2021年夏、東京オリンピック・パラリンピックを観ていて、医療者の立場から幾つか感動する場面がありました。まず急性リンパ性白血病を克服してオリンピックに出場した水泳の池江璃花子選手。骨肉腫にて足を切断し義足にてトライアスロンに出場した谷真海選手。小児期におこる癌は成人に比べ極めて稀ですが、白血病や骨肉腫を扱った山口百恵、三浦友和主演のテレビドラマ「赤い疑惑」や阪大病院がモデルとなった吉永小百合主演の映画「愛と死をみつめて」が放映された半世紀前では、致死率が高い悲惨な病気という印象が強かったことと思います。しかしその後、化学療法や骨髄移植、幹細胞移植などの医療が進歩し、今では小児がんの70%は完治する時代になっておりますが、治療中の身体への負担と抗がん剤の副作用との戦いは熾烈なもので、これを克服して大会に臨んだ選手たちの努力には敬服したします。また、先天性四肢欠損症による運動機能障害の部でいくつものメダルを取った水泳の鈴木孝幸選手、戦争の爆撃で四肢を失ったイラクの選手など。視覚障害のサッカー選手は音の出るボールを頼りにプレーをします。音楽の世界では先天性小眼球症で聴覚だけで楽譜を暗記していたピアニストの辻井伸行さんは若干20歳の時にアメリカ、クライバーン音楽祭で優勝されました。我々小児外科医は新生児~小児期に器官や臓器の形成不全のために手術を行いますが、その後の患児の成長や発達能力の凄まじさに目を見張るものがあり、逆に彼らから「元気」をもらい小児外科医のモチベーションになります。さらにパラリンピックで活躍する選手を見ていて、失った機能を他の器官・臓器で代償する人間の能力は計り知れないものがあることが実感できます。いまだに水泳のクロールが全くできない私は、彼らの爪の垢でも煎じて飲みたいです。(2021.9)