3月 2022のアーカイブ
おにえび
足立美術館(島根県安来市)
留学中の病気
NIH(米国国立衛生研究所)に留学中の福山医療センター消化器外科加藤卓也先生が、米国の医療事情で困った経験を述べられていたので、私も辛かった経験をお話します。私が留学していたピッツバーグは加藤先生がおられる東海岸のメリーランド州ベセスダからシカゴ方向の内陸部に少し入ったところにあります。先生の手記を読むと私が留学していた30年前と事情はそれほど変わっていないことに今さらながら驚きます。1例を挙げますと、私の長男が当時1才ちょっとでやっと歩き始めた頃に、手足口病にかかってしまったのです。この年代に多く、コクサッキーウイルスなどによる水疱の多発する感染症です。喉や口腔内の炎症がひどくかなり痛く、ミルクは勿論、ご飯(といってもパン食)が食べれないのです。私が勤めていたピッツバーグ小児病院に最初連れて行って知り合いの感染症小児科の医師に診てもらったのですが、キシロカインゼリーのような局所麻酔剤を投与するだけでした。なかなか飲み食いできるようにならず、1-2日後には脱水のため眼球が陥凹し、皮膚もかさかさし始めたのです。それで私が当直している夜に病棟に来させ、看護師さん達に抑えつけてもらってNGチューブ(鼻から胃の中まで通す栄養カテーテル)を入れて、リンゴジュースやミルクなどを注入しやっと改善しました。この時は正規のルートを通さず、勝手に病棟の処置室でチューブや注射器などを使い、看護師さん達に相談すると「Toshi。Never Mind。We saved your kid。(トシさん。気にせんでええよ。赤ちゃんが助かったから、それでええやん)」と言ってくれ、医療費を払わずにヤミ診療をしたというものです。というか、看護師さん達の精算など手続きが邪魔くさかっただけのようでしたが(笑笑)。 加藤先生は同じアパートに耳鼻科の日本人医師が耳鏡を持っておられ助かったと書いておられますが、私は向こうのライセンス番号を持っていたので、病院のPriscription(処方箋)に薬の名前(例えばTylenol:解熱鎮痛薬アセトアミノフェン)とサインをして家で発行していました。ピッツバーグに住んでいる日本人の駐在員さん(SONYやSharpなど)や子供たちが日本人学校で知り合ったご家族の方がひっきりなしに、夜や休日には私のところに来ておられました。病院であればひょっとしたら処方作成料がもらえたかもしれませんが、代りに鹿児島の芋焼酎や青森の地酒、手作りのお寿司を頂き今となってはその方が数段良かったと思います。ある時名前は言えませんが有名な彫刻家が夜中に急にお腹が痛くなってのたうち回っていると電話があり、駆け付けてみると腹部全体が板状に硬く反跳痛があり(腹膜刺激症状)、急いで大学病院のERで知り合いのレジデントにレントゲンを撮ってもらうと、フリーエアーがあり十二指腸潰瘍の穿孔で緊急手術をしてもらったこともあります。個展の前でストレスが高じておられたようですが、ご自慢の彫刻作品を頂き今も大阪の家に置いております。(2022.3)