2022年6月11日鳥取大学室内管弦楽団の定期演奏会が米子市で開催されたので紹介します。これは米子キャンパスにある医学部(医学科、生命科学科、保健学科)学生から構成される楽団ですが、鳥取市湖山にある農学部や工学部の学生は地理的に練習に来にくいので、団員数も限られこじんまりしたものです。授業やクリクラに来られていた医学科6年の元コンサートミストレス(ファーストバイオリンのトップ)波田裕理絵さんや、医学科4年生の梁郁弥さん(セカンドバイオリントップで団長、図)と礒邉悠さん(チェロトップ)達に「先生、是非聴きに来てください」と誘われました。「曲は?」と聞くとベートーベンの「エグモント序曲」と「交響曲第5番(いわゆる『運命』)」とのことで、最初「若い故の無謀な連中やなあ」と高を括っていました。ところが、実際に聴いてみるとレベルは非常に高く、現在のコンミス看護学科の昌司澪奈さんを始め、弦楽器奏者は指や弓の動きがほぼ完璧で、木管、金管楽器も端麗でかつ迫力のあるアンサンブルを楽しめました。2020年と2021年は自主的に演奏会を中止。今年やっと開催にこぎつけたもので2年間の無念さをはね返す素敵な演奏会でした。前述の梁郁弥さんは楽団の団長ですがバイオリンを高校から、礒邉悠さんはチェロを大学から始められたとのことで今やそれぞれセカンドバイオリン、チェロのトップ。同じく大学から始めた私とは雲泥の差を感じました。またかつて岡山大学学生時代に全学オーケストラのコンサートマスターをされていた、小児科の難波範行教授は同楽団の顧問を務められており演奏に参加されています。私は前顧問で現在松江医療センター脳神経内科に勤務されている中野俊也診療部長とともに客席で聴いており、公演後はいつも行くお店にて3人で食事をしながらコアな討論会を夜遅くまでやってました。以前同じ店で鳥取大学名誉教授の新倉健というクラシック作曲家の方に偶然に隣合わせになりました。神奈川県生まれで武蔵野音楽大学と大学院で作曲科専攻、1981年に鳥取大学教育学部に赴任され、その後鳥取大学地域学部附属芸術文化センター教授(作曲・指揮)を務められています。日本作曲家協議会、国際芸術家連盟に所属。何故か私のことを知っておられ話が弾みました。このように鳥取県は芸術文化を育む環境にあり、私にとっても音楽仲間が多くて楽しいところになっています。(2022.7)
7月 2022のアーカイブ
国家と音楽家
「政治家が料亭通いをすると批判されるが、芸術を愛好していると好意的に受け取られる。コンサートやオペラ、歌舞伎などに行くことや芸術を保護・支援した政治家は批判されることはない。」という序章から始まる、作家中川右介氏による「国家と音楽家」が2022年2月に発刊されました(図1)。音楽家は最初国家のプロパガンダとして利用されたが、後に国を追放されたり粛清されたり、また逆に国家に迎合して自分のために利用したクラシック作曲家や演奏家の実像を描いたものです。「音楽に国境はない」と言われますが、大きな壁を感じた音楽家は数知れなく存在し、文中にはヒットラー、ムッソリーニ、スターリン、フランコ等の独裁者、ケネディ、ニクソンなどの政治家が登場します。これに対してフルトベングラー、カラヤン、カザルス、ショスタコ―ビッチ、ルビンシュタイン、バーンシュタインなどの音楽家達が登場し、国家や民族間の大きな壁によって迫害され、それに屈服、或いは抵抗した各人の生きざまが描かれております。(2022.7)
音楽の訓練
何故音楽家は年少から楽器を始める方が良いのか、について疑問が湧きました。一般に脳には神経細胞(ニューロン)があり情報の伝達と処理に特化した細胞と考えられ、それらが手を伸ばして連結してシナプスという回路を形成します。胎児期には脳の発達が大きく、複雑な回路網が出来上がっていきます。その後胎外に生まれると環境によって様々な刺激に遭遇するとその時に使われる回路は強く太くなりますが、使われない回路は消滅していき人間は出生後様々な世界に順応していくわけです。すなわち、英語圏で育った子供は英語を覚えて理解ししゃべり出しますが、日本語は全くわからないといった状況になり、ある人は小さい時からの訓練で超絶的なバイオリンを難なく弾けるようになる。ある人は空中に張られた細いロープの上を逆立ちで歩いたりするようになります。図に出生後の年令ごとの脳波の発達状況と脳重量の推移を示します。勿論指の関節が曲がりやすいといった身体的な柔軟性は考えられますが、いずれにしても胎児期からの延長として生後急激に脳が発達し、この増加は乳幼児期に極めて著しくこの時期の訓練が重要だということが分かります。中学生くらいからその速度はほぼプラトー(平坦)に達し成人になっても発達する余地は十分あるのですが、どうも梁さんや磯邉さんと私の違いは練習を真面目にしたか、サボり気味にいい加減にやっていたかにあるようです。(2022.7)
脳波の発達と脳重量の変化
Lindsleyによる脳波の周波数(点線…)と脳重量(実線―)、正常下限の脳波(点鎖線―-―)を示す。脳の発達は乳幼児期までが著しい。(馬場一雄:小児生理学)
クラシック小噺
ニューヨークのマンハッタン7番街近くの路上で、ピアニストのアルトウール・ルビンシュタインが道行く人に「カーネギーホールにはどうやって行けば良いのですか」と尋ねられた時こう答えたという。「練習して、練習して、さらに練習してください」。カーネギーホールは言わずと知れたクラシックだけでなくあらゆる演奏家が目指す殿堂ですが、5年くらい前にニューヨークに行った時おのぼりさんの私は「地球の歩き方」に従っていとも簡単に到着できました。(2022.7)