石積みし跡の散ばる山の上ここに秋葉の社ありたり
一望に村見ゆ山に祀られて火の神秋葉は朱く塗られき
このやまに砂運ばれて奉納の相撲取りたり小銭もらひき
奉納の相撲とりたる幼な日の酒に酔ひたる行司も憶ゆ
山も木も神のすまひしその昔祭りて酒に村人酔ひき
この山に神すまはせ祖先等のこころよ木々の緑さやけし
唄ひては酔ふを祭りとせし昔神と人とは一つ胃腑にて
村人の心に去りし山の神石魂いくつ跡をとどめる
我が世代過ぎたる後は散る石の何にありしか問ふもなからん
山も木も昔のままを神とせぬ我等の帰る返り見をせず
はや爪の伸びしがありて閉したる障子の内に一人坐しおり
憑かれたる目をせる女の表紙にて若き女は先ず取り上げぬ
大きなる音の夜半に不意にたち夜の闇そこに暫く動く
鴨の皆帰り去りたる岸を打ち水は澄みたる光りを湛ふ
はなびの地に散り敷き春盛るいずくど恋ふる牛の咆ゆるは
道教ふ少女の指のいや繊く夕つ光りに赤く染みたり
手に掴む砂の崩れをいく度も幼な童はくりかへしおり
花を切られ葉の黄ばみしアネモネは今日より乾く土にあるべし
削られてつら新しく映ゆる木に大工ためらはず墨糸撥く
しろがねの鱗光らせ鮒番ふ産むはいのちのたかまりにして
山獨活を手に入れたれば来よと言ふ呼ばはる声を暫し抱けり
雨止みし小舎より犬の出で来り我見つむるは散歩うながす
噴きつげる煙はふくらみ盛上り天に昇りて拡がりゆけり
水に写る影に小鳥のありたりきながく見上ておりし木の間の
吹く風の白き羽毛を分けゐるを白鷺は立つ池の畔に
山城は石組み並ぶこの石を担ぎ運びし人の背あらん
山城の険しく細き曲る径石を担ぎて人の登りし
知る人の音信大方電話にて郵便夫ごみを配達に来る
轢かれたる犬のはらはた露はにて我等ももてば血潮惨たり
雨止みて雲間に差せる陽のあらんダイヤガラスにシーツの白し
手を振りて少女笑へり知り合えることの歓喜は亦差し上げて
千年後に名を残さんも愚にてせなに差す日のぬくとさにおり
灯の下に踵の皮を削りおり歩みし戦亦出商ひ
時移り枯れて伏すると鶏頭の花の真紅の狂ひ燃えゐよ
おもむろに這ひゐる虫と距離つめし蜘蛛は一瞬飛びて捕へぬ
ひるがへる鮒の鱗は光りおり番ふ渚の草を揺りつつ
点しゐし昨夜の蛍は何処ならむ闇が抱きて庭の木々立つ
幸せと我を言ひおり我は唯生きゐる問を続けゆくのみ
とび立ちし鳥に見さけて南天の光りを返す赤き実のあり
にちにちに遊べる二羽の鳥のあり先に来て後に飛べるは雄か
金あるも仕方のなしと言ひたしと幾等出来てもお前は言へん
測量機据えたる互いの手を挙げて隧道抜くべき岩そそり立つ
弱る木の切られしことにこだはりて帰りの際に亦立止まる
凹凸のはげしくなりし舗装路を直すことなく村しずかなり
スピードを競ふ若きが追ひ越せるときしずかな我のありたり
人のみが他人の世話になることも蝉の骸の転ぶを見つつ
平安の故に移れる日々のあり一人留守居の怖れしずかに
藤の房垂れ咲きゐるも櫻花散りたる季の移りに見つつ
空高き雲雀の声の窓に降り下駄突っかけて歩み出でたり
一すじの煙と化する落葉にて庭に半年濃き蔭作る