クラシック音楽の世界でも禅の教えに影響を受けた作曲家がいます。それは「ジョン・ケージ」という現代作曲家でアヴァンギャルド(前衛)芸術に影響を与えた人です。彼は「禅と日本文化」などの著書を英語で記した仏教学者、文学者の「鈴木大拙」氏に影響を受けました。1952年ケージは「4分33秒」という作品を発表し、これは演奏者が全く楽器を弾かず最後まで沈黙を通すというもので、その時に会場から偶然におきる物音やざわめきこそ音楽の本質であるとし、音楽に対する彼の思想が最も簡潔に表現された代表作品です。その主旨を私は完全には理解していないのですが、以前はリズム構造の基礎となる単位の長さが時間の長さであったのに対し、最近の作品では長さは空間のみに存在し、この空間を通過するスピードは予測できないと分析します。クラシック音楽は古典主義から始まり、ロマン主義、表現主義、印象主義からセリアリズム(総音列技法)に至るまでは「音楽は何物かを表現しなければならない」とされていましたが、ケージはこれを否定し、音はただ音である、ただそれだけである。音楽は音楽ではない。だから音楽は音楽である。という訳の分からない考えを展開します。五線紙の音譜は表面の空間であって、音楽の論理とは全く無関係で、時空間の首尾一貫性は予測不可能であり、禅宗哲学が新しい作曲上の方向を促進するのに大きな役割を果たしたというものです。禅の「一即一切、一切即一」という概念、つまり空間的には全宇宙が一介の塵埃中に見いだされ、また時間的には永遠の時間が一瞬間の中に見いだされるというものですが、音楽にも予測できない偶然性を導入する必要があると結論し、上記の「4分33秒」が出来上がったのです。
皆さんは理解されますでしょうか。(2024.2)
第一楽章 Tacet (休み) 第二楽章 Tacet (休み) 第三楽章 Tacet (休み) |
ジョン・ケージ作曲「4分33秒」の楽譜