進化について

 

パリオリンピックで日本の若いアスリートたちが活躍しており、その成長ぶりには目を見張るものがあります。最近マスコミなどが頻繁に「進化」という言葉を使っており、医学・生物学に携わるものとして少し違和感をもつところがあります。本来これは「進歩」というべきところですが「進化し続ける新オリンピック競技:スケートボード」「ますます進化していく世界の若手選手たち」「次はもっと高度なことが出来るゲームに進化させる」「○○玩具の進化系」など。生物学で扱う『進化』とは、本来目的を持って変わるものではなく、自然や環境に対して生存してきた個体群の形態における「結果」であるものなのです。Wikipediaによると、進化とは「生物の形質が世代を経る中で変化していく現象のことで、個体群内での遺伝子頻度の変化を伴い、個体内の発生上の変化である成長や変態とは異なるというもの」です。つまり、色んなものが突然変異的に作られるのですが、そのうち環境に適するものだけが偶然に生き残ったという考えで、最初からこれを作ろうとして作ったものではないわけです。また進化は環境に適するように変化したということでは、常に向上的に働くものではなく、暗い所に順応して目が見えなくなった「モグラ」は「退化」したことにはなりますが、これも進化のうちに含まれるのです。

進化のきっかけはやはり遺伝子の突然変異で、まずこれが起こるわけですが、ここでチンパンジーから我々人間の脳が巨大化して進化してきたメカニズムが最近分子生物学の面から解明されたので紹介します。人間の脳は先祖である類人猿、チンパンジーの約3倍の大きさがあり、このためはるかに高度な様々な機能を獲得するに至りました。ベルギーブリュッセル大学の鈴木郁夫博士が遺伝子解析から初めてこのメカニズムの解明に成功されています。2018年科学雑誌Cellにて「NOTCH2NLB」遺伝子を初めて人間のオルガノイド(幹細胞を使って作成されたミニチュアの臓器)にて発見されたのです。この遺伝子はアカゲザルやゴリラ、オランウータン、チンパンジーなどで発生しますが、機能をもつたんぱく質を発現する遺伝子NOTCH2NLA,B,C,Rは人間にしかなく、おそらく300万年から400万年前から徐々に進化して人間に発現するようになったということです。この遺伝子は神経幹細胞を誘導し自己複製の結果、脳神経細胞の発達に寄与したものと考えられます。(2024.8.8)

鈴木郁夫ら:Cell, 2018より 人間の祖先である類人猿のNOTCH2遺伝子からのNOTCH 2A,B,C,R遺伝子が複製されて新たな神経幹細胞を作る蛋白質が生成されたと思われ、これが脳発達の進化につながったのではないかと考えられる

医師とピアニストの二刀流

 名古屋大学医学部を卒業し現在研修医として勤務する沢田蒼梧医師は前回のショパンコンクールで反田恭平氏、小林愛美さんたちとともに入賞しています。医師とプロのピアニストの「二刀流」を目指すとのことで、頼もしい限りです。しかも小児期に喘息に悩まされ、将来は小児科医になりたいと語っています。

(2024.6.29)

子ども食堂

 先日鳥取大学医学部の学生と話をしていたら、「猫手Necote」というボランティアサークルが活動していることを聞き、早速取材に行きました。サークル部員は30人くらいおり、医学科や看護学を専攻している学生達から成り立ち、大学近くの一般社団法人「手と手TetoTe」といういわゆる「こども食堂」で活動しているとのことです。家庭や学校で居場所のない小学生から高校生までの子供たちとゲームをしたり、宿題を手伝ったり、食事を一緒にして「手と手をつなぐ」活動をしています。最近、「子ども食堂」は全国的に多くみられるようになりました。ここは家庭でも学校でもないもう一つの居場所。子供たちがそのままの自分で居られる場所を見つけるということですが、本来は家庭や学校で築くはずの自分のアイデンティティがそれ以外の場所でしかできないというのはちょっと違和感を持ってしまいます。家には遅くまで仕事で帰らないお父さんとお母さん、塾に行かされる自分など、現代日本の歪んだ構造が見えるような気がします。部長の大〇周君(医学科6年生)は兵庫県姫路市の高校の時から将来的には小児科医になりたいと猛勉強をして、鳥取大学医学部に現役で合格されています。「TetoTe」には不登校や発達障害など様々な問題を持つ子どもも集まって来、喧嘩もおこるが、まずお互いの話をしっかり受け止め、もがきながら大きくなっていくこどもの成長を「猫の手」のように、支え寄り添えるようになりたいと述べてくれました。将来良い小児科医になってくれることでしょう。

(2024.6..29)

米子市にある子ども食堂「TetoTe」

実験小説としての「源氏物語」

テレビの話題が続き申し訳ないのですが、今年NHKで「光る君」という大河ドラマが始まりました。多くの方が見ておられると思いますが、世界で最も古く長い恋愛小説の1つ「源氏物語」を著した紫式部の物語です。

昨年末「やばい源氏物語」という面白い新書が出版されていました。著者は早稲田大学第一文学部(競争率が高いが文系に特化した変人が多いので有名)卒業の大塚ひかりさんで、他に「毒親の日本史」「ブス論」「くそじじいとくそばばあの日本史」などがあります。

 著者によると「源氏物語」は当時としては画期的なものでまさに実験小説であるとしています。例えば、通常は美人を詳細に描写して登場させるのですが「ブス(大塚さんが述べておられるので、私はそれを引用しているだけです)」の扱いがヒドイ。美女の描写は実にあっさりしてますが、「ブス」の描写は異様に詳しく、「ブスの極み」というべき、3大「ブス」に「末摘花(すえつむはな:座高が高く、先が垂れて赤くなっている鼻、額が腫れていて痛々しいほど痩せている)」「空蝉(うつせみ)」「花散里(はなちるさと)」を挙げております。これでもかと言うほど徹底した描写をしておりますので、原文でも現代訳でもその個所を一度読んでみてください。また「霊」についてよく登場させており、それまでの物語では死霊は出てくるが、生霊(いきりょう)を登場させたたのは「源氏物語」が最初であるということです。当時は病気や精神的不調などは人に「物の怪(もののけ)」が憑いているとして、祈祷により生きた人から霊を追い出したりして病気を治していたのです。今のように抗生物質も抗がん剤がない時代ですが、祈祷で治癒する病気というのはストレスなどの精神的な要因が主だったような気がします。物語の中で紫式部は、様々な霊を「生きている人間が良心の呵責によって見られる幻影」であるとし、六条御息所の生霊が光源氏の正妻「葵の上」に乗り移ったのは、光源氏が過去に行った御息所に対するやましいことに起因する幻影であるとしています。その他、愛の確執と嫉妬、不倫は勿論、近親相姦なども描かれ、また天皇家と貴族、右大臣と左大臣、などによる政治的謀略も混じり、当時実際に存在した人々も時に実名で出てくるなど、あらゆる斬新な試みが含まれ、まさに実験小説と言えます。紫式部がテレビや著書では藤原道長公の妾(しょう、つまり愛人)であったとされており、その真に迫る描きぶりは見事ですね。

前月号本誌で小澤征爾氏のことを書きました。先日NHKの教養番組で「終わりのない実験~世界のオザワが追い求めた音楽」というのが放映されており、その中で彼は日本だけでなく世界の音楽界に対して重い責任を持つに至っているが、外国にいても常にはるか日本の音楽界へ思いをはせ、日本人が西洋音楽にどこまで挑戦できるかという壮大な実験を続けていると述べています。さらにベートーベンは当時新しい手段としてピアノが導入されると、様々な新しいリズムや旋律を編み出し、交響曲に初めてトロンボーンや合唱を取り入れ、色んな実験を行っています。その前のモーツアルトもオペラなどに革新的な試みをしています。このように新しいことを実験的に試みた先人たちの業績は歴史を超えて今も息づいております。
エベレスト山に初登頂した登山家ジョージ・マロリーは「何故山に登るか?そこに山があるからです!」という名言を残していますが、実験や新しいことへの挑戦のきっかけは極めて単純なことで「高い山に登ると見える景色が変わり、そこから見える次の山に登りたくなる」のでしょう。
アインシュタインも山中伸弥先生も「実験」を繰り返し努力した結果「相対性理論」「iPS細胞」の発見に至ったわけで、実験をして新しいことにチャレンジすることは、人間の本質である、生きていく原動力になると思います。私は今大学で大学院生の動物実験の指導を行っていますが、誰でもその機会は与えられます。ロスアラモスで原爆実験を行ったオッペンハイマーでなくても、小学生の時理科や生物の実験に目を光らせた思い出、おうちで新しい食材を使って子供たちに新たなメニューをつくる。これも実験の一つです。喜んでくれると嬉しくワクワクしませんか?
生物の自然発生し得ないことを証明するパスツールの実験「新大学生物学の教科書」より(2024.4)

ボデイビルダー女子医学生

鳥取県は島根県とともに山陰地方にあり、両県はド田舎さを競い合っております。昔「秘密のケンミンショー極」というカミングアウトをネタにしたテレビ番組で、島根・鳥取のうち右にあるのはさてどっち?スタバはどちらが先にできたか?など。しかしながら、寒い環境で身体を鍛えられるのが良いのか、結構有名なスポーツ選手を輩出しております。2021年東京オリンピックで日本人初の女子ボクシング金メダリスト、「入江聖奈」さんは米子市出身です。また山陰ではなく広島県出身で現在島根大学医学部医学科の5年生「城谷怜」さんは2022年に行われたボディビルアジア大会で優勝されています。医師のボデイビルダーといえば、山陰ではないのですが、秋田大学病院整形外科医の「浅香康人」氏は2023年ボデイビルダー東北・北海道大会で準優勝されました。両人ともインターネットやスマホでその様子と素晴らしい筋肉美を見ることが出来ます。

医学生でスポーツをやっており将来的にこれを専門に生かそうと考えている人は多く、以前に鳥取大学医学部医学科生でバレエダンサーの「河本龍磨」君を紹介しました。上記の2人のボデイビルダーを含め彼らは医学部で学んだ解剖学、生理学、栄養学などを自身の鍛錬に応用し、さらに患者さんの診療に実践的に生かす構想をきちんと考えています。河本君は将来「スポーツ医」になってくれるようで、鳥取大学への貢献を期待しています。フィットネスクラブで働いている城谷さんは、患者さんが悪くなる前に普段の生活習慣や食事、運動を通して身体作りを指導するべく「予防医学、東洋医学」の分野を目指しているということです。浅香氏は現役整形外科医ですから患者さんへの運動機能に関する診療は言うまでもなく、健康な体と精神力を鍛えたいとのことで、学生時代から今なお柔道に研鑽を積まれているようです。

 今述べた柔道については詳しくないのですが、創始者の加納治五郎氏によると禅の教えが根底にあるとしており、「無心、虚心にして物事に没入する」「適当な機を見て相手の姿勢を崩し、少しの隙でも見逃さない」「対人的には礼儀、親切、尊敬を重視する」などの教義の重要性を強調されています。(2024.2)

ヨーロッパ臨済座禅センターの座禅修行(Wikipediaより)

坂本龍一氏:音楽と生命

先月フルート奏者の多久潤一朗氏のお母さんは、没個性的な教育をしていたと書いたことに対して、お子さんを育てていらっしゃる某女性看護師さんから反撃されたので、今回はそれを否定するようなある人を紹介します。

それは、あの有名な音楽家「坂本龍一」氏のお母さんです。東京生まれの彼はお母さんの薦めで世田谷区の自由学園系の幼稚園に通っていたそうです。そこでは幼稚園の園児全員にピアノを弾かせていたようです。また教室の透明できれいな窓ガラスに水彩画を書かせたり、夏休みに週替わりで「ウサギ」の飼育を園児宅でさせたりしていたということです。今なら、父兄たちからウサギには犬のジステンバーのような感染症が無いか調べさせたり、何回目かの予防接種証明を持ってこさせたりしたことでしょう。さらに9月の新学期に先生から「ウサギの世話をしてどうでしたか。その時の気持ちを歌にしてください」と、無茶苦茶な課題を出されたということです。

その坂本龍一氏は2023年3月に亡くなりました。中国の人民服を着てテクノカットという髪型で、イエローマジックオーケストラにて、当時斬新と思われたシンセサイザーなど電子音を取り入れた現代音楽を作り出し、いわゆる「テクノポップ」として一世を風靡しました。しかし「戦場のクリスマス」などのポピュラー音楽を作曲した彼の音楽にはクラシック音楽が基本にありバッハとドビュッシーに大きな影響を受けていたことは驚きです。現代音楽のうち電子音楽はシュトックハウゼンにより広められ、ミニマルミュージックはステイーブ・ライヒ、フィリップ・グラスらによって開拓されました。シュトックハウゼンについては昔大阪万博の時に確かドイツ館で曲が流れていて、当時中学生だった私も奇妙なシンセサイザー音楽に何故か惹かれるものがありました。ライヒは「イッツゴナレイン」「カムアウト」「デイファレントトレインズ」など徐々にずれていく位相に斬新さがあり、グラスはメトロポリタン歌劇による「アクナーテン」「サテイアグラハ」などのオペラを世に出しています。両者とも現代人の感性にフィットしていると感動して聴いています。

坂本氏は平和運動など多彩な活動をしておられましたが、今回医学との関りについて、少し紹介します。2023年3月に生物学者の福岡伸一氏と「音楽と生命」という対談集を出され音楽学と生物学という異なる視点から共通するものについて討論されています。この課題は非常に難しいので改めて論ずるとして、今回はごくさわりを述べます。まずすべての事象を人間の考え方、言葉、論理という「ロゴス」と人間の存在を含めた自然そのものを「ピュシス」と区別します。そして、これらの「ロゴス」と「ピュシス」が対立しているとし、ピュシスをできるだけありのままに記述する新しいロゴス、より解像度の高い表現を求めることをあきらめないこと、そのためにこそ音楽や科学や美術や哲学がある。分化と思想の多様性がある、と論じています。(2023.12)

海外旅行中の病気や怪我

皆さんは海外旅行中に病気や怪我などの身体的トラブルに合ったことはありませんか?この夏に起こった私の悲劇をお話しします。

7月ドイツに行った時のことです。最初ミュンヘンでのオペラ音楽祭に行き、その後ベルリンに飛びました。ベルリンフィルの本拠地の近くの楽器博物館に行って、珍しい古楽器など滅多に見れないので満足して近くのレストランに入りました。シーザーサラダにシュリンプ(海老)にするかステーキにするか迷ったのですが、前日ミュンヘンでは魚介類を堪能していたので肉にしました。その肉が少し固く思い切って噛んだ時口の中で「ぐぎっ」という違和感を覚えたと同時に歯の詰め物(因みに英語でFillingと言います)が取れてしまったのです。

即座にアイホンでDental clinicを調べ(便利ですね!)電話をすると、「分かった。では来週の火曜日に来てくれ」というので、埒があかず翌日ミュンヘンに戻る予定だったので、ミュンヘンでの歯科を調べました。中に「日本語の分かるスタッフがいます」というのがあり、さっそく電話すると「今東京にいるけど、予約しといてあげます」ということで、翌日ちゃんと詰め物を入れてもらい、事なきを得ました。しかしながらその間食事は滅茶不便で水分(つまりビールとワイン)しか喉を通らず、少し痩せたような気がしました。さて料金ですが、海外での医療費はかなり高額だということを聞いていたのでビビッていましたが、海外旅行傷害保険(新型コロナ感染などで帰国できないことがあるので是非入ったほうが良い)の掛け金より少し高かったくらいで、結局利益が出たという結果になりました。(2023.11.10)

生命の起源

 あまり知られていないようですが、三朝温泉には「惑星物質研究所」があります。岡山大学の付属施設として温泉による医学への応用を目的として1939年「三朝温泉病院」が出来、幾つかの変遷を経て1985年岡山大学地球内部研究センターに改組されました。ここでは地球惑星科学の基盤分析実験技術の開発・応用に関する研究が行われ、現在では国内唯一の固体地球科学研究の拠点として内外のトップクラスの施設になります。先日ある研究会で、永年惑星物質研究所長をされてきた「中村栄三」岡山大学名誉教授による講演を拝聴いたしました。

 ご存じの方も多いと思いますが、2019年惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」に2回着陸して5.4グラムの石や砂を地球に持ち帰り「CASTEM」という分析器を用いて、中村教授のグループが解析されました。その中で水や必須アミノ酸(体内で生成されないため自然界から摂取する必要がある)を含む23種類のアミノ酸が含まれていたことが注目されていましたが、講演では実際の解析方法と結果、さらに生命の起源などについて熱く語っておられました。生物に必要な物質はC(炭素)H(水素)O(酸素)N(窒素)であり、因みに月にはこれらがないため人などの生物は住めないとのことです。

 1861年パスツールは精密な実験により「生物は決して自然発生しない」ことを主張し以後この説が定着していました。しかし、それなら最初の生命はどのように発生したのでしょうか。ここで生命の定義についてみると生命とは自ら化学反応を行って子孫を自己複製できる存在」で、自己と外界との間に明確な隔離があり、代謝(物質やエネルギーの出し入れ)を行うものでした。上記のパスツールによると全ての生命には親があるということですが、親の親などをさかのぼっていくと「最初の生命」にたどり着く訳でやはり最初は自然発生したと考えざるを得ません。その後いくつかの実験によりCHONなどの無機質に紫外線や雷など何らかのエネルギーが加わるとアミノ酸などの有機物が生じることが分かってきました。最初の生命はこれらの物質から生じたと推論されます。

 ちょっと生化学的な解説をしますと、まずアミノ酸が多く集まり水分子がとれてペプチド結合によって縮合したポリペプチドからタンパク質が生じます。タンパク質は身体を構成するコラーゲンや筋タンパクなどの構造タンパク質の他、ホルモン、へモグロビンなどの輸送タンパク、免疫にかかわる抗体、物質の代謝に関わる酵素など、極めて多くの重要な役割を担うもので、生命起源に大きく関与しています。

  

図 タンパク質の合成と分類、機能(生化学・分子生物学より)

ンパク質生成の設計図は核内の遺伝子DMAに存在しますが、その情報は一旦mRNA(メッセンジャーRNA)に写し取られ(転写)その後核外(細胞質内)に出てリボソームの働きによってタンパク質が生成されます(翻訳)。これらの遺伝情報を伝える様式は全ての生命の細胞に共通するもので「セントラルドグマ」といいます。遺伝子DNAは2本鎖ですがそのうち1本を鋳型としてmRNAが生成されますが、この反応は酵素であるRNAポリメラーゼの働きによるものです。RNAポリメラーゼもタンパク質であり、その生成について興味のある実験が報告されています。すなわち2021年理化学研究所らの国際共同研究グループがRNAポリメラーゼの活性中心にDPPB(Double-psi-beta-barrel)という約90個のアミノ酸からなるタンパク質があるのですが、わずか7個のアミノ酸から作られることを実験的に実証したのです(Journal of American Chemical Society)。即ち、遺伝情報伝達に関与する酵素(蛋白質)も条件が整えば自然に生成され、自己複製が可能となることが示され生命の起源に寄与することがうかがえます。

 小惑星リュウグウに多くのアミノ酸が存在することは地球外でも生命が存在する、或いは今後発生する可能性があるものと思われます。

セントラルドグマ:真核細胞の場合、核内で遺伝子DNAの2本鎖のうち1本がメッセンジャーRNAに転写されて、核外(細胞質内)に出てその後翻訳を受けてタンパク質が生成される。この転写に働くのがRNAポリメラーゼである(細胞の分子生物学より)。(2023.9.30)

バレエダンサーの現役医学生

 今年も暑い夏に悩まされました。年々最高温度が上昇しており日本でも39℃を超える地域が見られたようです。

 そのような過ごしにくい毎日ですが、ちょっと爽やかな話題を提供します。

 現役鳥取大学医学部6年生でバレエダンサーの「河本龍磨」君です。鳥取市出身で、兄と姉がバレエをやっていたことに影響され、彼自身も4才からバレエを習い始めたそうです。メキメキと腕を挙げていき、地元でも有名となり、高校生の時にロシアの有名な国立ボリショイバレエアカデミーに短期留学されています。

 ボリショイバレエはモスクワにあるのですが、サンクトペテルブルクにあるマリインスキーバレエとともにロシアの代表的なバレエ団で、19世紀末にチャイコフスキーが「眠れる森の美女」「くるみ割り人形」「白鳥の湖」という3大バレエを作曲し、20世紀最初にデイアギレフによるロシアバレエ団「バレエ・リュス」が結成され、この2バレエが旧ソ連の黄金時代を築いてきました。ニジンスキー、ヌレエフやバリシニコフ、アンナ・パブロワ、20世紀最高のプリンシパルと称えられたプリセツカヤなど、多くのバレエダンサーが輩出されています。

 このようなところに短期間でも留学された河本君は素晴らしい経験をされたと言えます。バレエ以外でも野球やサッカー、ホッケー、水泳などスポーツには万能であったようで、「スポーツ医学」に興味を持つようになり、その結果鳥取大学医学部医学科に進学されました。医学部に入ってからはさらにバレエに熱中するようになり、解剖学や生理学を勉強するようになってからはバレエをしている時に「この筋肉の作用は?」「骨の動きはどうなんだろう」「この動きをすると怪我をしやすいかな」などを考えるようになったそうです。しかし、こんなことを思いながらバレエを踊っているダンサーがかつていたのでしょうか?ちょっと尋常ではない印象を持ってしまいます。

 医学部に入ると1年生の2019年にはベルギーのアントワープ王立バレエ学校に短期留学され、2019年第29回全国バレエコンクールInNagoyaシニア男性部門優勝、2021年第8回山陰バレエコンクール県知事賞受賞、2022年第25回NBAバレエコンクールシニア男性部門第2位、今年8月11-13日全日本バレエ協会での公演をこなされるなど輝かしい成績を残されています。

 医学部では授業や実習がみっちりあり、病理学や薬理学などの基礎医学、内科学や外科学などの臨床医学等、新しい知識を身につけなくてはいけなく、結構忙しいのですが、どうやってバレエと両立させているのでしょうか。ある時バレエの公演と試験日程が重なってしまいパニックになったようですが、彼の選択は「今回の試験は棄権して、再試験に全てをかける」ということでした。

鳥取大学医学部医学科6年生 河本龍磨君。現役バレエダンサーとして活躍、将来はスポーツ医学を専攻したいとのこと。かつてのロシアのダンサー「ニジンスキー」を彷彿とさせる??。

 彼によるとバレエダンサーにおける運動器の障害は無理な屈曲進展を行うため①足関節、②中趾骨や外頚骨障害、内反小趾などの足部、③腰椎の順に負担がかかるそうです。以前本誌において「演奏家医学」という分野があることを紹介しましたが、バレエダンサーにおける身体の不調を専門に扱った医師はいないため、彼は「スポーツ医学」、特に「ダンサー医学」を目指すということです。

居酒屋では普通の大学生でした。

 以前に紹介したように鳥取大学病院では作年4月に「スポーツ医科学センターTottori University Hospital Sports Medical Center: TSA」が開設されました。アスリートが持つ医学的な問題は、脳・眼・耳・鼻といった神経感覚器の障害、呼吸器、循環器などの内科的疾患、栄養バランス、ホルモンバランス、噛み合わせ、メンタルの不調など多岐にわたります。このような問題に対して迅速かつ専門的なサポートを行うもので、多職種が関わって行くものです。

 河本君にはこれまでの経験と旺盛な探求心を活かし、この分野でしっかり勉強して将来の「スポーツ医学、演奏者医学」の分野で世界を牽引し、コンクールで成績を挙げたように今後素晴らしい成果を期待します。(2023.9.1)

脳死下臓器提供

今年の4月、鳥取大学医学部附属病院で初の脳死下ドナーに対する臓器提供が行われ、提供された心臓は大阪大学医学部附属病院で40代女性に移植されました。鳥取県内での脳死下臓器提供は3例目となり、地元では大きく報道され院内でもそれに関わった部署の方々が表彰されました。このような地方大学の病院においても脳死の判定から摘出、搬送に至るまで殆ど問題なくスムーズな流れで行われました。今後院内体制が拡充されることが期待されます。

1997年に本邦において「臓器移植法」が、2010年に「改正臓器移植法」が施行され、脳死を人の死とすることが法律で定められました。しかしながら欧米のように脳死移植があまねく広がることはなく、肝移植領域では日本においては肝臓の1部を切除する生体部分移植が主流となっています。

米国と日本における脳死と生体肝移植ドナーの割合。米国では圧倒的に脳死肝移植が多い。(日本移植学会ファクトブック2020)

通常、摘出した臓器は血液を洗い流し特殊な潅流液を注入して氷に浸して冷却し保存します。この処置は迅速に行う必要があり、特に肝臓や小腸などは虚血に弱いため、心停止後の保存では臓器の障害が高度となり使用できないこととなります。これに対し、脳死ドナーが極めて不足する昨今では、このようなマージナル(限界)ドナーを積極的に使用しようという試みがなされています。つまり従来の単純虚血冷却法ではなく、常温にて機械にて還流を行いグラフトの改善を待つというもので、例えば取り出した肝臓の肝動脈と門脈にチューブを入れてここから常温の血液をECMOなどにより数時間から数日還流させるものです。電解質や酸塩基平衡、糖分やアミノ酸、脂質なども添加しATPなどのエネルギー代謝面からみても有利となり、胆管から胆汁排出をモニタリングします。今後心停止臓器や脂肪肝、損傷肺などの病的なグラフトをも使用できるというメリットが考えられドナー不足に対する今後の福音となることが期待できます。

アメリカ外科学会ACS雑誌2023より

(2023.8)

絶対矛盾的自己同一

生体内では神経伝達物質など身体組織、細胞を構成する分子は常に「合成」と「分解」を繰り返しております。西田幾多郎氏の言われるように「ある矛盾をはらんだ姿が人生やこの世の実在である」。「多から一へ」「一から多へ」と部分と全体は常に逆方向に動きつつ常に同時存在的であり、またそれは空間的であるとともに時間的である、「絶対矛盾的自己同一」という西田哲学に通じる現象です。つまり、生命は合成と分解をほぼ同じ空間的、時間的に繰り返しており、このことが生命の本質であるということができます。鴨長明の方丈記冒頭「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」も生命現象の一面を物語っているように思えます。(2022.12)

小児外科医のモチベーション

 先日、鳥取大学医学部学生に対して消化器・小児外科の医局説明会が行われ、私も「小児外科医のモチベーション」について話しました。外科が扱う病気で大部分を占める成人領域の多くの疾患は悪性腫瘍ですが、これとは異なり小児外科疾患の殆どは胎児期における器官形成過程の異常により起こります。つまり最初唯一つの受精卵が分化し各器官に形成されますが、その時の異常が原因で例えば先天性食道閉鎖症は食道と気管の分離不全により起こります。この食道閉鎖症といえば、歌手の椎名林檎さんは生まれてすぐにこの病気と診断され慶応大学病院で手術を受けています。慶応大学に小児外科医がいてすぐに手術したため、命が助かっただけでなく、現在のシンガーソングライターとしての椎名林檎さんがあるわけです。食道の手術後によくある声帯を動かす反回神経の麻痺によって声がかれることもなく、歌手として活動出来ているのです。慶応大学主催の学会の時にゲストとして来られましたが、慶応の小児外科医たちはみんな口々に「私が手術を担当しました」「術後をずっと私がみていたのです」と言うのです。これはすなわち椎名さんの手術に対して自負心や誇りを持っているということだと思います。このように小児外科医はこどもの病気を治すことはこどもの未来をつくる」という重要な使命を持っているのです。身近な例では医学部5年の学生が昔、私が阪大病院にいた時に、動脈管開存症の手術を受けたようで、これがきっかけで医学部を選択したといっています。もう1人の医学生はp63遺伝子(細胞周期やアポトーシスを制御し形態形成に関与する)の欠損による外胚葉系の異形成を主とするEEC症候群を合併し、先天的に両手の第3指が欠損、両足の第2,3趾が欠損、口唇口蓋裂があり、全身麻酔だけでも10回以上手術したようです。彼は幼少時代にいじめにあっていたようですが、「それが何やねん。お前らを見返したるわい」と頑張り現役で鳥取大学医学部に入学され、また高校からバスケットやゴルフをされてきました。小児外科医を目指してくれるようです。

 手術を受けた後成人ならぐったりしてなかなか起きれない、歩けない状態が長く続きますが、小児は大きな手術を受けても術後早期から病棟内をウロウロ動き回ったり、テレビゲームをピコピコやりだしたりして、また成人のように糖尿や高血圧などの他の合併症も少ないため、回復力は極めて強いのです。このような強大な小児の生命力と成長や発達能力の凄まじさに目を見張るものがあり、逆に彼らから『元気』をもらいこれが小児外科医のモチベーションになります。2021年東京パラリンピックにて水泳部門でいくつかのメダルを獲得した先天性四肢欠損症の鈴木孝幸さん、先天性小眼球症による視覚障害のために楽譜を全て聴覚でのみ理解、暗譜し、若干20才にてアメリカ・クライバーンピアノコンクールで優勝した辻井伸行さんなど、「失った機能を他の器官・臓器で代償する人間の能力には計り知れない」ものがあり、若い程その効果がよく発揮されます。さらに上記医学部学生のようにハンデイをはね返し、むしろポジティブに捉えて頑張る「若い力」を育成し、その成長を見届けるのは楽しいし嬉しいものです。

(2023.6)

見逃し配信

コロナ対策として、他人と接しないようにという政策がとられて来ましたが、ある番組で「ヒトがヒトと群れる時には脳の報酬系が働き快楽物質であるドーパミンが出て幸福な気持ちになるが、長期にヒトから離れ孤立するとこの報酬系が低下し、対人恐怖が増加する。情報だけを共有しても感情の共有が出来ない」という趣旨のことを言っていました。このことが動物においても実験で証明されたというのです。確かに人間関係を築く上では弊害ばかりのような気がしますが、一方でテクノロジーの発達により極めて便利になったなあと思うことがあります。

その1つが各種学会などにおけるWEB会議と、私にとってはこの上なく嬉しい企画、ラジオやテレビの「見逃し配信」が大きく発展したことです。私はオペラやクラシック音楽ファンなので、これまでは聴けない観れない放送はオーデイオ機器を駆使して「留守録(1週間丸ごと収録する録画機なども出ていました)」に依存していましたが、時に「留守録忘れ」、「放送予定に気が付かない」ことが重なり忸怩(じくじ)たる思いをしたものです。それがこの「見逃し配信」では放送後1週間はいつでも聴けるわけです。例えば音楽番組は「NHKラジオ、らじる★らじる」では無料で1週間のほぼすべての番組が聴け、スマホでアプリを取れば大阪の地下鉄でも山陰本線の鈍行列車の中でいつでも好きな時間に楽しめるという、極めて有意義なものです。他にもNHKプラスではテレビドラマ、植物学者牧野富太郎を扱った「らんまん」「どうする家康」田中みな実主演の「悪女について」(有吉佐和子の原作は読んだことあります)など、どこでも無料で見れるし、他局やBS、WOWOWの番組もOKのようです。

(2023.7)

同調行動

 5月8日から新型コロナ感染症は「2類」から「5類感染症」に法律上変更されました。これは新型コロナウイルスがいなくなったわけでも、感染力が無くなったわけでもなく、例えば担悪性腫瘍患者、免疫抑制状態にある移植後患者など、ウイルスへの易感染者が多い病棟や高齢者収容施設などでは、引き続きマスク着用や手洗いなどが推奨されています。ただ、感染した場合の重症化するリスクがかなり低下し、これまでのように社会生活を犠牲にするほど徹底的な予防は必要でない一般的な病気と同じように扱って良くなったということです。しかしながら、いまだに街中ではかなりの人がマスクをしており、街頭インタビューなどを聞くと「とりあえず今まで通りにして、周りの人の動向を見ながら徐々に外すことを検討します」という意見が多いような気がします。また以前のように「自粛警察」など他人には厳しく攻撃するような人に忠告するとの意図もあり「個人の責任にゆだねる」ようになったと思われます。

 以前、このような「同調行動」は「マーマレーション(周囲の仲間の目印やシグナルを受け取ってまとまった集団行動をすること)」と呼ぶと言いました。これは我々人間を含む動物や細胞や遺伝子など、生命現象を司るものに備わっている原始的な行動形態で「コロナ感染におけるマスク非着用者に対する自粛警察」「SNSで広がる誹謗中傷」さらに「ナチスや軍事政権」など、大きな悲劇につながる可能性があるなどと言及したことで、かなりネガティブな印象を持たれたことと思います。また作田忠司リーデンローズ館長が哲学者「ハンナ・アーレント」のことを述べておられ、私も矢野久美子著の伝記を読みましたが、彼女は何故ドイツでナチスのような全体主義が台頭したかについて、詳しく分析されています。つまり「客観的な敵」を規定することが「全体主義」の本質であるとし「客観的な敵は自然や歴史の法則によって体制側の政策のみによって規定され、これらは効果的に人間の自由を奪う」としています。一旦「客観的な敵」が規定されると「望ましからぬもの」「生きる資格の無いもの」という新しい概念、グループが出来上がり、「客観的な敵」に属さない「大多数の人々」はこれに賛同し、また「同調圧力」が加わり「大虐殺」に至ったとしています。「大多数の人々」がこのような「均一性」を自覚することが最も根源的な問題と思われますが、これを阻止するためには個々人の特性を認め多様性を受け入れれることが重要と思われます。

(2023.6)

集団行動

 先日夕方病院近くを歩いていると、鳥の群れが束になってうねるように移動しているのをみかけました。季節的に「渡り鳥」の移動かと思われましたが、「ヌー」という草食動物が食料となる草原を求めて大きな群れを作って集団で大移動をすることや、シマウマやイワシ、ペンギン、アリなどの小動物まで集団移動をすることはご存じのことでしょう。この現象を「マーマレーション」と呼ばれており、リーダーシップをとるものがいなくても周囲の生物の行動を仲間の目印やフェロモン、時には超音波などのシグナルを受け取ってまとまった集団行動を行うものとされています。集団で行動をすることにより捕食者から自分たちを防衛することが一番大きい目的のようです。

移動する鳥の群れ(無料イラストより)

 さらに驚くことに、生物だけでなく、細胞の分化や器官の発生、細胞間の相互作用など、遺伝子や細胞レベルでも、隣の遺伝子や細胞からシグナルを受け取ってこのような集団行動を行っているのです。例えば腸管の蠕動を司る神経節細胞などは胎生期に神経堤というところから食道へまず遊走しその後腸管の壁内を下方へ直腸を目指して一斉に細胞が集団行動を起こすわけです。一説によるとSNSで広がる誹謗中傷もこのような集団行動の1つとされており、同じ種の集団では利益となるひとつの方向に向くときには良いのですが、大回遊するニシンは一気に捕獲され我々の食料になるように、扇動されやすい人間の集団は間違った方向に行くと第二次世界大戦の日独伊三国のように大きな悲劇につながるのです。純粋で真面目な集団ほど同調圧力に左右されやすいので気を付けないといけないかも知れません。

(2023.5)

腸管神経前駆細胞が食道から胃を通り、小腸、大腸に移動する(Nature Neuroscience 2012より)

植物という生き方

「植物という生き方」について考えてみます。最初に地球上に出現した生物とされ、光エネルギーを使って酸素を作ってきたシアノバクテリアを、植物は葉緑体として細胞内に取り込み、光合成により水と二酸化炭素からぶどう糖などの有機物をつくる「独立栄養生物」です。これに対し動物は感覚と移動能力をもつようになったため他の植物や動物などを捕食しないといけない「従属栄養生物」になります。「植物人間」という否定的な使われ方をしていますが、光合成だけで養分が得られるという植物の「動かない生き方」にも憧れるところがあります。しかし光を多く得るために密林などでは背の高い木が生き残ったり、他の植物の成長を阻むような化学物質を生成したり水面下の戦いは有るようで、どの生物の社会でも競争は避けられないようです。植物とシアノバクテリアのように細胞内に入り込みお互いの生命活動に利用し合うというのが本来の「共生」であり、人間がコロナウイルスとうまく付き合っていくというのは「コロナとの共存」ということになります。

植物が持つある化学物質にて他の植物の成長を妨げ、自分が使うために「水」や「栄養」を確保する。(新しい高校生物の教科書より)

春の開花と温暖化

さて、春になりました。様々な花が咲くいい季節ですね。 今年の東京での桜の開花は3月14日で、これまでで最も早い記録となりました。

倉吉市白壁土蔵群近くの桜並木

温暖化によりその開花の時期が徐々に早くなっているようです。一般に春における開花の調節には2つの遺伝子が関わり、開花発現を抑えるFLC遺伝子と促進するフロリゲン(FT遺伝子)があります。FLC遺伝子は数週間~数か月にわたる冬の寒さにより抑制が徐々に減少し、フロリゲンが増えて春の開花に向かいますが、遺伝子の解析を用いて地球温暖化により開花の時期が徐々に早くなることが証明されています。

開花を調節するFLC遺伝子とFT遺伝子が温暖化により変化する(Nature Communication 2013より)。

ジャイアントパンダ

今年の2月に上野動物園で生まれたジャイアントパンダの「シャンシャン」、和歌山県の「エイメイ」など3頭が中国に返還されました。私は昔、和歌山県白浜近くの病院に勤務していたことがあり、子供たちを連れてよく観にいったもので、いなくなるのは残念です。日本国内のパンダは50年位前から日中友好関係のために来ているということですが、全て繁殖研究を目的に中国から貸与されている形となり、たとえ日本で生まれても所有権は中国にあるようです。これは絶滅危惧を懸念されてのことみたいです。

竹の幹や葉(笹)を主食とするパンダはいわば「菜食主義者」です。一般に植物細胞は動物細胞と異なり細胞壁や植物繊維を持ちこれらはセルロースが主成分で、セルロースはでんぷんと同じようにぶどう糖(グルコース)から構成され、草食動物は腸内細菌によってぶどう糖に分解してもらってエネルギーを得ます。大昔の我々人間の祖先は盲腸が発達しており、ここに棲む腸内細菌によって植物繊維を分解していたようですが、動物の狩りをして火を使った調理により肉食が多くなると盲腸が退化してしまい植物線維を分解できなくなりました。脂質の摂りすぎにより生活習慣病に悩まされている現代人には、例えばパンダの腸内細菌を腸内に移植すると我々も竹や綿、紙などを主食として利用し健康的な生活ができるかも知れませんネ。

竹の葉を食べるジャイアントパンダ(無料イラストより)

人間を含め生物は糖分、脂質、たんぱく質などを外部から取り入れ、ぶどう糖やアミノ酸などに細かく分解して腸から吸収し身体の生体分子を合成し、またその一部を分解してエネルギーを作り出しています。「菜食主義者」については「ベジタリアン」とか「草食系男子」などの言葉が広く使われています。上記の栄養素のうち、脂質やアミノ酸の一部は他の栄養素から生成可能ですが、アミノ酸には必須アミノ酸と言って体内で合成できないものがあります。人間では9種類でこれらは食物から摂取する必要があり、菜食主義者は野菜だけでは生きれず、パンダ達は実は夏の間にタケノコや竹の新芽を多く食べており、これには蛋白質が高率に含まれています。ベジタリアン達も肉や魚などの動物性食品を摂らないだけで、ナッツや豆腐からアミノ酸を摂っているわけです。但し「草食系男子」はちょっと意味が違う様でWikipediaによると「恋愛に『縁が無い』わけではないのに『積極的』ではない、『肉欲』に淡々として心優しく、傷ついたり傷つけたりすることが苦手な男子のこと」などと定義され、かなりかけ離れた使い方になっています。

「冬眠」と「冬季うつ病」

寒い時期には「冬眠」する動物が多くいます。ウイキペディアによると「冬眠」は狭義には「哺乳類や鳥類の一部が活動を停止して体温を低下させ食料の少ない冬季間を過ごす生態」のことで、広義には「変温性の魚類、両生類、爬虫類、昆虫などの節足動物や陸生貝などの無脊椎動物が冬季に極めて不活発な状態で過ごす冬越し」のことも指します。生体変化としては表のようなものが挙げられますが、極端な例ではある種の亀などでは冬季は完全に身体が凍結されて心拍と呼吸が停止し、春になると復温されて心臓が再拍動するものもいるようです。人間では遭難などで極度の低体温に陥るも1か月近く殆どの臓器の機能停止が起こるがほぼ後遺症なく回復したという事例が幾つか報告されています。特に小児の回復力は強く、これを利用したのが新生児低体温療法です。新生児では周産期に受けたストレスにより容易に重度の精神運動発達障害が後に残ることがありますが、このダメージを最小限に抑え障害を回避する治療がNICU(新生児集中治療室)で行われるようになり、2010年国際蘇生法連絡協議会で標準治療として推奨されました。さらに心臓手術に際して心臓が拍動している状態では手術が困難ですので、心筋への血流を遮断、心筋を冷却し冠動脈から心筋保護液を入れて代謝を押さえ心拍動を停止させることにより、数時間の開診手術などが可能となり術後の障害も最小限に抑えられます。この手技は心臓血管外科の黎明期から研究・開発され、今日の一般治療につながっています。

 

冬眠(無料イラストより)

冬眠中の生体変化

・体温の低下

・活動の低下によるエネルギー消費量の低下

・摂食の中止

・排尿、排便の停止

・心拍数の低下(場合により心停止)

・呼吸数の低下(場合により無呼吸)

最近マスコミなどで「冬季うつ病」という言葉を頻繁に目や耳にします。これは寒い時期に「こたつや布団から出たくない」「寒い時に買い物に行くのが億劫だ」などの寒さへの恐怖や躊躇以外に様々な症状が現れます。「気分が落ち込む。物事を楽しめず気力が減退する。イライラする」など、「一般的なうつ病」と同じ症状が見られますが、「冬季うつ病」では「いくら寝ても寝足りない(過眠。布団から出たくないに関係?)「過食(脂肪を貯め込む)」「体重増加」が特徴とされ、これらは人間における「冬眠」現象の名残だとされています。私も山陰に来てから体重が増えましたが、これは冬季うつ病か単に食材や日本酒が美味しいせいだけかは分かりません。心当たりのある方は、お互い気を付けましょう。

一般のうつ病と冬季うつ病の違い

 

 

一般のうつ病

冬季うつ病

睡眠

 

低下

増加

食欲

 

低下

増加

体重

 

低下

増加

男の恋愛は別名保存、女の恋愛は上書き保存

「カルメン」は男女の異なる恋愛観のため結実しない悲劇、「アイーダ」は時代に翻弄された男女の愛として終わっていますが、恋愛は男と女によって捉え方が違うようです。夏目漱石は小説「明暗」の中で「男の恋愛は別名保存であるが、女の恋愛は上書き保存だ」と言っています。ここで、その違いを生物学的見解から考えてみます。まず受精に際しては何億個もの精子が「戎神社の福男」のように1つの卵子を求めて我れ勝ちに突進しほぼ無尽蔵に作り出される精子をもって「数打ちゃ当たる」的な行動をとるわけです。これに対し卵子から見れば受精できる時期は約1か月に1度の排卵時のみで、しかも一生の間に作られる卵子の数が限られ、年齢も小学高学年から50才くらいまでです。このため卵子は優秀で健康なただ1つの精子のみを待っているわけで、大切な恋愛の時期を守り有効に選択するのです。

このようなことを休み中にぼんやり考えていると、2021年のショパンコンクールで2位と4位を受賞した反田恭平と小林愛美の電撃的結婚が報道されていました。どうやら「できちゃった婚(最近では授かり婚というようです)」のようですが、無責任な憶測はしないようにいたします。

受精に際し、唯1つの卵子に無数の精子が「戎神社の福男」のように突進する。ムーア「人体発生学」より