毒の針もちてゐる背の輝きて蜂は炎暑の屋根乱れ飛ぶ
パンツより汗のしたたりあごを出し男炎昼を走りゆきたり
頭ふり流るる汗を掃ひたる男再び稲田にこごむ
金持つは偉ひ思ひを引摺りてつばき飛ばして争ひて居り
水の上に開きゐる葉の濃きみどり渡れる風を深く吸ひたり
波打ちて緑の光り運びゐる風と堤の歩みを合す
靴下を脱ぎてくっきり織目跡つきたる足を風に任しぬ
陰白く動脈瘤が写り居り今日より付合ふ一つと眺む
如何ならん変身遂ぐる我なるかと動脈瘤の陰画見てをり
かなしみは神が潜める幕なりと言ひたる人の言葉肯ふ
上腕の内側の皮膚しわをもちたるみてをりぬ何うしようもなし
目は届く限りを求め透明の水の底ひにざりがに動く
入道雲杉のみどりに腰据えて伸びてゆく秀と激しさ競ふ
われの無事他人の難事何処かで引換えられてありしならずや
濡れてきて己れを主張するごとく黒あきらかな幹となりゆく
ふくれきてわれに背ける血管が爆けてやると脅しをり
香淳皇后斂葬の儀の営に昭和の世代終り告ぐると
衣服みなふくらみ舞ひてぶらんこの少女は空の一つに躍る
斂葬の儀式に昭和終りしと皇室とありし歴史の名残りは
青き山青き稲田を渡り来し風は胸底満しゆきたり
このところ追はれし人の恨む眼も潜めてダムの水平らなり
食べ残し置きし煎餅まがりをり高温多湿の半日暮るる
水青く湛へしダムに風渡り高層なすは地下人ならず
去年ありしあたりに爪切草の生えみどり透きたる葉を伸ばしゆく
地の中に今年につなぐ種子ひそめ爪切草はみどりを透かす
ながき日を重ね来りし大き樹の密密として緑陰をもつ
暗み来し室に窓開けのしかかる如くふくらむ黒き雲あり
生れ来し不思議に死ぬる不思議あり二つの不思議思へる不思議
花殻の下より青実覗かせて梅の木今日の営みをなす
波立てる故に流れの澄みとほり石光らせて谷間を下る