燃え上る炎が風を呼び込みて風が炎を煽り立てゆく 春呼ぶと焼かるる草は萌し初む青新しき芽を持ちゐたり ひと冬を枯れたる草の焼かれゆきいのちはぐくむ光りの渡る 春を呼ぶ野の草焼ける煙立ち人交し合ふ小声の渡りぬ ひと冬を枯れたる草に火を放ち来らん春に人等向ひぬ 枯草を焼ける炎は畦走りいのちはぐくむ春近づきぬ ひととせのいのち了へたる枯草は撥ける音に火に包まるる 枯草を矢きて迎ふる原の春煙の中を人影動く 平らかな水と思ふに池堤薬莢いくつ転がりありぬ 一陣の風吹き来りたちまちに池は修羅なす波打ちはじむ 原稿紙机に置きてつくづくと学ぶことなく過し来りぬ 冬ながくひそまりおり土の中わらびは陽を浴び出て来りぬ 天に向く白きはなびら日に透きて木蓮の花競ひ咲きたり 冬の土夜に凍ておりこの下に萌し出ずべき万の種子棲む 去年生えしところに同じ草萌す生きゐるものは日々新たにて