライフ(BSプレミアム)英国BBC作成が基」や、分かりやすいところでは「ダーウインが来た(NHK総合テレビ):以前の生き物地球紀行、地球不思議大自然」などが好きで昔からよく見ていました。これらでは最新の撮影技術を駆使し、数々の迫力映像で生き物の素晴らしさを伝えています。テーマは「食うか食われるか」という動物同志の生存をめぐる戦いや、メスを確保するためのオス同士の戦い、子供を育てる母親の自己犠牲的な努力など、自然に密着した生物の種々の生きざまです(図)。根底にある思想は英国の生物学者チャールズ・ダーウイン(1809-1862)の進化生物学で、全ての生物種は共通の祖先から長い時間をかけて進化し、この原動力となるのが自然選択・自然淘汰(同じ生物種内で生存競争がおこり、生存と繁殖に有利な個体はその性質を多くの子孫に伝え、不利な性質を持った個体の子供は少なくなり、その適応力に従って自然環境がふるい分けを行う)になります。現在ではダーウイン説の解釈は少し異なりますが、これらの番組を見て確かに感じるのは「生物行動の根源は、自分の遺伝子を残すように優秀な配偶者や家系を求め、その生殖を確実にして強い子孫を作ることに全力を尽くすことである」ということです

ロッキー山脈にて、メスをめぐって戦うビッグホーンのオスたち

アフリカサバンナで狩りをするチータと、その子供たち。愛する家族のために巨大な水牛にも立ち向かう。

熊の親子。献身的な愛情が感じられる。

 我々の身体は1個の受精卵から全ての細胞が分化して臓器が出来上がります。このうち大部分をしめる体細胞といわれる細胞・臓器は個体を維持するものですが、これは1代限りで死んでいき次世代には遺伝しません(図)。これに対し遺伝し種を維持する細胞は生殖細胞系列といわれ、体細胞系列とは別の系列に属します。受精卵から分化した胎児には初期に卵黄嚢という腸などを入れておく組織があり、この一部に原始生殖細胞が出現して後に体幹部に移っていき性染色体によって精巣か卵巣に分化していきます。その頃には既に出生後に成人して自分の子供をもうけるために必要な細胞やゲノムが用意されるのです。不思議ですね!!  

 その後思春期に成熟した精子(父親)と卵子(母親)が受精した場合、減数分裂という特殊な細胞分裂を経てそれぞれ1セットずつのゲノムをもつようになります。一般の体細胞が細胞分裂する時には元の細胞とDNA量も染色体数も同じ細胞が2つ出来ますが、生殖細胞系ではそれぞれ半分ずつになった細胞が出来るわけです。このようにして受精によって発生が始まる次世代の子供は精子(父親)と卵子(母親)からそれぞれ受け継いだゲノムを持つようになります。地球上に出現して以来、生物は遺伝的に多様な次世代を数多く生み出すという方法をとっており、特定の個体の生存のためには必ずしも有利ではありませんが、環境変化への対応や病原微生物との戦いなどを考えた場合、種というレベルで生物を永続させるために実に有効な手段と言えるのです。かくして生殖細胞は自分の種を保存するために巧妙なメカニズムを獲得するに至ったわけです。これに対し体細胞が持っているDNAは次世代に遺伝することはなく、遺伝子の突然変異によっておきる胃癌や大腸癌、その他の病気はその個体が死ぬと遺伝することは無いのです。(2021.2)

図 人を構成する細胞のライフサイクル(前野正夫、磯川桂太郎:生化学・分子生物学。羊土社、より)

生殖系細胞の発生。(ムーア:人体発生学。医歯薬出版より)

細胞や器官の発生

 私は、小児外科を専門としております。扱う病気のほとんどは身体の発生異常で、お母さんの胎内にいる間に起きます。では、私たちの身体の細胞や器官はどのようにして出来上がるのかご存じでしょうか。今回はごく簡単に人体発生について述べてみたいと思います。

 私たちの身体はいくつもの臓器から成り立ちますが、それを構成する組織は200種類以上、さらにその成分の細胞は37-70兆個にも及びます。その最初の細胞はたった1個の受精卵(精子が卵子と受精したもの)であるのです。驚くべきことだと思いませんか?!(私は学生の頃この生命の神秘に大いに感動しました)。この性質のため受精卵は全能性の細胞と言えます。その後受精卵は細胞分裂を開始し、2分割、4分割と卵割を行い、桑実胚を経て子宮内膜に着床して胎盤が出来ていきます(図)。その過程で内部に杯盤胞腔という腔(体の中で空になっている部分)を形成し、それに偏在した形で内細胞塊が出来ます(図1赤枠)。これはのちに内胚葉、中胚葉、外胚葉の三胚葉に分化する能力を持つ多能性(Pluripotent)細胞で、後述するようにそれぞれ決められた組織や器官に分化していくのです。これらは組み込まれた(プログラムされた)遺伝子の情報に従って順序よく正しく行われていくのです。不思議ですね⁈(2021.1)

受精卵は分裂を繰り返し、2細胞、4細胞から桑実胚を経て子宮内膜に着床する。(白澤信行:新発生学、日本医事新報社、より)

幹細胞(ES細胞・iPS 細胞)

 最近よく話題になっている幹細胞について述べます。ES細胞やiPS 細胞などです。Wikipediaによると幹細胞(かんさいぼうStem cell)とは、分裂して自分と同じ細胞を作る能力(自己複製能)と、別の種類の細胞に分化する能力を持ち、際限なく増殖できる細胞と定義されています。発生における細胞系譜の幹(Stem)となることから、名付けられています。ES(Embryonic Stem Cell)細胞は初期胚の内細胞塊から取り出し、その未分化性を保ったまま培養下で増やし樹立した細胞で、胚性幹細胞(Embryoは胚という意味)と呼ばれ、成体のどのような細胞でも生み出せるものです。一旦細胞が分化を始めると後戻り(脱分化)は出来ません。分化によって機能的・形態的な変化は起きるのですが、細胞個々のゲノム(生物が正常な生命活動を営むために必要な、最小限の遺伝子群を含むひとまとまりの染色体)や遺伝子情報は当初の受精卵と同じで何ら変化していないのです。このため分化が進行した体細胞でも遺伝子発現の制御状態を巻き戻したり、リセットすることが出来ないかと考えられ、人工的に初期化(リプログラミング)したのが、かの有名な山中伸弥先生が作成した、iPS (induced Pluripotent Stem Cell)です。Inducedとは人工的に誘導したという意味で、人工多能性幹細胞とか誘導万能細胞とかに訳されています。山中先生は、マウスの繊維芽細胞(皮膚にある細胞)を用い、初期化を促す転写制御因子(遺伝子DNAにある情報がRNAに写し取られる過程を転写といいますが、これを促進したり抑制する蛋白質)をコードする遺伝子セット(山中因子と呼ばれる3-4個の因子)によりiPS 細胞を作成するというノーベル賞受賞に至る偉業をなされました。これにより多くの難病の再生医療や創薬、種々の臓器作製に寄与していることは皆さんもご周知のことと思います。

 話を人体発生に戻しますと、幹細胞の性質を持つ内細胞塊(図1,2の赤枠)は二層性胚盤から三層性胚盤となり、順に外胚葉、中胚葉、内胚葉と形を変えます。これらの運命として

・外胚葉は神経管(➡中枢神経、網膜、松果体、神経下垂体などに分化)と、神経堤(➡脳神経、知覚神経節、副腎髄質、色素細胞などに分化)を形成する神経外胚葉と、表層外胚葉(表皮、水晶体、内耳、歯などに分化)とになります。(図)

・中胚葉は内側から沿軸中胚葉(➡骨格筋、骨、真皮、結合組織などに分化)、中間中胚葉(➡泌尿生殖器系に分化)、側板中胚葉(➡内臓の筋と結合組織、循環器系、副腎皮質などに分化)になります。 ・内胚葉は呼吸器系(➡気管、気管支、肺の上皮部に分化)と、消化器系(➡消化管と付属線、膀胱などに分化)になります。(2021.1)

受精卵からの発生と分化。三層性胚盤より三胚葉構造となる(前野正夫、磯川桂太郎:生化学・分子生物学。羊土社、より)

外胚葉、中胚葉、内胚葉の分化。(白澤信行:新発生学、日本医事新報社、より)