知的機能としての「音楽、歌」

 人間は類人猿から分かれて進化した結果獲得した高度な知的機能を有するのですが、知的機能の一つとして音楽や歌などが挙げられます。村上敬子先生や伏原金男氏など、音楽や歌の題材が多く、村上先生はプロ級のピアノ演奏技術を持っておられ、当初からその経験と幅広い知識を軸に音楽全般のことを述べられています。伏原氏はかつて岩垣博巳前院長が世羅町の古民家レストラン(伏原氏の奥さんが経営)を訪れてから万葉集を紹介されています。最初の紹介歌は「紫の名高の浦の靡(なび)き藻(も)の心は妹に寄りにしものを」現代訳:名高の浦の藻のように心はすっかりあの子に寄っているのだよ(巻11-2780番歌)。

奈良時代の様々な人々や平安貴族達は和歌を即興で作り、ヨーロッパなどではサロンで即興的に音楽を作曲して、それぞれ歌にして披露しあっていました。今も短歌や俳句の会、種々の音楽会などは色んなところで開催され人々が交流し、私は内外の音楽祭において人や音楽との触れ合いを楽しんでいます。人が集まるところには歌があり、そこから生きていることを実感する「楽しさ、喜び」が生まれるものと思います。(2024.8.8)

クラシック音楽川柳

先日面白い川柳がx(かける)クラシックというFM放送(サクソフォーン奏者上野耕平とモデルの市川紗椰が軽快なトークで司会をする)で紹介されていました。

ばあちゃんは入れ歯でカルメンギター弾く」カスタネットの音を入れ歯で「カタカタ」鳴らし、ギターも弾いてカルメンを演奏しているめちゃポジティブなスーパーグランドマザーがうかがわれます。

現代の石川〇木「たわむれに妻を背負いてそのあまり重きに泣きて1歩もあゆまず

健康的でほのぼのします。

(2024.629)

医師とピアニストの二刀流

 名古屋大学医学部を卒業し現在研修医として勤務する沢田蒼梧医師は前回のショパンコンクールで反田恭平氏、小林愛美さんたちとともに入賞しています。医師とプロのピアニストの「二刀流」を目指すとのことで、頼もしい限りです。しかも小児期に喘息に悩まされ、将来は小児科医になりたいと語っています。

(2024.6.29)

ラ・フォル・ジュルネTOKYO2024

 2024年4月に琵琶湖でのクラッシック音楽祭の話を書きましたが、その後5月の連休に東京でラ・フォル・ジュルネTOKYO2024に行ってきました。ラ・フォル・ジュルネとは「熱狂の日」という意味で、フランス西部の港町ナントで1995年、アーテイステイックデイレクターの「ルネ・マルタン」によって始められています。「一流の演奏を気軽に楽しんでいただき、明日のクラシック音楽を支える新しい聴衆を開拓したい」という目的で、500近い演奏会を低価格で提供するものです。この活動は全世界に広がり、日本へは2005年から開催され、2020年から新型コロナのために中止させられましたが、昨年からようやく再開。今年は実に100を超える有料公演と多くの屋外での無料コンサートが行われるに至ったわけです。その演奏レベルは非常に高く、小林愛実やケフェリック(ピアノ)、成田達輝やシャルリエ(バイオリン)など、内外でも著名な音楽家の多くを聴けて充実しました。特に音楽大学在学中など、最近の若い演奏家の情熱と演奏技術には目を見張るものがあります。中でも今回ユニークな企画として、「0才からのコンサーコンサート」というのがあり、乳幼児からコンサートを聴けるというものでした。乳母車で会場に入り、勿論保護者が一緒ですが、曲が始まると子供たちが一斉に泣き出し、別の意味での「合唱?」が繰り広げられたのです。(2024.6.6)

 乳幼児からの音楽教育の重要性は「音楽の訓練」のところで述べていますので、ご参照ください。

屋外での無料コンサート:売り出し前の若い演奏家のデビュー戦にもなる
0歳からのコンサート

琵琶湖音楽祭

4月下旬の連休に「琵琶湖音楽祭」に行ってきました。無料の演奏会もあり、レベルの高い演奏に酔いしれ、お昼にはキッチンカーも出ており、春の涼しく心地よい琵琶湖湖畔の自然の中、キンキンに冷え切ったビールの味は最高でした。5演目を聴きましたが、特に日本人のビオラ演奏者を含む、ドイツベルリンで活躍中の「レオンコロ弦楽四重奏団」によるヤナーチェクのクロイツェルは緊張感がみなぎり至福の時でした。2024.4.30

破壊的イノベーション

最近、マスコミなどで「破壊的イノベーション」という言葉をよく耳や目にします。

これはクレイトン・クリステンセンというアメリカの経営学者が提唱し「持続的イノベーション」に対する用語で、主にビジネスマーケットの領域で使われてきました。イノベーションInnovationとは日本語で「革新」と訳されており、新しい技術などの発明を意味します。このうち「持続的イノベーション」とは、簡単に言えば既存の技術などを大まかのフレームワーク(枠組み)は変えずにいわばマイナーチェンジをするものですが、これに対し「破壊的イノベーション」は、概念をほぼ根底から覆すことを指します。昔からコペルニクスの天動説(地球中心説)を覆す地動説(太陽中心説)、フロイトの精神分析法、マルクスの科学的社会主義 アインシュタインの相対性理論など、従来の通念を180度転換する画期的な発想でした。最近ではOpenAIによるChatGPTは、それまでに思いもつかなかった人工知能による生成システムで、これにより我々のデスクワークの多くが恩恵を受けております。

私が中学生の頃に始まった「題名のない音楽会」司会者の作曲家黛敏郎氏は、当時流行っていた「ニューミュージック」のある曲(残念ながら題を失念しました)の楽譜を解析し、これをビートルズの「Yesterday」と比較討論されました。番組では「Yesterday」の最初の数小節はそれまでのとは明らかに異なる斬新なメロデイーであるが、「ニューミュージック」のものは「都はるみ」の曲などこれまでの日本の曲のアレンジに過ぎない。「ニューミュージック」などと命名するのは「おこがましい」と一刀両断に切り捨てられたのです。そのことは黛氏の鋭い視線と言葉からこぼれるキラキラとした知性とともに今でも鮮明に覚えています。

題名のない音楽会」初代司会者 黛敏郎氏 とYesterdayの最初の3小節(Wikipediaより)

似たような経験をお話しますが、私が1990年代にアメリカに留学していた頃はバブル経済が弾けたとは言え日本の力がまだまだ強く、アメリカ自動車産業の半分くらいは日本車が占めるという時期でした。あるアメリカ人の看護師さんから「日本人は外国の模倣ばかりして自国の独特の発明は何もない」と言われたのに対し、この時だけは根っからの「愛国者」になり、ソニー社の「ウオークマン」は画期的なもので市場を席巻していると反論しました。しかしながら、考えてみると当時のテープレコーダーを携帯用に小型化しただけのもので磁気を使って音声録音するテープレコーダーを発明したデンマークのポールセンやフロイメルとは大きな違いがあります。2023年の雑誌Nature誌に「Japanese research is no longer world class — here’s whyという衝撃的なニュースが載っていましたが、日本のシステムの問題だけではないのですが、「破壊的イノベーション」を生み出すような発想の転換や努力などが必要でしょう。

また先日食事会で、ある看護師さんが「連休に東京に○○のコンサート」に行くと言っておられ○○は今流行の男子グループですが、私が知らないことを言うと「長谷川先生、○○知らないんですか。遅れていますね」と反論されたのです。そばに居た医師が「長谷川先生は趣味が高尚ですから」と意味のないフォローをしてくれました。日本人の「同調主義」には勿論良いところもあるのですが、高校生の時にある本で日本人は微分的な発想をするため解析能力が優れている。一方ドイツ人は積分的な発想が中心となり包括的な見方をするということを読んだことがあります。また本誌で私の原稿を読んでいただいているある高名な先生から「長谷川先生は優雅ですね.風流人ですね」とか「よく本を読んでいますね。暇人なんですね」などと言われ、ステレオタイプの分析をし画一的な範疇に分類してしまおうという傾向が、特に学識の高い人に強いように感じます。こういった日本の風潮も関係しているかも知れません。 さて、今年の4月から「医師の働き方改革」という制度が始まりました。医師の健康確保と長時間労働の軽減を目的に、余計な残業を無くし定時に帰れるようにということです。勿論患者さんの容態次第で帰れないということもあるのですが、多くの医師は「学会発表」や「論文執筆」に追われて病院にいる時間が多いのです。時間外にこれらを他から強制的にあるいは自らに課して行っているのですが、このように自分を締め付けないで自由な時間を作って家庭生活や好きな趣味に充てましょうとという風に変われば良いと思います。また先日東京都はカスタマーハラスメント(店員が顧客から受ける暴言や無茶な要求などのこと)の定義付けを行い、全国初の防止条例制定に向けるということです。これを病院に当てはめてみると「モンスターペーシャント」の抑制につながるかも知れず、今後これらの2つの新しい制度によって医師の働く環境や患者さんとの関係も良好に進むことが期待されます。

(2024.5.1)

変わった曲名

クラシック音楽の変わった曲名を集めてみました。

ベートーベン:ピアノ奇想曲「無くした小銭への怒り」

マーラー:歌曲「魚に説教する聖アウグスツス」

サテイ:ピアノ協奏曲「犬のためのぶよぶよした本当の前奏曲」

ロッシーニ:ピアノ独奏曲「ロマンテイックなひき肉」

(2024.3.14.)

小澤征爾死去

今年2月6日 世界の大指揮者「小澤征爾」さんが亡くなりました。

小澤氏指揮の演奏を聴かれた方は多いと思いますが、私が最も印象に残っているのは、ボストン交響楽団を振った「ブラームス交響曲第1番」です。これは1977年にドイツグラモフォンから出た名盤の一つで、NHK-FMで聴いたのですが早速LPレコードを購入し、今でも大切に保存しています。生演奏では2010年8月長野県松本市でチャイコフスキーの弦楽セレナーデ第1楽章だけを指揮されたのを聴いたことがあります(体調不良のため他は山田和樹氏、下野達也氏に交替)。この松本フェスティバルはサイトウ・キネン・オーケストラ(SKO)が1992年から毎夏行なっていたもので、桐朋学園大学で指揮者斎藤秀雄氏に師事していた演奏家たちが中心に行っており、小澤氏が統括されていましたが、2015年よりこの音楽祭は「セイジ・オザワ松本フェスティバル」に変更されました。余談ですが、斎藤秀雄氏は指揮科の指導教官で、癇癪もちで小澤氏は指揮棒で叩かれたり、楽譜を投げつけられたりを日常的に受け、ストレスで本箱を素手で殴りつけ大怪我をしたことがあったそうです。今では「パワハラ」として、マスコミや父兄会の格好の餌食になるところですが、その斎藤氏を慕って毎年世界中から多くの弟子が松本に集まってくるので、真の意味での「教育者」とは「全ての人に優しく平等に受け入れられる」ようなものではないのでしょう。

小澤征爾氏に関する本を2冊読んだことがあります、1つは村上春樹氏との対談をまとめたもので、文筆家と音楽家という異なる職種の2人ですが、それぞれ超一流の仕事をされており、お互いに共通したものがあることを冒頭で述べられています。つまり、①仕事をすることにどこまでも純粋な喜びを感じていること、②いつまでも若い頃と同じハングリーな心を変わらず持ち続けていること、③仕事遂行において辛抱強くタフで頑固であること、です。

もう1冊は「僕の音楽武者修行」というもので、神戸から貨物船に乗りギターとスクーターだけで単身ヨーロッパに渡り、プザンソン国際指揮者コンクールで優勝してから、カラヤン、ミュンシュ、バーンシュタインに師事し、渡米してシカゴ交響楽団、トロント交響楽団、サンフランシスコ交響楽団、ボストン交響楽団、タングルウッド音楽祭の主催などを経て日本に帰国するまでの生活を記したものです。苦労話でさえユーモアたっぷりに描かれており、小澤氏の音楽に対する熱情が伝わって来ます。

海外渡航については、現在では多くの日本人がかなり自由に諸外国に出かけていますが、文明開化を果たしたばかりの明治時代に、欧米の医学や知識を取り入れようとした、2人の偉大な医学者「森鴎外」と「野口英世」を紹介したいと思います。まず森鷗外は島根県津和野の藩医の家に生まれ、帝国大学(現在の東京大学)医学部を最年少の19才で卒業し、陸軍省から国費留学生としてドイツに5年間留学しています。その後鴎外は陸軍軍医総監に昇進し、人事権を持つ軍医のトップとなる傍ら数々の文学作品を書き、文筆家としても一流の活躍を遂げるのです。しかしながら、学問や芸術を迫害しているとして明治政府に抵抗し、学問の自由研究と芸術の自由発展を妨げる国は栄えるはずがないと一貫して主張しました。ただ、言葉が異なる英国で英文学を学んだ夏目漱石とは異なり、国境のある文学だけでなく鷗外は医学も学んでおり、自然科学は普遍的な領域なので、救われた面もあると思われます。

一方の野口は貧しい農家の長男として生まれ、幼少時に母が目を離したすきに囲炉裏に落ち激しい火傷のために左手が開かなくなったが、後に周りの方々からの支援により外科手術を受け、細菌学者となって大きな功績を挙げるというよく知られた医学者です。我々が小学生の時には偉大な学者という風に教科書で取り上げられ、立身出世してお世話になった周囲の方々に恩返しをするという、ストーリーになっていたと思います。実際にロックフェラー研究所の正所員、各学会の正式メンバー、東大の理学博士、京大の医学博士。各国の栄誉勲章、日本帝国学士院恩賜賞、勲四等旭日小綬章を受け、確かに偉業をなすのですが、そのやり方は偉人伝とはかけ離れたものです。例えば医師を目指す女子学生と婚約し、その持参金を渡航費に当てる、地元の恩師や友人から渡航のために今の価値で何億円も借金をするのですが、そのお金を渡航の前に料亭で飲み食いして散財するなど、数え切れない詐欺のような行為をしているのです。上記の婚約した女性に対して試験の前に頭蓋骨の標本をプレゼントして喜んでもらおうとしたようです。しかし研究に対する情熱はすばらしく、単身フィラデルフィアに乗り込んだ後、ろくに睡眠をとらずに研究、論文執筆に没頭。「科学の世界は何かを得ようと夢見ている時が花で、実際手にしてみるとその喜びは意外と薄いものです。それどころか、1つの目的が達せられると、さらにもう1つと新たな望みが生まれ、さらに自分を苦しめる結果となります。」と後に述懐しています。野口と鴎外はともに苦労をされているのですが2人に共通した点は世間知らずの無鉄砲さにあると思われます。

(2024.3.12)

ジョン・ケージ「4分33秒」

クラシック音楽の世界でも禅の教えに影響を受けた作曲家がいます。それは「ジョン・ケージ」という現代作曲家でアヴァンギャルド(前衛)芸術に影響を与えた人です。彼は「禅と日本文化」などの著書を英語で記した仏教学者、文学者の「鈴木大拙」氏に影響を受けました。1952年ケージは「4分33秒」という作品を発表し、これは演奏者が全く楽器を弾かず最後まで沈黙を通すというもので、その時に会場から偶然におきる物音やざわめきこそ音楽の本質であるとし、音楽に対する彼の思想が最も簡潔に表現された代表作品です。その主旨を私は完全には理解していないのですが、以前はリズム構造の基礎となる単位の長さが時間の長さであったのに対し、最近の作品では長さは空間のみに存在し、この空間を通過するスピードは予測できないと分析します。クラシック音楽は古典主義から始まり、ロマン主義、表現主義、印象主義からセリアリズム(総音列技法)に至るまでは「音楽は何物かを表現しなければならない」とされていましたが、ケージはこれを否定し、音はただ音である、ただそれだけである。音楽は音楽ではない。だから音楽は音楽である。という訳の分からない考えを展開します。五線紙の音譜は表面の空間であって、音楽の論理とは全く無関係で、時空間の首尾一貫性は予測不可能であり、禅宗哲学が新しい作曲上の方向を促進するのに大きな役割を果たしたというものです。禅の「一即一切、一切即一」という概念、つまり空間的には全宇宙が一介の塵埃中に見いだされ、また時間的には永遠の時間が一瞬間の中に見いだされるというものですが、音楽にも予測できない偶然性を導入する必要があると結論し、上記の「4分33秒」が出来上がったのです。

皆さんは理解されますでしょうか。(2024.2)

  
第一楽章 Tacet (休み)   
第二楽章 Tacet (休み)   
第三楽章 Tacet (休み)   

ジョン・ケージ作曲「4分33秒」の楽譜

坂本龍一氏:音楽と生命

先月フルート奏者の多久潤一朗氏のお母さんは、没個性的な教育をしていたと書いたことに対して、お子さんを育てていらっしゃる某女性看護師さんから反撃されたので、今回はそれを否定するようなある人を紹介します。

それは、あの有名な音楽家「坂本龍一」氏のお母さんです。東京生まれの彼はお母さんの薦めで世田谷区の自由学園系の幼稚園に通っていたそうです。そこでは幼稚園の園児全員にピアノを弾かせていたようです。また教室の透明できれいな窓ガラスに水彩画を書かせたり、夏休みに週替わりで「ウサギ」の飼育を園児宅でさせたりしていたということです。今なら、父兄たちからウサギには犬のジステンバーのような感染症が無いか調べさせたり、何回目かの予防接種証明を持ってこさせたりしたことでしょう。さらに9月の新学期に先生から「ウサギの世話をしてどうでしたか。その時の気持ちを歌にしてください」と、無茶苦茶な課題を出されたということです。

その坂本龍一氏は2023年3月に亡くなりました。中国の人民服を着てテクノカットという髪型で、イエローマジックオーケストラにて、当時斬新と思われたシンセサイザーなど電子音を取り入れた現代音楽を作り出し、いわゆる「テクノポップ」として一世を風靡しました。しかし「戦場のクリスマス」などのポピュラー音楽を作曲した彼の音楽にはクラシック音楽が基本にありバッハとドビュッシーに大きな影響を受けていたことは驚きです。現代音楽のうち電子音楽はシュトックハウゼンにより広められ、ミニマルミュージックはステイーブ・ライヒ、フィリップ・グラスらによって開拓されました。シュトックハウゼンについては昔大阪万博の時に確かドイツ館で曲が流れていて、当時中学生だった私も奇妙なシンセサイザー音楽に何故か惹かれるものがありました。ライヒは「イッツゴナレイン」「カムアウト」「デイファレントトレインズ」など徐々にずれていく位相に斬新さがあり、グラスはメトロポリタン歌劇による「アクナーテン」「サテイアグラハ」などのオペラを世に出しています。両者とも現代人の感性にフィットしていると感動して聴いています。

坂本氏は平和運動など多彩な活動をしておられましたが、今回医学との関りについて、少し紹介します。2023年3月に生物学者の福岡伸一氏と「音楽と生命」という対談集を出され音楽学と生物学という異なる視点から共通するものについて討論されています。この課題は非常に難しいので改めて論ずるとして、今回はごくさわりを述べます。まずすべての事象を人間の考え方、言葉、論理という「ロゴス」と人間の存在を含めた自然そのものを「ピュシス」と区別します。そして、これらの「ロゴス」と「ピュシス」が対立しているとし、ピュシスをできるだけありのままに記述する新しいロゴス、より解像度の高い表現を求めることをあきらめないこと、そのためにこそ音楽や科学や美術や哲学がある。分化と思想の多様性がある、と論じています。(2023.12)

多久潤一朗氏のオリジナル奏法

皆さんは多久潤一朗氏というフルート奏者をご存じでしょうか。東京芸大を卒業、日本クラシックコンクールフルート部門で優勝され、映画「のだめカンタービレ」で首席フルート担当されています。最近ではフルートトリオ「マグナムトリオ」のリーダーとして国内外で活躍されクラシック音楽は勿論テレビドラマや映画の音楽、さらにアニメや「スーパーマリオ」などのゲーム音楽など幅広いジャンルの音楽を手掛けておられます。中でも驚くべきは自由な発想で多くのオリジナル奏法を編み出しており、管のある物なら何でも楽器にできる、例えば、横笛であるフルートの先の部分から縦笛にして演奏、チクワに横穴を開けて演奏しています。

フルートとちくわ:両端に穴が開いているので吹けば音が出る

我々の行っている科学研究は何度繰り返しても同じ結果が得られる、再現性に価値を置くものですが、音楽はそれとは反対です。1回しか起こらないところに「オーラ」があり価値があり、芸術は複製されるとオーラが失われるものです(ワルター・ベンジャミン)。1回限りの演奏は即興Improvisationとも言いますが、Wikipediaによると「即興:型にとらわれずに自由に思うままに作り上げる、作り上げていく動きや演奏、またその手法のこと」とあります。多久氏の演奏形式はまさに「即興」といえましょう。

多久氏は幼少の時、1本のたて笛を与えられて、救急車、チャイムの音を笛の音で再現していたそうです。その時いわゆる「真面目(教科書的な考えが支配的な)」な教育ママのお母さんから、酷く怒られて様ですが、リベラルなお父さんには「何故もっとやらないのだ」と逆に諭されたようです。さらにこのお母さんは「私が恥ずかしい思いをしているのよ」というジコチュウ発言をされています。この教育ママに完全屈服していたら今のようにフルートの概念と常識を破るような輝かしい活躍をしていなかっただろうと思われます(ただし素晴らしく育てられたお母さまの悪口を言うつもりは全く無いのでご理解を!)。

同じく音楽家で作曲家の池辺普一郎氏は幼少期身体が弱く、小児科医から「この子は20才まで生きることが出来ないでしょう」と言われたようです(昔の小児科医はこのような根拠の無い無責任なことを平気で言っていたことに驚かされます!!)。このため読書にいそしみ、家にあったピアノを独学で練習していたようです。ところが20才になってもなかなか死なない、それどころか東京芸大作曲科に入学。卒業後、11個の交響曲や数々の協奏曲など多くの前衛的な現代音楽を作曲されています。これは幼少期に型にはまらず自由に独学で勉強されていたことが基礎的な力になっていると思われます。

昔から既存の思想を覆すような新しい学説などを打ち立てた様々な「天才」たちは、幼少期からいわゆる「優等生」ではなかったようです。(2023.12.6)

「ブギウギ」人形

NHK朝ドラ「ブギウギ」、先月から始まっていますが、皆さん見ておられますか!

「東京ブギウギ」などのヒット曲を出した歌手「笠置シヅ子」をモデルにしたドラマです。大阪出身とは私も知らなかったのですが、我々が学生の頃阪大病院があった大阪市福島区の風呂屋の娘として育った主人公が「ブギの女王」として成功していくという痛快ドラマになっています。作品は全体に歌や踊りに溢れストーリーとともに飽きない内容で、特にドラマの最初の軽快なテーマ音楽と異様に首が長い奇妙な人形とCGによるイントロが特徴です。「怖い」「気持ちが悪い」「朝から気分を害する」など否定的な意見が多い中で、私は試みと斬新な試みとして興味を持って観ています。

少し前NHKテレビで亡くなった美空ひばりさんを画像的に生き返らせて歌や踊りを披露するという番組を放映していました。これはNHK局やレコード会社に残る沢山の音源、映像をもとに、AI技術によって目線やひばりさんの特徴的で嫌味な口元を歌唱とともに巧みに再現したものでした。私は最初「ブギウギ」の人形ダンスを見たとき同じようにすべて生成AIがCGを駆使して作っているのだろうと思っていました。ところが、NHKの違う番組ではイントロで「手作りの棒遣い人形」を5人くらいの人形師が棒を操って動かしているとのことで、ほとんど手作業で制作していると聞いてビックリしました。

さらに最近では「初音ミク」など、AIを搭載したバーチャルシンガーが登場しており、作曲家渋谷慶一郎氏は、人間ロボットのアンドロイドにコンピュータ音楽を歌わせてボーカロイド・オペラを発表し、西洋文化の人間中心主義の極致ともいうべき「オペラ」という形式に敢えて挑発するような試みをしておられます。しかしながら今後「ブギウギ」の人形のようにこれがまた回りまわって手作りの操り人形に替わっていくかもしれません。(2023.11.10)

楽器博物館

ベルリンフィルハーモニーホール近くにある「楽器博物館」。ちょうど人が少なくドイツ観光で穴場の1つでした。バイオリン、ホルン、ハープ、パイプオルガンの初期における原器。

バレエダンサーの現役医学生

 今年も暑い夏に悩まされました。年々最高温度が上昇しており日本でも39℃を超える地域が見られたようです。

 そのような過ごしにくい毎日ですが、ちょっと爽やかな話題を提供します。

 現役鳥取大学医学部6年生でバレエダンサーの「河本龍磨」君です。鳥取市出身で、兄と姉がバレエをやっていたことに影響され、彼自身も4才からバレエを習い始めたそうです。メキメキと腕を挙げていき、地元でも有名となり、高校生の時にロシアの有名な国立ボリショイバレエアカデミーに短期留学されています。

 ボリショイバレエはモスクワにあるのですが、サンクトペテルブルクにあるマリインスキーバレエとともにロシアの代表的なバレエ団で、19世紀末にチャイコフスキーが「眠れる森の美女」「くるみ割り人形」「白鳥の湖」という3大バレエを作曲し、20世紀最初にデイアギレフによるロシアバレエ団「バレエ・リュス」が結成され、この2バレエが旧ソ連の黄金時代を築いてきました。ニジンスキー、ヌレエフやバリシニコフ、アンナ・パブロワ、20世紀最高のプリンシパルと称えられたプリセツカヤなど、多くのバレエダンサーが輩出されています。

 このようなところに短期間でも留学された河本君は素晴らしい経験をされたと言えます。バレエ以外でも野球やサッカー、ホッケー、水泳などスポーツには万能であったようで、「スポーツ医学」に興味を持つようになり、その結果鳥取大学医学部医学科に進学されました。医学部に入ってからはさらにバレエに熱中するようになり、解剖学や生理学を勉強するようになってからはバレエをしている時に「この筋肉の作用は?」「骨の動きはどうなんだろう」「この動きをすると怪我をしやすいかな」などを考えるようになったそうです。しかし、こんなことを思いながらバレエを踊っているダンサーがかつていたのでしょうか?ちょっと尋常ではない印象を持ってしまいます。

 医学部に入ると1年生の2019年にはベルギーのアントワープ王立バレエ学校に短期留学され、2019年第29回全国バレエコンクールInNagoyaシニア男性部門優勝、2021年第8回山陰バレエコンクール県知事賞受賞、2022年第25回NBAバレエコンクールシニア男性部門第2位、今年8月11-13日全日本バレエ協会での公演をこなされるなど輝かしい成績を残されています。

 医学部では授業や実習がみっちりあり、病理学や薬理学などの基礎医学、内科学や外科学などの臨床医学等、新しい知識を身につけなくてはいけなく、結構忙しいのですが、どうやってバレエと両立させているのでしょうか。ある時バレエの公演と試験日程が重なってしまいパニックになったようですが、彼の選択は「今回の試験は棄権して、再試験に全てをかける」ということでした。

鳥取大学医学部医学科6年生 河本龍磨君。現役バレエダンサーとして活躍、将来はスポーツ医学を専攻したいとのこと。かつてのロシアのダンサー「ニジンスキー」を彷彿とさせる??。

 彼によるとバレエダンサーにおける運動器の障害は無理な屈曲進展を行うため①足関節、②中趾骨や外頚骨障害、内反小趾などの足部、③腰椎の順に負担がかかるそうです。以前本誌において「演奏家医学」という分野があることを紹介しましたが、バレエダンサーにおける身体の不調を専門に扱った医師はいないため、彼は「スポーツ医学」、特に「ダンサー医学」を目指すということです。

居酒屋では普通の大学生でした。

 以前に紹介したように鳥取大学病院では作年4月に「スポーツ医科学センターTottori University Hospital Sports Medical Center: TSA」が開設されました。アスリートが持つ医学的な問題は、脳・眼・耳・鼻といった神経感覚器の障害、呼吸器、循環器などの内科的疾患、栄養バランス、ホルモンバランス、噛み合わせ、メンタルの不調など多岐にわたります。このような問題に対して迅速かつ専門的なサポートを行うもので、多職種が関わって行くものです。

 河本君にはこれまでの経験と旺盛な探求心を活かし、この分野でしっかり勉強して将来の「スポーツ医学、演奏者医学」の分野で世界を牽引し、コンクールで成績を挙げたように今後素晴らしい成果を期待します。(2023.9.1)

見逃し配信

コロナ対策として、他人と接しないようにという政策がとられて来ましたが、ある番組で「ヒトがヒトと群れる時には脳の報酬系が働き快楽物質であるドーパミンが出て幸福な気持ちになるが、長期にヒトから離れ孤立するとこの報酬系が低下し、対人恐怖が増加する。情報だけを共有しても感情の共有が出来ない」という趣旨のことを言っていました。このことが動物においても実験で証明されたというのです。確かに人間関係を築く上では弊害ばかりのような気がしますが、一方でテクノロジーの発達により極めて便利になったなあと思うことがあります。

その1つが各種学会などにおけるWEB会議と、私にとってはこの上なく嬉しい企画、ラジオやテレビの「見逃し配信」が大きく発展したことです。私はオペラやクラシック音楽ファンなので、これまでは聴けない観れない放送はオーデイオ機器を駆使して「留守録(1週間丸ごと収録する録画機なども出ていました)」に依存していましたが、時に「留守録忘れ」、「放送予定に気が付かない」ことが重なり忸怩(じくじ)たる思いをしたものです。それがこの「見逃し配信」では放送後1週間はいつでも聴けるわけです。例えば音楽番組は「NHKラジオ、らじる★らじる」では無料で1週間のほぼすべての番組が聴け、スマホでアプリを取れば大阪の地下鉄でも山陰本線の鈍行列車の中でいつでも好きな時間に楽しめるという、極めて有意義なものです。他にもNHKプラスではテレビドラマ、植物学者牧野富太郎を扱った「らんまん」「どうする家康」田中みな実主演の「悪女について」(有吉佐和子の原作は読んだことあります)など、どこでも無料で見れるし、他局やBS、WOWOWの番組もOKのようです。

(2023.7)

福山国際音楽祭2023

 先日、福山で国際音楽祭が行われました。作田忠司リーデンローズ館長のご尽力により、指揮者準メルケルや尾高忠明など世界でも屈指の音楽家を呼んでこられ素晴らしい音楽祭でした。ホールの席もゆったりとしており、私が聴いた中では竹澤恭子バイオリンと江口玲ピアノの、特にアンコールで弾かれたビバルディ「四季(一部)」が分厚い響きで、あれほど感銘を受けた演奏も久しく無かったです。

(2023.6)

 「ブラームスはお好き?」

これはフランソワーズ・サガンの小説の題名ですが、皆さまご存知ですか?多分、読まれたことはなくてもフレーズくらいは聞いたという方は多いと思います。「さよならをもう一度」というイングリッド・バーグマンとイブ・モンタン主演で映画化されており、自立した女性ポール(バーグマン)がお互いを束縛しないという中年男性ロジェ(モンタン)と純粋で一途な青年フィリップ(原作はシモンでアンソニー・パーキンス演)との間で揺れ動く女性が主人公の物語です。私は中学2年生の時に友人と見に行きましたが、内容(特にポールの気持ちなど)は全く理解できませんでした。唯、全体に流れるブラームス交響曲3番の3楽章が様々に変化する甘美なメロディーのみ頭に残っています。

 

ブラームスはベートーヴェンの正統派の後継者として絶対音楽を守ってきた作曲家で、チャラいオペラなどの作品は無いのですが交響曲を4曲書いています。「ベートーヴェンの幻影が背後から行進して来るのを感じる」ためなかなか交響曲を作ることができず、最初の第1番を書くのに約20年かかった話は有名です。先日大阪フェスティバルホールでこの交響曲全曲をそれぞれ関西在籍の交響楽団とその専属指揮者が演奏するという、「関西人らしいどぎつい」企画が催されました。順番は交響曲3番→4番→2番→1番となり、1曲ごとに指揮者は勿論楽団全員が入れ替わるので大変ですが、写真撮影OKでマスク着用要請やブラボー禁止令は無く、かなり客へのサービスが行き届いていました。ただ、トータルの演奏時間は4時間を超え、どの曲も美しいけど重苦しいため、終わった時には「雷に打たれた」ようにどっと疲れが押し寄せしばらく放心状態が続きました。上記の「ブラームスはお好きですか?」というのは、サガンの原作小説では若く一途なシモンがポールとの最初のデートにさりげなく誘う手紙の一文にあります。舞台はパリの「サル・プレイエルホール(パリ管弦楽団などの本拠地)」というお洒落なコンサートホールで正装をしたカップルが美しい曲を聴くのですが、これを大阪フェスティバルホールにあてはめてみると4時間近く重苦しい交響曲を4つというどぎつい関西人の毒気に中てられて、果たして最初のデートがうまく行くのでしょうか。皆さんはどう思われますか? 

(普通 4つの交響曲連ちゃんには誘わないかと!!笑笑)

(2023.5)

ブラームス交響曲第2番を演奏する指揮者飯守泰次郎氏と関西フィルハーモニー管弦楽団

ウクライナ国立歌劇場「カルメン」と英国ロイヤルオペラハウス「アイーダ」

変異したコロナウイルスがまたまた猛威を奮っていますが、皆さんはお正月休みはどのように過ごされましたか?

私は感染対策を十分に行った上で、趣味の1つで道楽でもある「オペラ」を2つ観てきました。

1つは、ウクライナ国立歌劇場によるビゼー作曲「カルメン」です。ウクライナ歌劇場はボリショイ劇場(モスクワ)、マリインスキー劇場(サンクトペテルブルグ)と並ぶ旧ソビエト連邦における3大歌劇場です。以前キエフ劇場(キエフはロシア語、ウクライナ語ではキーウ)と呼ばれ、学生時代には歌劇場附属のオーケストラを聴きにいったことがあります。現在ロシアとの戦争の渦中にあるウクライナは、人口4000万人ちょっとと日本の約1/3ですが、肥沃な土地と恵まれた気候、水資源のため「欧州の穀倉地帯」と言われていることはご存じのことでしょう。この豊沃な資源と同様に、すぐれた音楽家を多く輩出しています。ギレリス、ホロビッツ、リヒテルなどのピアニスト、オイストラフ、スターン、ミルシテインなどのバイオリニスト、作曲家プロコフィエフ等、枚挙にいとまがありません。ただそのほぼ全員がヒットラーやスターリンに迫害されアメリカやイスラエルなどに移住し活躍されています。また第二次世界大戦中にキーウ近郊バビ・ヤールでナチスによる大虐殺を受け、昔から紛争の絶えなかった地域です。この事件を題材にしてショスタコ―ビッチは交響曲13番を創作し、暗く陰鬱な曲想によって民族の悲哀と迫害の偽善性や無意味さを表現しました。

「カルメン」の内容は周知のことなので詳しくは触れませんが、妖艶で美しい「カルメン」は自由で移り気なジプシー女で、これに翻弄される純情で一本気な竜騎兵の伍長「ドン・ホセ」が主人公で最後にはカルメンを刺し殺すのです。人が死ぬため「悲劇」として扱われますが、アリアが少なく「闘牛士の歌」や「ハバネラ」「カルタの3重奏」の舞曲風の歌、フルートとハープの美しい「間奏曲」などが有名で、すぐに口ずさみたくなるような「大衆性」に溢れています。

ウクライナ国立歌劇場による「カルメン」パンフレットより。最後のカーテンコールでは自由に撮影をしてよいと指示されていた。また「ブラボー禁止令」は出ていなかったので、以前の盛り上がりが感じられた。

もう一つは英国ロイヤルオペラハウスによるベルディ作曲「アイーダ」です。これは映画館での「ライブビューイング」として観ました。といっても2022年10月の上映の収録なんですが、ロバート・カーセンによる現代の軍事情勢を彷彿とさせる新演出で非常によくできていました。原本では古代エジプトを舞台にエチオピア人奴隷のアイーダがエジプトの将軍ラダメスへの愛と祖国愛の間で引き裂かれる悲劇です。カーセンは軍事力を行使する架空の大国を考案し、エジプト王(どこかの国家元首に似ていました)とその娘はそれぞれ明るい青、真紅のブランド服を身にまとっていましたが、その他の全員が軍服に身を固め、実際の戦争の映像を背景に映しだしていました。掲揚される国旗も赤と青地に白い★です。サッカーワールドカップなどで聴かれる「エジプト軍の凱旋場面」は大国の軍事行進を模倣し、最後に逮捕されるラダメスとアイーダは核兵器が収納されている地下室に生き埋めになります。ちなみにこの時のラダメスはTシャツのような濃い緑の軽めの服装でしたが、左胸の文様があるのかはっきり見えませんでした。 今回、新型コロナ感染に翻弄され、またロシア軍侵攻の只中にあって来日されたウクライナ国立歌劇場の公演と、大国を果敢に皮肉った歌劇「アイーダ」を観たことは得難い貴重な経験となりました。

ライブビューイング「アイーダ」 パンフレットより

みなさん 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

昨年クリスマスの時期には山陰地方で2回も大雪に見舞われ不自由な休暇を過ごしていましたが、今回新春に相応しい話題で新しい年を迎えたいと思います。

昨年12月に鳥取市で「Next Generation」という次世代アーテイストを発掘するコンサートが開催されました。対象は鳥取県在住のバイオリンを演奏する中学生、高校生で、難曲に果敢に挑戦されていました。中でも2022年10月に第43回全日本ジュニアクラシック音楽コンクールの弦楽部門で第1位となった米子市淀江中学2年生の坂口碧望さんは、バッハ「無伴奏パルティータ」とモンテイ「チャールダーシュ」を弾いておられました。受賞のことをその直前に新聞で知ったばかりで、目の前で本人の演奏が聴けるとは思ってもいませんでした。その他の演奏家もパガニーニ「カプリス」、サンサーンス「死の舞踏」、モーツァルトやシベリウス協奏曲など、素晴らしかったです。また前月号で紹介した「第九」のコンミスであった、湯淺いづみ(バイオリン)と岸本聖華(ピアノ)、福本真琴(チェロ)による若手アーテイストトリオによる、メンデルスゾーン「ピアノ三重奏」も均整がとれており、しかも情熱的な演奏で感動しました。

2022年12月鳥取市で行われたNext Generation:若きアーテイストたちの夢の響演

音楽関係に限らず若手の活躍ぶりは目覚ましく、12月には日本新聞協会主催第13回「いっしょに読もう―新聞コンクール」小学生部門最優秀賞を鳥取県岩美北小6年生、森川暖人君が受賞していました。5万7千人の応募からの最優秀賞です。内容は「化学物質過敏症」に関するもので、柔軟剤やシャンプーの香りなど、日常ある様々な化学物質に反応して体調を崩すことを調べたものです。将来はこの方面の科学者になるのが夢であると言っており頼もしい限りです。(2023.1)

第九米子公演会

年末と言えば、ベートーベンの「第九」。何故年末に演奏されるのかは諸説があり正確なことは言えませんが、村上先生が以前に紹介されたように、日本で最初に第九が演奏されたの徳島県の「板東捕虜収容所」でのドイツ兵による演奏会です。これには確かな証拠があります。

 鳥取県からは多くの文化人、音楽家を輩出しており、今回のソロ歌手でテノール担当の「山本耕平」氏。どこかで見聞きしたことがあるなと思っていたら、NHK「らららクラシック」という番組(俳優高橋克典やアナウンサー石橋亜紗、小説家石田衣良、作曲家加羽沢美濃らが司会していた)や「NHKニューイヤーオペラコンサート」に出ておられました。その時の記憶通りの方でした。その他コンミス湯淺いづみ、メゾソプラノ塩崎めぐみ、バス小鉄和広等、地元の方々のレベルの高い素晴らしい音楽を堪能しました。(2022.12)