初めと終わりを結ぶもの

 私は七十才になって商売を廃めた。漸く思索に全身を打ち込むことが出来た二年半の跡である。書き乍ら大きなまとまりをもつ力を失なった、老いのかなしさをつくづくと味わわざるを得なかった。不生不滅を出発点としたものである。勿論不生不滅というのが有るのではない。生命は形作るものであり、生死は形作る生命のはたらきの姿であるということである。生死を超えて始めと終りを結ぶ生命が自己自身を見てゆくところに生死があるということである。不生不滅とは、目を初めと終りを結ぶ生命に置くということである。私達の生命は私達もその中に働く歴史的形成の内容である。

長谷川利春「初めと終わりを結ぶもの」