世の中の知らぬ命をはしらせて逸らせて酒の喉下りゆく
重なりし水のひかり交し合ひ扉を開けし瞳に展く
重なりし水のひかり交し合ひ冬の朝の明けて来りぬ
霜の禾冷えに鋭く戸を開けし我に争ひ襲ひ来りぬ
夜の間を樹液が運びしふかき青朝顔の花開きて居りぬ
文字綴る力の未だありたりと点滴の管外されし後
三合の米にもならぬ程の落穂老婆は手はかかり拾ひぬ
枯れ果し原に瞳の遠くして空を分てる稜線濃し
日の光り一日届きし棰の枝久しぶりなる素足に踏みぬ
足交互に出して行ければ結構と日向に腰を掛けゐる は
移りゐしいのち極まる原澄みて曝れたる草の白く輝きぬ
枯れてゆく草に追はるる身をもてば言葉をもてば冬の陽浅し