(重)山の辺の道紀行   十首 ほか

晴天となりたる事も善行の故にて高く笑ひさざめく
花見なぞ次の行楽奔放に拡げ合ひつつ車は走る
楠の若葉萌しつ落つるべき葉群は濃き蔭をもちたり
帽に陽の映えゐる三、三、五五の群古代の道は細かりしかな
山の峯重なり合える此処忍に神武迎へし人等のありき
背の森の未だ萌さぬ翳黒く景行陵は柵を閉せり
信楽の陶の狸に似ると言うあれよりスマートと自負しゐたるに
蹴り殺す相撲に昔はありたりき野見の宿弥の社に詣ず
花かざし大宮人の行きし跡昼餉の酒は差し交し飲む
コーヒーを長谷川さんと出しくるる大和大原春陽亘れり

目を閉ぢて我の知らざる我のあり友の一人の訃報が届く
夜更けし居酒屋に老ひし酔漢の喚ける憎し喚き得るよし
そよ風の流るるままに水光る原の平らな池に出でたり
闇に向き吠えゐし犬が我を見ぬいのちの在処互に知らず
仰臥して煤けし太き梁架かる逝きたる母の声祖母の声
手の玉の書かれし紙札さされいて睦月の池は祀られており

2015年1月10日