平らかな池の面に撃ちたるは鴨か堤に薬莢散りぬ
解体の柱に煤の黒くしていぶける中に祖母炊ぎたり
白鷺は日に輝きて飛びゆけり水に映りて渡りゆきたり
梢ややけぶるはふくらむ芽にあらん歩みゐる背の日に温かし
小波のおさまり了へし水となり細き梢を木陰もちたり
小波の凪ぎたる水を白鷺の陽に輝きて渡りゆきたり
魚の骨昨日見つけし場所目差し放ちし犬は走りゆきたり
道もせに茂るクロバー人の踏む一すじ低く山に消えたり
ただよひて来る香りに見廻して白く先たるくちなしありぬ
漂ひて来るかほりにおのずから吸ふ息深く沈丁花咲ありぬ
にちにちに青さ増しゆく畦道の今日はげんげの花が開きぬ
灰色に朝より雲の低くこめたんぽぽは今日の花弁を閉じぬ
餌は妻運動は我の犬の世話二人で寄れば妻にとびつく
枯れし草萌しゐる草たたずめるまみ締まらせて吹ける風あり
スピードをあげし車の走り過ぎげんげの花はそよぎていたり
にちにちに堤の草の青さ増し連れ来し犬は風と走りぬ
吹き来る風に目を上げ山と空分かるるところのすみとうりたり
限りなく残るものなどあらざれば無縁仏は親しく立ちぬ
いのち終る唯それのみの清しさに無縁仏は墓隅に立つ
地の色なべて消えゆく夕まぐれのみどに熱き酒を欲せり
おとなしき男が酔ひて呼べるも我の裡なるさびしさにして
白く塗るガードレールの輝けば裡に唄へる死者のあるべし
枯るるべく伸びゆく草と思ほへば暫らく風に共に揉まるる
暴動の南アのニュース見来し目を池の面の平らに置きぬ
平らかな水に突き出る葦の葉の日日に領域増して来りぬ
冬原の草の枯れいて露はなる土にもいつしか押されししずけさ
万の花透かして点る電燈の百の明りに桜花咲く
枯れし草白く伏しいて量低く池の堤は移りてゆきぬ