ぎっくり腰 

病まざりし吾に痛みを知るべしとぎっくり腰を与へ給ひぬ
寝返りを打つことすらも怖れにて仰向き真夜を目覚めてをりぬ
咳の出る喉の予感に怯へつつ痛みに耐へん手足を構ふ
底のなき痛みに怖れ向ふとき神よ汝に作られてあり
かすかなる動きに激痛はしりゆき知るべからざる身体をもつ
電撃の如き痛みに耐へて坐し壁を伝ひてトイレに通ふ
帰り来し外科医の息子がしっぷ薬痛み止めなど出してくれたり
身の中にどうすることも出来得ざる痛みのありて神にかかはる

ペタル踏む脚に突っ立ち急坂を若きら連なり登りゆきたり
澄みとほる支流の水もしばしにて大きな川の濁りに呑まる
壜の水区切りて透ける確かさに朝の卓にしずまりてをり
峯いくつ月に浮びてわが生きる大地は夜をしずもりてをり
癒ゆるのは日にち薬と人言へりのろのろとしてズボンをはきぬ
読まざりし本の並べる棚見をり後ひと月で八十となる
夕映へに水蹴り翔ちし二羽の鳩渡る茜にかくれゆきたり
柿の実の一つ残され日に映えて伝へ来りし言葉を守る
茂りゐし草の倒れて競ひたる茎の細きを露はに見せぬ
時間とは癒ゆる体が取戻す活力にして朝を起きたり

2015年1月10日