地平より吹きくる風を一杯に吸ひて満たる胸に歩みぬ
明日死ぬか知らぬ命は常に見る山新しく玄関開く
足運ぶ今の首の尊く流れゐる水と歩みを合せゆくかな
渡る陽に苔の増しゆく青き色命は今を営みてをり
時ながき悩に体歪みしが神経性の難聴と書く
本町のところどころの駐車場こわせし跡を区切り名を書く
ところどころ家こわされて朽ちし枝くずれし壁に本町のあり
押し合ひてせいもん松に集ひたる記憶重ねてぱらぱら歩む
うどん屋に並び待ちゐし人の群還るはあると思へず歩む
映画館量販店と変りたる建物壊され砂利を敷きたり
濁りたる水平かに雲映し昨日よりの雨そりたるらし
照る月と流るる雲の争ひて更けゆく夜の窓に嵌りぬ
常に見る日差しを溜むるなざりにも巻く風ありて窓を閉しぬ
十二時となりてふらりと立上る未だ空かざる腹をおぼへつ
熟れて落ちつぶれし柿も新たなるいのちを生まんをのずからにて
増してくる冷えに瞳の締りゆき空は刃金の光りもちたり
身を締むる冷えに瞳の遠くして空は刃金の光りもちたり
わが思慮の届かぬところに身のあるをしみじみとして覚え臥しをり
他をけなす声の次第に高くして女等手振りも加へはじめぬ
くさりたる落葉沈めて溜る水青く濁るは死の色をもつ
はるか遠くはるかに遠く飛ぶ鳥の入りゆき透ける空のありたり
届かざりし柿の実二つ夕焼と紅を競ひてそらにかかりぬ
健かな脚ある内にと希ひたる死にてありにし壁を伝ひつ
深みゆく霜が染めゐる草の紅少し廻りて群るるに歩む
葉の散りて明るき林虫などの居らざる歩みすたすたとして
食ひ過ぎを慎まねばと思ひ居り腹の満ちたる意識を持ちて
豊か故ひもじさありと止めらるる酒瓶並ぶを眺めて過ぬ
吹きつける風に抗ひ立ちて居り本読みながく坐りゐたり
一つまみ程青き草あり後枯れて堤の景の今日も変らぬ
茜差す溜りが見えて閉せしが間もなく障子蒼く移りぬ
水草の朽ちしを底に沈ませて眼窩の如く冬の池あり
朽ちし草沈みて水の底黒くわが顔写るは捕はるに似る
山と山迫れの間に草を刈る人動きをり小さなる腕
年永きかなしみ蓄むるにあまりにも細き体ぞ女泣き伏す
捕はれてわが顔あらぬ水草の朽ちゐて黒き水の底ひに
絵の鷹はわれを見をり描きたる人が伝へん研ぎし眼に
易るとこそ伝へて道土風狂の変らぬかんろうに描かれゐたり
天地の肇まる力伝へゐて鷹の眼は描かれてをり
頭に巻く布上げ口に挨拶を言ひて寒風に歩みのはやし
食ふために生れ来たかと思はせて料理番組テレビに続く
生きるために食べるとおのれに戒めぬ料理番組テレビに続く
青ふかく露草咲きてすみとほる果なき空の青と向き合ふ
噴き出でて火花の走り鍛冶工は削る鋼を当ててゆきたり
平かな水に雲影移りゐて冬は乱さん生物のなし
整はぬイメージがイメージこわしゐて電子社会の本を閉しぬ
霜に枯れ咲く木蓮の花のあり母植えられは母の思ひ出
閉ぢ合へる氷に凍てし冬の朝いきいきとして光りはしりぬ
枯草に円な露は結ばぬと朝の原を歩みゆきつつ
円かな露を置かざる枯草と朝の原を歩みゆきつつ
雪煙上げて仔犬の走りゆき原は新たな一斉の白
起き出でて朝の冷えを知る腰に行かねばならぬ時計を眺む
承けて来し枝一つづつ奪はれて老婆は漬物撰びて居りぬ
草枯れて下に溜れる水の透き原は夕へと移りゆきたり
八王子神の御名のみ残りゐる痩せたる土を歩みゆくかな
唇を尖がらしてゐる相似形熱きおじやを並び食べをり
とけそめし霜まるまりて露結び天つ光を宿しゆきたり
土深く茎を保ちし冬葱の洗はれ白く艶もち並ぶ
永き冬護らん梢の厚き皮空に光りを争ひ並ぶ
金色に公孫紅葉の極まりてこの荘厳に散りてゆくべし
もののいのち極まるところに死はありと公孫樹黄夕陽を透かす
極まりし公孫樹黄葉の散りてゆく木は惜しまざり我は惜しみて
一日をこもりて出来し歌幾首読み返しをり外は雪降る
朽ちて来し村の神殿集めたし宮の瓦も欠けて来りぬ
村中の神殿集め祀りたる宮も板古り欠けて来りぬ
必死といふ言葉のありきこの頃の若者使ふことを好まず
草枯れて平らな冬の径となり歩巾自在な歩みとなりぬ
散りさけし魚は芝生に跳ねてをり水を求むるおのずからにて
同化作用営むものの傘型に梢並びて冬の山あり
吹く風が運びし砂丘こまやかな砂なだらかに光り渡りぬ
審議拒否採決強行くりかへす茶番劇にて面目のため
かくしもつ殺意曝きて包丁の刃先鋭く照されてをり
殺すため裂くため人の作りたる包丁光り並べられをり
ブランドの素敵なマフラーと言ひし口何着せもらふ駄目なのねえ
更けてゆく空を掲ぐる月光りわれは一人の影法師置く
家陰の形くっきり霜残り原は輝く光渡りぬ
草枯れて露はとなりし深き谷突き出る岩の影あらあらし
縁側に陽の当りをり冬されば坐りて毛糸編み居りし母
枯れて来て変らぬ姿に草の葉はおだしき冬の光りを返す
セーターを解きて帽子に編み直し冬日に母は出でてゆきゐし
降る雨に笹の濡れ来てかたつむり動かん角を伸ばしはじめぬ
寒き風防ぎてかくす頬かぶり冬の田に見ゆ過ぎし親しさ
飛び立ちし鳥に枯葉の落ち来りいのちを抱く山のしたしさ
敷きやりし紙食ひ千切り雨空に散歩させざる犬は過しぬ
枯原の展開ぐる白に目を上げて薄るる雲に日輪学ぶ
刈られたる稲田の広く渡りゐる秋の日差しにいこひゆきたり
一年の営をへし稲の白は冷く冬の陽差し受けをり
明らかな山の梢をあらしめんガラスの露を拭き取りてゆく
檻の中の獅子は大きな欠伸せり噛み殺したき退屈もてば
読み返し傍線引きて消してをり消すはたちまち十首をこえて
枯草の沈みて瑠璃展ぶ冬の池透明空に渡りゆきたり
夢に来し母の許せるほほえみにあかときの目をみひらきてをり
ペンの数ふえてノートの文字ふえぬ机の上に頬杖を突く
蒼き水底を知らねば魔の棲むと古人言ひたり祖母の言ひたり
この山に鬼女棲みたりとかつかつに食ひて生きしを伝ふるならん
牛の玉の由縁問ひしが昔からと池の堤に紙札を立つ
一本の杉の木立てり永き時蓄めて来りし幹の太さに
コンクリートの鉢に植えたる花の苗夏の無惨を路傍に置きぬ
不意に足かけて来りしつなぐ犬帰さぬ力を入れて抱きつく
昼食を一人が言ひて全員が腹空き会の旅行のありぬ
刈る人も刈らるる草も陽炎の一つにゆれて春の日の照る
平かな水に梢の映りゐて腑して眺むるものはくわしき
濡れて来て白き光りに枯原を直ぐく貫く舗道となりぬ
耕して得たる金にて買増せし田畑と祖母は幾度も言ひぬ
忘れゐしアルミの脚立枯草に光り走らせ冬の痩せたり
一夜にてかねもちの木の萎えたりと失なふものをもつものの声
打ち合ひて騒げる木末隣ゐていとなむものの必然なれば
青く澄む播磨山脈見てゐしが果なき空に瞳移しぬ
線香の煙くゆれる六地蔵我が家の香もたててゆきたり326
草枯れて畦が区切れる田の並び人は競り合ひ耕しきたる
四十億年以前に物はくりかへし自己組織化を進め居りしと
弾丸それし一糎程の命にて測るべからず死との距ては
熟れざりし無花果黒く乾きゐて過ぎたる我の生に関る
わが命囲へる皮膚をもちたればかなしみは外へもらさずにをく
庭隅に小さくあきし穴ありて知るべからざる内部をもちたり
アラブの神キリストの神と争ふもそこに石油が湧きて出る故
常に抱く滅びの慄へ事の無くノストラダムスの年の過ぎしも
子午線の町を訪ぬとバス頼み縁求むる人の集ひぬ
子午線が通れる故に子午線の通れる町を訪ぬと集ふ
枯萱のされしが白く揃ひゐて光れる風にそよぎゆきたり
抑へゐし襟を放して雲かげの風と去りゆく枯野を眺む
感傷も何時しか消えて葉の散りし林明るき歩みを運ぶ
雨水の溜りに雲の流れるを見てをり人も束の間の生
降り止みし溜りに雲の移りゐてこの世にあるは他者に関る
葉の散りて裸の墓石となりたりし寒きを眺めわれは立ち居り
逃れたき足の早みて風寒き道に帰らん歩みを運ぶ
まさやかに畦に区切れる田の並び人営みし歴史はくらし
冷ゆる日も土の暗きに営みしリボスの角芽出でて来りぬ
舗装裂き出でて来りし草の芽のやわらかなるを畏みてをり
流れゐる水は草にと消えゆきて明日を知らざるわれの止まりぬ
襟抑へ心閉せるわれとなり冷えたる道を帰り来りぬ
流水の運べるものに目は止めて僅に残る白髪のあり
夕映えは来りて我を包みしが影の黒きに残し去りたり
冬の雲重なり空に満ち来り支ふに細く木末立ちたり
水涸れてわずかに残る青き籐夏をはびこるあふみどろとこそ
坐りゐし距て狭めて語りゐし人等肯き立上りたり
並べらる目差しの窩の大きくて修羅に生きたる荒き海あり
明日の昼食はんと仕舞ひ置きたるを一つ味見て半ば食べたり
戸を開ける我と小舎出る犬の目と合ひしが風あり散歩を止める
冬の山掘りてうもれるけものらの山と一つの眠りもちたり
水底に光りの届き朽ちし草沈めてゐるをあばきて止まず
朽ちしもの底に沈めて水ありと届く光りのうごめきてをり
生きものの動くを見れば飛びかかる犬あり食はるる肉もちたれば
昼食べて満せし腹の空となるそのどんらんを愛し酒飲む
口開けて腹に落ちゆく闇のあり限りのあらず欲望すまふ
夜の廊下区切りて照らす灯りつけ眠らん室に我は歩みぬ
夜の橋の巾を灯りの照しゐて闇に流るる水音ひびく
行き詰る思ひは煎餅かじりゐて更けゆく室にペンを持ちをり
寺の名の残る地下より出でて来し飯碗などを埋め戻しをり
奥山の峯けぶらふは雪降りぬひしひし緊めてくる冷え
耕転機去りたる後に土盛りて粗き影なす変貌ありき
永遠を誰も変へるとおもをふに世間の噂告げて帰りぬ
倒産が亦ありたりと告げくるる己にあらぬ笑ひをもちて
歯応への確にかへるを我としてものを食べつつ本を読みをり
風が来て落葉のあらぬ道となりながき変転の歩みの運びぬ
中に簾がありとひかざる大根の常なき迄に太り来りぬ
食へざれはひかぬ大根のび上り日々に太るを憎む目に見る
与へても要らぬと言ひし幼なりきよう食ふようになりておりたり
水に触れ身を翻へし空に飛ぶつばくら黒き羽根光らせる
一せいに飛び立ちゆきし群雀羽音充ちたる冬空となる
雲低くこめて来りし街となり陰影淡く人の歩みぬ
灰色に雲こめ来り色淡き吾となりゐて通り過ぎたり
倒産をしたる商社のビル高く空抜き目に立つ社名掲ぐる
世を離る思ひは世も亦離りゆく切実にして会合に居り
剪定をなしゐる男てっぺんに届く梯子をかけてゆきたり
揺れゐつつ梯子を登る男ゐて見てゐるわれの脚がゆれゆく
たわひもつ梯子を平気で踏む男見てゐるわれのすねがふるへつ
冬空に羽音満して群雀翔ちてゆきたり一斉にして
目の前を猫が走りて買物の二つをすませ一つ忘れぬ
一人ゐる時の淋しさ潜めもつ女出会ひし肩を打ち合ふ
出合ひたる女は肩を打合ひぬ黙せる時より出でて来りし
倒産の 社は街並抜きてをり野望と破綻は背中を合す
命囲ふ皮擦りむきて血の出るを絆創膏にて修理なしたる
疑ひをもつ目鋭く大きなる開きをもちて画面の映す
窓ガラス打ちて唸れる風の吹き防がん構え祖より継ぎぬ
冬の日のすき透されて土黒く淡き日差しを蓄めてしずもる
頭より続くくちばし太くして鴉は塵場に舞ひ下り来る
近寄れる我を見てゐし大鴉まだ距離のある横を向きたり
長き日を稲が育ちし冬の土返して人は空気通はす
ガラス戸に昼を動かぬ雨蛙生きゐるものの喉を動かす
横向きし頚に刻めるしわ見えていつより斯かる太さのありし
閉したる冬の夕を風めぐりつぶやきなどを集めるがごと
生きの日の残り少なくなり来り庭の一木貴かりける
踏みて揺るる梯子を渡りくる男大地の如く足を出しをり
ひらめきて窓のガラスをライト過ぎひろげしままの原稿白し
半分に破りそれを亦半分に破りなかなか想まとまらぬ
ひらめきて過ぎたるライトを恋ひたれば再ひの闇にわれは立ちをり
草朽ちし土に草生え年を継ぎおのれ養ふいのち眺むる
真夜さめてうかび来りし歌一首忘れ去りしは出来のよからし
降りつみて白一斉の朝の雪歩み難しと扉閉しぬ
折々に障子を撫でる黒き影干せるタオルに風吹くらしき
渦巻きて樋門に水の吸はれをり落葉をもてる高原の池
抜かれたる樋門に吸はれゆく水は渦巻き拡げて音立て初めぬ
義経をジンギスカンにならしめし幻想いかなるかなしみの果
風と風木と木の打ち合ふ音ひびき暴風警報の夜更けてゆく
夏日差す海に集へる人無数一つの海に遊びもちたり
戦に山を走りし熱き血のめぐりし脚も細くなりたり
夜の空を挙げたる音に風荒び蒲団の中に手足小さし
口多き老婆が日向に並び居り顔合せては返すもならず
羽根急ぐ の窓を通り過ぎ夕映え凋み暮れて来りぬ
小さなる池と思ふに現はれて消えてゆく波限りのあらず
無人駅に園児等来り声溢る溢るるものよりもたぬその声
不意に出でし声にあたりを見廻して恥ずる思ひ出この街にあり
耕転の後つけてゐる鷺の群曲れるときに一せいに飛ぶ
坂道の途中にしばし止まりぬ年々足の衰へはやし
限りなく小さなわれとならしめて夜の空吹く風の りぬ
夜の空は一つの音に風猛り蒲団の中に我の小さし
濁りたる青きを拒む目となりて街裏の溝に沿ひてゆくかな
おもむろに霧退きて差す光りわれは日輪の歩み運びぬ
旅に出て一人の歩みもてるとき人の目幾重に囲む常なり
吠えてゐし犬が消えたる家蔭の底なき闇となりて更けゆく
頭垂れ今日生きてゐる歌作る大動脈瘤を内にもちたれ
壺立ちて壺の中なる闇のあり空虚な用として作らるる
新聞紙束ねてゆける過ぎし日のありて残らぬ記憶に立ちぬ
幾人の老婆が日向に並びをり憂ひのあらぬ忘られし顔
千両の赤が掲ぐる庭あかり冬の空気は澄みとほりたり
いたいいきし魚を殺さん羽を研ぎて差せる光りにかざしゆきたり
うららかにわたる光りを眺めをり電波過密の空間と聞く
他者拒む釘を打ちをり野良猫が出入りをなせる庭隅の垣に
千両は今日の紅掲げゐて冬の光りの澄みとほりたり
ふくらみて地雷に似たる形成し草は次々殖えてゆきをり
眠れざる時を惜めば起き出でて書斎の灯りを点もしゆきをり
月越せば破れ捨てらるカレンダーの美女ほほえみて我に向ひぬ
如何ならんもののあるかと首伸ばしガラス歪める映像なりき
明日に着る服整へて掛けてをり知らぬいのちと書きし手をもて
ひたすらに生きしおのれを肯へばわれゆえ貧しく生きし父母
ひたすらにおのれに生きてうから等を困惑させし経歴をもつ
尻上げてペダルを踏める少年は坂の頂き見つめてゐたり
枯れし葉は底に沈みて冬の水流るとあらず澄みとほりたり
木蓮の白きつぼみが挙りたり霜置く匂水母の植えたり
歩み来し野原の景色帰りたる室に言葉となりて整ふ
帰り来て散歩のイメージ整ふる室を言葉の工房として
整ふる言葉にイメージ鮮明となり来て室に散歩の終る
窓ガラス拭きゐし男去りゆきて山に梢のこまやかに立つ
わが知らぬわれの命を包みたる皮膚と病にたふれたる後
山並が囲ひてわれの村のあり果なきものは仰ぎ眺むる
年月が太り加へてゆくしわを刻める顔に我は見上げぬ
鋸に挽きて直ぐなる枝となし耳に挟みし鉛筆取りぬ
ながく引く声に鳴きゐる犬のゐて囲へる棚に肢を掛けをり
幼な日に遊びし山は草覆ひ杉木倒れて入るを拒みぬ
氷張る三日が過ぎてもやい立つ今日の日差しを歩みゆくかな
追腹を切るよろこびを記す遺書武門の面目ありたりし日の
おいしいと言ひて画面にほほえめるテレビ相似る顔をもちたり
手袋の手を握り緊めて歩む冷え氷は白き光りはしらす
仮借なく枝の剪られて陽の量の増えし葡萄の下歩みゆく
草を食む犬の欲るままに立ち止まり背中に温とき冬の陽満たす
つけらるる怯えに後を振向きて見えざる怯えに夜の道歩む
はしり出し妻の行く手に目をやりて曇る空より引く雫あり
腰上げてペダルを踏める少年は未来を駆けんとかがみ伸ばす
コンピューターが促す合併三人の社長は固く手を握りたり
三人の社長ほほえみ手を握る内の二人の降格すべく
合併に三社の社長手を握る人員淘汰の吹き荒るるべし
一人の社員に幾人の家族あり人員整理発表を報ず
ふくらみてきたるつぼみに目のゆきて忘れてゐたる梅の木ありぬ
草にじり土を抉れるわだち跡冬の夕べはそこより昏るる
蔭濃く茂りて居りし葉の散りて株は浅き光り遊ばす
爪切りに剪りて過ぎたる日々のあり机の上に散ばりてゆく
爪切りに剪りたる爪を集めをり老ひては捨てんにちにちにして
漫然と生きたる日々の爪の伸び切りしを捨てにゆくべく集む
棚に伸びて枝のぱさりと落ちてゆきさわに稔らす剪定進む
さわに得ん鉄の刃鳴り用捨なし葡萄畑に剪定すすむ
潮引きし砂に見えゐる穴の数底につななぐと浸みしは眺む
今日もまた刑事の大きく研ぐ眼映りて人の欲するは何