石の角正しく並び墓石は葉の散り落ちし冬山に立つ
石肌の冷えて居らんと距離をもつ眼に香黄もちて立ちたり
何の家も瓦輝き建ち並び戦知らぬ脚伸び歩む
戦の諾部などと書く文字も見えなくなりてよぼよぼ歩む
埋め立てて魚ら滅びし空間の人行き交す高きビル建つ
地球儀に赤く塗らるる細き島我の何処とペン先に指す
奪ひしと言はば言ふべし海なりしところに広く土を敷きたり
地球儀を廻してわれの在処指す住めば都よ地球の最中よ
落武者は斯くの如きか野焼せし樰の木棘の焦げしを鎧ふ
霞ひくはるかな山となり来りきらめく光り原にこめたり
登りつめし尺取虫は頭ふりそらに伸びしが下りはじめぬ
窓に鳴る風音空に走りゆき肩を屈めて扉開きぬ
うまし子をうごうと名付けひたすらに内なる闇に向ひゐたりき
粗き皮割れて老ひたる木に寄りぬいたはり合はん心さびしく
火と煙競へる畦を若者の姿はしりて冬草焼かる
はしる火に春を呼ぶ使い焼けてゆく枯れたる草の?になりけり
黒き灰畦を覆ひて去年の草焼けたる跡を歩みゆくかな
きらめきて春来る光りの差しゐるを農婦素直に眸に写す
未知の地は囲む山並越えあり散歩ににちにち歩む道ゆく
のぞき込み何買うたんと手に触れて還れる我に老婆の笑まふ
しろがねに春ふくらめる猫柳女活くべく鋏入れたり
茫々と白一色の霧の中凝らしてかすかな道に歩みぬ
覆ひゐる霧の中なる白き闇凝らしてかすかに歩む道見ゆ
枯草は呼びを挙げて焼かれをり葉を巻きくず折れ地に伏して
つづまりはコップの中の嵐とど思へど口を挟んでしまひぬ
噴き上り光り散ばす水見えて昇りしものは落ちねばならぬ
丸き苔踏みて歩めり目の限り追ひたる日々もかすみ来りぬ
ながながと老女祈れり悲しみにつながりゆける凝固せる顔
寒風に服のそよぎつ釣糸を垂れて一人の男立ちをり
さすらひて古代祖先は生きたりと一人の室に不意に思ひつ
吹かれゐし枯葉それぞれ落ち着きて舗道の風は冷えを増しぬ
この川に魚釣りたりき橋の上歩み通へる今も覗きつ
陽炎の立つ草畦を見てゐしが歩まん足のをのずからにて
茜差す光りとなりて水面魚は競ひて跳びはじめたり
辺りなき室に光りの渡りゐて眼は光りを命となしぬ
茜差す光りに魚の跳び初めぬ太古に陸へ移りゆきしは
茜差し跳びゐる魚は水離る光りと眼の関り知らず
茜差す光りに魚の跳べるときわれは内なる飛翔と出逢ふ
命よ命水の面に茜差し魚の跳躍おのずからなる
しろがねの鱗光らせ魚の跳び差せる茜は空に亘りぬ
日差し蓄めふくれし夜具のふかぶかとはやき眠りを誘(いざな)ふらしき
太陽の日差しにふくれもち温く弾むが体に添ひぬ
温き日差しの恵みしみじみと干してふくれし夜具に寝ねたり
白梅のふくらむつぼみ玄関にありて出てゆくわが目を洗ふ
霧こめて足許のみが見えてゐるわれとなりゐて歩みゐるかな
春の陽がペンの先より照り出でる字がどうしても浮び来らぬ
満目の原の緑を眺めをり獄の記録読み了へし駿
春近き野のきらめきを竹内ひさゑ言へりそれより心して見る
いつくると思ひて居りし日となりて如何に過しか記憶をもたず
昇りゆく凧を見上げし少年は空の高さに瞳置きたり
せきれいは己が姿の写りたるこうしに亦も飛びつきゆきぬ
一つだけとつまみし菓子が半ばなく食べてはならぬ蓋を閉しぬ
襟に首埋めて女歩みたり後は人見ぬ冬の風吹く
冬の日を溜めたる垣の温しさに人待つ時を過しゐるかな
きらめきを増しゆく空に春来り野原に今日の緑ふくらむ
目は止めて楓の木木の紅を差し春となりたる光り渡りぬ
こまやかに楓の梢差し交し艶もつ赤き樹液登りぬ
艶をもつ赤き樹液の登り初め楓は細き梢末組みたり
のぼりゐる赤き樹液に艶を増し楓の梢こまかく交す
戸を開き他者にむかはん背を伸ばす我となりゐて歩み出でたり
この花を愛し育てし人逝きぬ艶をもちゐるわかき紫
紫の花艶やかに開きゐて植えたる人の三年過ぎたり
暴くなく過し来りし秘密なぞ保ちし皮ふのたるみ来りぬ
冬の畦露はに礫白く曝れ蹴り得ぬ老ひし足に過ぎたり
窓ガラスにひらめくライトの間の遠くなりて眠らん夜の更けたり
みひらきし大きなる目が迫り来て殺人事件の画面の進む
一日の総括として更けてゆく夜のしずけさに坐りて居りぬ
更けてゆく夜にかすかな呼吸なす闇はあたりを包みて来る
発つ鳥の飛翔はかつてわが腕にありしや果なく青き大空
日を溜むるなざりのありて目の通ひ風吹く池の堤過ぎたり
白陶の狐が灯りに浮びゐて夜を祈れる人の動かず
置くつぼが堪ふる内の闇ありて一人の室に坐りゆきたり
澄とほる水の傍を歩みをり一期と言はむ今とし言はむ
澄む水の流れの起伏凛々と言葉輝き反りて来る
春の日を蓄むるなざりに人食ぶる土筆は土を被きもたぐ
枯草の秀のすり切れて春近し釣人歩む細き畦道
蒼黒く去年の腐れを沈めたる水底に青き新芽が覗く
食はれざりし大根土よりのり出でてきらめく春の光りとなりぬ
すき焼きにつぶすと人等語りをり負けたる鶏は片隅に立つ
煽られてビニールシートははためきぬ風の狂へるままに狂ひて
音響を受くる螺旋に耳の立ち頭脳に暗く穴下りゆく
新聞に幼児虐待の報せらる平和日本の象徴として
白梅の白鮮やかに照り出でて日差しの渡る空を見上げぬ
歩み来し足横たへてながながと犬は眼を閉しゆきたり
細き目を開けたる犬は亦閉ぢぬ温き日差しの庭にわたれり
脛の骨斯く大きくて病み長き男が杖突き歩みて来つ
暖かき日差しずかに土に沁む蓄めてはげしき命生ふるや
届きたる日差しの中に忘れゐし拡大鏡が光りを返す
照り出でて室の明るみ密密とあまれしたたみのいぐさの青し
捲き上り音立て壁にたたきつけビニールシートは風に揉まるる
全てみなさざめとおもうしずけさは細くなりたる食に由るらし
足跡のくぼめる雪の降り初めて証は斯の如くはかなき
辛うじて寒さに耐へて歩めるを声をかけられからだふるひぬ
休みなく動きて居りし蟻潜む土の上踏み歩みゆくかな
流れ出る汗の力威何時か失せ顔にハンカチ当ててゆくかな
積上げし過去の手なれに運転手わが目危く荷物積みゆく
更けて来て窓を固める深き闇眠りの中に入りてゆくべし
夜の灯に深く頭を垂れて居り成せしことなく過ぎし日をもつ
うまきもの断ちたる僧の直ぐき首我はうつむき表をひからす
つながりてはるかなものに届く目をもつと晴れたる星空見上ぐ
億光年眼の繋ぐわが在処至り難くて星光降りぬ
両手突き脚をふん張り立ちたるに坐るときにはへたへた早し
究まりは宇宙を包む我となり星の光りの瞳に届く
筧より流れて落つる水の音収めて庭の木蔭のふかし
癒へたりと思ひ居りしに起き出でて機能と変らぬ足に歩みぬ
皮膚一枚距ててもてる内の闇動脈瘤のネガを説かれつ
春嵐に操る鳶の滑空の拡げし翼おのずからにて
高く低く春の嵐を飛ぶ鳶の拡げしままに翼あやつる
朱の受益のぼりゐるらし差し交す楓の梢に春の日の差す
待ち兼ねしものの競ひにつくぼうし頭を出して春陽わたる
目の渋り退きて手足のおのずから伸びもち起きる時間となりぬ
一夜寝し手足に大きな伸びをなし朝の床に起き上りたり
いち日を立ちてはたらく誘ひに障子明るくわが目に届く
傘形に梢は空に拡がりて日差し受くべきネットを構ふ
吊り下げしズボンの脛の歪みをりひと日はきたるものの疲れに
臥す床と草畦歩む日々にして財布が月追ひふくらんでゆく
貫きて闇を走りしサイレンの内耳に残り闇に消えたり
去年の草朽ちて水底に沈みたる黒き中より萌し来りぬ
作りしは天皇なるか時匠時又奴れい甍の高く
菓子なぞを食べる時間に過ぎてゆきおのれ所在の問淡々し
撰ばれてこの世に出でしわれなると霧混迷の中を歩みつ
眠れぬは眠らず居れの忠心と思ひつ眠らん瞼閉ぢをり
男たるは鍋の蓋とることなかれ俺は男に一寸足らぬか
肥りたり間食するなと言はれ来て今日は饅頭半分に割る
赤青の灯り競ひて俄のあり大きな闇の覆ひゐる下
青き水魚の棲まずと泥少し底に溜めたる渚を眺めつ
純白の挙りし花に朝日照りこの木蓮は母の植えたり
白き翅突如現れ闇を飛ぶ虫はライトの光りに直ぐし
饅頭を食ひ了へてよりとめられてゐる間食に思ひの及ぶ
皮のみに残り朽ちる大き幹そのまま今年の若葉を萌やす
或る点に来し秒針が光りゐて人無き室に循りて居りぬ
拡げたる翼のままに鳶高く気流はそこに昇りゐるらし
一すじの土のくぼみて草の絶へ人の踏みたる体重ありぬ
揮ふ鞭奴隷の肌を破りゆき丹に輝ける高殿建ちし
いにしゑの小舎震はせる雷鳴に弥生の人は集り耐へし
目の届く億光年のはるけさよ星我を作らず我星を作らず
平かな水の面を見たる瞳に机の本を開きゆきたり
ぎりぎりの間食ひなるらりし啄みて居りし鴉は羽根を拡げぬ
今日ひと日如何に生きしか問へるとき氷の如く坐るわれあり
羽根を博ち尚啄みてゐし鴉近寄る我に飛び立ちゆけり
紫をあつめてすみれの花咲きぬ母なる日差しさんさんとして
雷鳴の空を震はせゆけるとき縄文人の小舎粗かりき
石斧に日の降るさらば縄文のだだむき隆く肉を置きたり
殻の中に養ひゐたる飛翔力蝉ははるかな森に渡りぬ
紙切りしナイフがたたみに光りゐて童等去りし室のしずけさ
殻脱ぎし蝉はしばらく這ひゐしがはるかな森に渡りゆきたり
むくみたる瞼に細き目となりてしばらく本を開きたるまま
刻みゆく刀の先に導きの大きな静けさ云ひてゆきしか
一刀を刻み手現はる御姿に三度拝みて成りたる像ぞ
たたみの目こまかに並び夜ふかし眠らん灯り消さんと立ちぬ
いくつもの谷より水の集りて東条川は水争ひき
大きなる静けさ希ひ一刀に三拝したる仏師ありたり
みずからの力を頼み振り捨てて夕の道の一人なりけり
空覆ふ緑の凱歌反し合ふ日差しに原の一樹立ちたり
道傍に黄の水仙の一つ咲き歩める人の言葉を誘ふ
打ちし水乾きてゐたり跡もなく舗道を灼ける日の照りつけて
霜に萎え伏してをりたる葉の立ちてたんぽぽ黄に照る花を掲げぬ
太陽に向ふ黄の花一斉に掲げて春の光り満ちたり
たんぽぽの黄に照り競ふ畦となり羽虫は空に羽根輝かす
何ものの動くと見えし草蔭に大き蛙の我を見てをり
春の陽の原に渡りてあふみどろ溝の表を領じ来りぬ
寝ねて唯伸ばせしのみの手足なり八十年のしわのよりたり
澄みわたる山頂の上天空の果なきが見ゆ見えざるが見ゆ
歩み来し山の奥なる岩や木の時経し中に我は立ちたり
手を合はせ尊く光る月なりき祖母や母等と仰ぎ見たりき
窓の灯の次々消えて外灯の淡き光に夜更けゆきぬ
映画館なりし建物こわされて失なひゆける若かりし日日
花の絵が澄みで小さく描かれゐて虫殺す指の圧に押へぬ
照り出でて匂ひ漂ふ菜の花のありて春原歩みゐるかな
亦一つ思ひ出消され映画館建ちゐし土地の?されてをり
拓きたる人に吹きたる涼風か荒れし棚田の草をなぎゆく
春近く己を切らん日の差して痛みに落つる放したる枝
しわ深き手に人生論を開きゆく頭の中の僅なる?
戦に植えて絞りし人等死に菜種は堤に今年を咲きぬ
かたはらを車のはしり木蓮のはなびら白く散りて落ちたり
引ける手にそこより切れて這ふ草は葉の節毎に白き根をもつ
競ふごと木蓮の花散り落ちぬ地に着く迄の白き光りに
ひんやりと目が覚め出でし廊の枝春踏む足となりにけるかも
拡がれる花火に花火打ち上りひしめく人となりて見上ぐる
みどり透く葡萄一粒口中に潰して解けぬ本に向ひぬ
タイヤーの沈みて動きし泥の跡乾きて深き蔭をもちたり
われの顔眺めて飽きぬ不思議さに暮れゆく窓に写りゆきたり
暮れてゆく窓にわが顔写りゐて見なれし筈を凝らす目となる
ブランドと言ひて触れらるアメリカの小市民趣味に組み込まるらし
酸欠に大きな亀が浮び来ぬ泥の底ひにながく生きしは
短かかる命といへど亀ならぬ人に生れて来しこと思ふ
流星は輝き虚空に燃へ尽きぬ我の選ばん命なりけり8
若き葉は日に透き空を指してをり地に落ちたるわくら葉いくつ
金の砂撒きたる如ききんぽうげ我は王者の歩みを運ぶ
晴れわたる空よりはなびら降り来り歩み止めて山並眺む
たんぽぽのわたとび散りて簡潔に茎は春ゆく畦に立ちをり
瓜の筋いたく際立ち来れるを切らんと呼べし指に眺めつ
引き寄せて車の走り目指しゐる山は雲間に高く立ちたり
ひしめきて言葉群るるに原稿紙の上に正しく並んでくれぬ
ぐんぐんと引き寄せてゆく富士の単車は風を巻きて走りぬ
百年の蓄めし日光ごうごうと風を鳴らして松の立ちたり
補聴器を買へとすすむる友のあり聞こへぬことを楯となしゐる
買物を下げゐる靴の音高く女階段を降りて来りぬ
むらさきの光りを集め春の野にすみれは花を開きゆきたり
説明をされゆく水の美しく底ひに光る石の白あり
美しいと言はれし言葉に澄む水の見えて車は山中走る
春の陽の一日照りてあふみどろ領域拡げしほとりを歩む
作るもののこころはぐくみゆくべしと思へることもごう慢にして
他者否む若き日ありき散りへりし全て相似る林を歩む
黄にもゆる葉をふり落とし公孫樹至りし冬の簡潔に立つ
二本足で歩みもちたる進化論解放されし手にて取り出す
掃除され整へられしたたみの上本を散らしてわが室とする
振るひれが掃きて通へる水底の砂にてあらん一すじ白し
冬ながく地にひそみし咲く花の爆ひるが如く乱れ満ちたり
とぼとぼと杖にすがりて老人は死なざる故の歩みを運ぶ
死なざれば己れに生くるほかなしと杖にすがれる老人見つつ
みずからの中に悪魔を見たる日よながき記憶のひと日とならん
星と目のつながるものを追ひゆきて宇宙の初めに思ひの至る
新しき溝つけられて傍の沼は泥積み草に挟みぬ
山草を分ちて風の吹きゆけば昔はさわに葦生えたり
高手小手針金にしばり鉢植の松並べられ育てられをり
餌を咥ふ雀を追へる雀あり生きねばならぬ命もちたり
うぐいすの声に止まりし山路にて深き若葉は光透きたり
ひしめきて溢れる人の中歩む瞳動かぬ一人の足に
さざなみに水の面に平らにて夕のもやに?のかくれぬ
結局は家に帰りて誰も皆同じく眠らん散会となる
去年と似る言葉聞きゐる開講式終る時刻を時計に眺めつ
わし無茶こうん無茶言ひよる知っとんねんがひコップ酒飲む夜更けてゆく
稲妻の走れる度に見合せる瞳となりて止むを待ち居り
庭石をたたきてしぶき降る雨の寺にてあれば大きしずけさ
知るとふは悲しむこころ増すものと歴史の本を閉したる後
癒へて来て呼吸整ふわれの日々神はしずかにあらんとおもう
脱け出でし蝉殻のごと歌作りひとりし居れば老ひのふかしも
今一度生れなほすかと問はるればわが生涯は罪多かりき
水求め山さすらひし戦の記憶のありて水栓ひねる
反すうをなしつつ牛はい寝ねてをりこなれをらぬを体内にもつ
もの掴む指に開きて手袋は春逝く納屋に忘れられをり
冬の?研き落されて忘られし鎌は草切る光りを放つ
雷鳴は還れる音に響き合ひはしりて還り轟きわたる
雷鳴は鳴りたるときより響き合ひ返し返しておさまりゆきぬ
釧に見しは羨望なりしかはた恐れ石室ながく閉されゐたり
ひとの言ふつまらん言葉はそれでよしわれより出るは我慢がならぬ
流れゆく滴に肌を光らせて裸の木々は冬を立ちたり
雷鳴は山と山とに轟きを返し合ひつつ空を覆へり
兵従きし跡は千里に人見ずと伝へて広き平原ありぬ
灯をしたふ虫のとびくる夕膳となりてビールの喉を洗ひぬ
朝顔の青あざやかに咲き出でぬ眠りのひまに育ついのちは
暗黒の闇がはぐらむ朝顔の朝の光りを開きたるかも
眠りゐるひまをはららく胃腑らあり朝さわやかに目を開きたり
飾られしひな人形は人形師幾代重ねし端正にして
細き首写して立てる白鷺は動く魚を計る目をもつ
白豪の光り放たぬわが眉間足の先迄満たす息吸ふ
届きたる歌誌読みおへてよき歌は我が作らねばならぬと思ふ
空伝ふ黄砂含みし雨乾き駐まる車は斑点をもつ
草の生え枯るるが如き歌の数命保つは斯くの如きか
尾の躍り背の波打ちて鯉幟吹きくる風を汲みゆきたり
手に持てるコップの水のゆらげるが机に置きてさだまりゆきぬ
昭和とふ年号記憶に新しき思ひのありて手のしわ深し
はるかなる塔先かすみ春の日の差しゐる坂を下りゆくかな
あの池に魚は今も居るかなと老ひたる足に坂登りゆく
亡き母と重ねたる目に木蓮のはなびら白く澄みとほりたり
トラクター草刈る音の響き合ひ原にぬくとき光りわたりぬ
灼熱の光りとなりて這ひ出でし殺さねばならぬ大量の蟻
葉の裏の白一斉にひるがへり迫れる谷を風登りゆく
暮れてきてかすかに浮ぶわが家見へ点もる灯りが闇押し返す
目を閉ぢて見えてくる闇朝顔の赤きつぼみのふくらみてゆく
春光に直ぐく伸びたる脚となり歩巾ゆたかに歩みを運ぶ
小さなる星と蛍の飛び行けば光りはいつもはるかにありぬ
目が覚めて朝新しき光り射し包む布団を揆ねてゆきたり
日日に土に落せる影ふかく若葉は張るの光り盛りぬ
差せる日とわれの体温一となり原のみどりの限りもあらず
朝が来て昼が来て夜となりてゆき布団の中に意識うするる
混沌の闇に身体を横たへて朝新しき目を開きたり
引寄せし布団の中に目を閉ぢて深きカオスの中に入りゆく