食 その二

前肢が手となり中枢神経に言葉の生れて物を作りし
手の操作言語の記憶が物作る働く人をあらしめたりと
こく物を作り蓄へ更に物作らん知恵の生れ来りぬ
食物が豊かになりて人の殖へ人殖へ更に食物作りぬ
道具など体超へたる物作り耕して更に食物得たり
退きたれば満ちくる波の慣はしに今日あり一人の窓と言へるも
労苦せし人の所得の少なきをひしひし玉葱晴ひかへる
眼窩のごと窪み明きたる錠剤をのみたるごみを集め捨てをり
人生を意識の深さに求めたり全て捨てたるところに生まるる
日々に黄の色増して稲の熟れ光り明るき秋原となる
繊維街食堂街など岐れたる機能に都会の賑ひのあり
食べ頃とすしをもらひぬ生鯖と酢と塩と飯の時に順れしと
人間は物質にして細胞にて動物にして英知をもてり
床下の闇に逃げたる猫の目の向くる憐光生きねばならぬ

 食

太陽と大地の成れる有機物日々に排摂もちて育つぞ
水を飲み飯食い糞尿泌り出して日々の育ちをもてる体ぞ
他者を食ひエネルギーとして更に食ひ営み永く成りし体は
他者を食ひ他者に食はれる時永く体の機能もちて来りぬ
他を襲ひ他に襲はるる時永く口や手足の現はれたりし
身体の水分六十五パーセント地表と同じ比例もつとど
弱き肉を強者が食ひて鍛へたる機能ぞ生きる身体にして

 誉田懐古 十一首

塚幾基舟木蓮を伝へたり風にすすきの葉鳴りひびきつ
陽を葬る木舟石舟作りたる舟木蓮と記されてあり
葬りたる日の神天照大神否天照御魂太神
玄界灘越えたる舟を作りたり舟木蓮神功皇后の時
神功皇后如何なる夢を結びしや玄海灘征く舟木の舟に
加古川の流れは今より清かりし統べおりたらん舟木蓮は
住吉の御旗なびかす舟木氏の此処に住ひし彼処にありし
番といふ地名は勤番の匠より出で来りし母は語りぬ
勤番の匠となりて上りしと葬りし塚も田畑となりぬ
槌の音昔も今も変らざる音とし思う番匠思ふ
そぞろゆく雑草のみが変らざる千年の前千年の後

2015年1月10日

 言葉(一揆に思ふ)

荒れ狂ふ一揆も旧きに収まりて革命に思ひ及ぶことなし
何故に民衆蜂起の一揆等政権獲得に向はざりしや
公と民差のあることを当然と永き収奪に耐へて来りぬ
民衆の蜂起なしたる一揆群自治持たざりしは言葉なき故
自由とふ言葉輸入し民政とふ体制もつに目覚め初めぬ
一揆して立ちし農民収奪の公に向ひたたかいたりき
農民は生かさず殺さずとふ言葉負はされ収奪されてゆきたり
物流を舟が担ひしその昔日本海流が文化運びし
韓国や中国船のおのずから日本海岸航きしならずや
生きてゐる今の人等が作りゐる世界と思ひ幻想を止むる

 苔寺    三首

寒き日に耐えたる苔の固き表皮茶色となりて低く地を這う
もれて来る光りは歩みに移りつつ一すじ苔の生えぬ道あり
老ひし木に光りかすかな斑を作り観光客等声をつつしむ

2015年1月10日

 繁華街

哀歓の熱きがままに劇場をなだれて人の出でて来りぬ
哀歓を劇場の席に操作され人等生き生き出でて来りぬ
幕しゐる自然の情緒淡くして狭きホールの階段登る
フィクションの摩天楼として都会あり押し合ひ人等肩を並ぶる
食堂街電器街など区分され人等技術を競ひ合ひたり
空高く昇りてゆける観覧車作りしものが歓声つくる
未来より返り見すれば現在のこの混沌も斉合ならん
何の空も人の感覚操作して生きると?めく看板見上ぐ
繁華街写すテレビを見終わりて大きな空を仰ぐと出でぬ
透明の秋の空気の流れ入る人呼びしばし語りてゐたし
枯れし葉の走れば湧きし若き日の流離の心も過ぎて果てたり
何故に草は笠形なしゐるかなどを思ひて山路過ぎたり
大きなる鳥の目の絵の掲げられ雀を追はむ威しとなしぬ
薬とは毒の適正な利用なると人は不幸を必要とする
紫の光りひそかに吸ひ蓄めてすみれの花の庭隅に咲く
饅頭を半分食べてしまひをり去年より小さき胃袋となる
一つのみ花を掲げてコスモスの生へて来りしつとめを果たす
鉄塔は夕日貫き風凍てる秋逝く山の上に立ちたり

 目 七首

目より鱗落つる如しの言葉あり常に鱗の貼りつくらしき
もの見るは目のみに非ず声のする方へ視線の走りてゆきぬ
ものを書くペンの先にと目の向ひ時には閉ぢて言葉を探す
生きてゆく営み常に目を誘ひ営みは永き努力をもてり
向ふ目は営み永き人類の苦難を越へし努を持てり
より大き命に向ふ眼にて工人画家の奥に住みたり
時永き努力住まはす眼にて永遠なるが己を開く
いつ死ぬか判らざれども一応は来年暮らす計算もする
目を閉ぢて全ての象消へゆくをわが残生の末何かある

 死

生命が二十億年の営みに己れを否む死を見出しと
生命が死を見つけしは大きなる生きの姿を現はさん為
米飯も家も着物も死に克たん永き努めに見出しものぞ
慈(じ)とは生悲(ひ)とは死にして死を救ふ思ひ自ら慈しみにて
絶対に我を否みて死のありぬ何うもなし得ぬ運命として
青写真の無数の線が秘むる夢機械を下げし二人上りぬ
この山の変ぼう秘めし設計図二人の男指を指し合ひぬ
設計図眺め語れる男あり夢と現実を交換のため
設計家の頭の中に街のあり図面担へて役所を出ずる

 柳生の里

杉の根の露はに階をなせる径登りし処に石仏彫らる
足止めて水引草と言へる声赤く小さき花を並べる
聞き及ぶ峠の茶屋は屋根古りて床机二つを店前に置く
狩野派らし描ける襖覗かせて終りたる年に柱痩せたり
編笠を被り大刀横へし武士の思ひに床机に掛けぬ
草餅を並べしままに人見えぬ峠の茶屋は風渡りゐて
おとなへる声幾度に出でて来し女あるじは手を拭ひつつ
その昔武士も食ひたる草餅の味はひ互にたたえ合ひつつ

伊賀甲賀柳生武を練る人の住み伝へ来りし史のかなしさ
明らかに底ひに白き砂ゆるる柳生の川は声挙げて見る
万珠沙華陽を浴び咲きて水清き堤は昼の弁当開く
戦にそのままとりでとなる構え家老屋敷は山を背にして
陳列をされし伊万里の皿の彩乏しく家老は暮していたり
大名となりし子孫の蔭に見え石舟斎の墓の小さし
案外に細き体をなしゐしと鎧の前を女等過ぎぬ

2015年1月10日

 恐竜ブーム

巨きなるものへの憧れ亡びへの怖れに恐竜展の賑はふ
この地上制覇なしたる恐竜の亡びに人の運命を思ふ
限りなく肥大なしゆく生命の終え亡びし恐竜嬌りに生きし
恐竜の怪異の姿眺めつつ人は共存へ思ひを運ぶ
大きなるものはいよいよ大きくなり亡びにゆける運命をもつ
この地上わがもの顔に歩みたる大きな骨を怖れに仰ぐ
人間よおごる勿れの声聞ゆ亡びし恐竜の巨き骨より
人間の極まる栄華如何ならん形に亡びの来るかは知らず
木の蔭に水を見てゐる人のあり散歩の足を寄せてゆきたり
突然に蛙跳び込む音立て春行く堤に一人なりけり
ひるがへる葉裏の白くはつなつの風は谷間をかけのぼりゆく
木の枝を雀飛び交ひ散る光りわれは出でゆく帽子とりたり
梅の実の尻円かに育ち着て山の緑は盛り上りたり
飲む水はほてりを洗ひて散歩より帰りしのみどを流れ入りゆく

喉過ぎる冷え明らかに散歩より帰りし胃腑に水の入りゆく
貫きてほてりを洗へる喉となりコップの水を仰向きてゆく
産卵に躍る魚より生るる子をブラックバスが全て食ふとど
目が覚めて窓に差しゐる日の光り布団を跳ねぬおのずからにて
殻を脱ぎ羽根もつ蝉は濡れをり目に展けたる果しなき空
殻を脱ぎし蝉ははるかな森蔭の鳴きゐる声に向ひ飛びたり
生きものの眠りを抱く夜の森明日の命は闇に養ふ
一人なる故に大きな我となり果なき空を眺めゐるかな
かへり来し田鮒と思ひ眺めしが動き早きは異国種らしき
鮒の子を食べし草魚の稚なきをブラックバスが全て食ふとど
戦のひもじき記憶食卓に並べる皿の何れか夢か

 動脈瘤の入院

動脈瘤不治の病と告げられて語らん思ひもたぬすがしさ
治すことを思ふ用なき病にて朝は朝の光り浴びをり
明日のこと思ひ煩ふことなかれ煩ふ用なき病に罹る
酒少し塩分少し魚少し老ひし体はおのずからにて
おもむろに歩み運びて咲く花の透きゐる白を眺め病みをり
今生きる思ひに喉を下りゆく渇き癒やせる冷えし水あり

新たなる芽の出るところに枝曲り大樹は空を覆ひ拡がる
墓石を抜け出る如く光り曳き蛍は闇をさまよひゆきぬ
この広場に埋立てられし沼ありてえだらにどんこすみてゐたりき
餌を獲る頭と口の大きくて山池のどんこ肉のやせたり
山池に頭の大きなどんこ居て肉の少なき胴をもちたり
埋まりてゆけるいにしえ神の名の残りて土のわずかに堆し
生きし日の眼をかっと開きゐて魚は店頭に並べられをり
死の淵の深さ覗きて生きてゐる日々の高さに思ひの至る
死の淵を眺むる眼を返しゆき生きゐる高さ限りのあらず
毒もつと標示をなせる黒と黄の背を輝かせ蜂は屋根越ゆ
忘られてゐること淋しさ淋しさを超えん呼吸をながく吐きつつ
己が歌に見出でたる魔にたじろぎて陰うつな歩みを運ぶ
二百億儲けし記事を読みてをり御飯にすれば何杯だろう
ふかぶかと羽毛の布団にくるまれて朝の十時に目を覚ませるか
鳥は木に森は大地に昏れてゆきくらめる声もいつか止みたり
露いりて葉末に置きて降るとなくはるかな塔はかすみて並ぶ

開きたるてのひら乾きてゐるなればてのひらの歌作りて寝ねん
年重ね空にそびへてゆける樹をかすみ初めたる眼に見上ぐ
殺すことを意識して殺す年となり壁に止まれる蚊をたたきたり
大空のはてなく深きを見上げをり鳶一つ舞ふさびしさありて
塗箸に挟みしに煮豆の滑めり落ち記憶はるかな力ある指
新緑の霞みて淡くそよぎゐる光りを時に内にこもらす
たたなはる山はもやひにうすれゆきはるかな稜線一すじ青し
庭隅に白く覗きて草の芽の土割り出づるは力の強し
窓を拭きて虚ろな我の眼の写り外は夕の山暮れてゆく
何処にも我は用なきものにあれ夕の闇に包まれてゆく
一に金二には歌作得ることの易きを順に挙げて思へば
限りなき深さとなりて山の池さすらへる目に青く澄みたり
幼な子とたはむれたくて正月の雪はふはりふはりと落つる
半眼を開きしままに動かざる眼ならんと坐りゐるかな
うねりつつ競ひ流れてゐし水は淀みに入りて木の影写す

ひらすらのみに彫りゆく木片は怨める鬼の面となりゆく
恨みもつ心を面に刻みつけ清しき顔に立ち上りたり
残りなく恨み刻みし鬼の面作りて清しく立ち上りたり
抱えたる頭より落ちし雲脂の跡汚点となりゐて本の在りたり
飯食ふと立つときのみの正確になり来しわれよ笑ひの苦し
よべ降りし露を置きたる庭の木の青あたらしく朝光差しぬ
双の手を合はせて頭垂れてゆき伝へ伝へし神への祈り
運命を垂らす紙札木に結び石の階段人等下りぬ
運命を告ぐる紙を見せ合ひて各々己が歩みを運ぶ
舗装路を割りて出でたる草の芽の細く淡きが光りを透す
新らしとは如何なることとあぐみゐて窓開けあらたな空気を入れぬ
流れゆく水は光りを躍らせて早苗を植ふる田へと入りゆく
波立てる水は群れゐる魚にして池に沿ひたる坂下りゆく

空映す水を張る日に田植機は見る見る早苗挿してゆきたり
桶を抜くと布令のありたるこの朝光りうねりて水の流るる
畦直ぐく区劃整ふ田の並び流るる水の淀みのあらず
水渡る土を均せる機械見え水平かな田の面を開く
早乙女の並び植えたる記憶もつ田植はちらほら機械が動く
二、三日に田植の終りて一望に早苗のそよぐ田となり並ぶ
得る金は機械の代に消えゆくと笑ひておりし泥を落せり
しずかなる微笑の如く夕波の白く光りて闇に消えゆく
雪落ちしばさとふ音の後絶へて涯なき闇に耳の澄みゆく
明鏡はくまなくしわを映しをり我におぞましく我ある勿れ
とこしえを現はし居らん我なりや鏡の中を歩みて来る
夕されば床机を出してながながと寝そべり風に委す目を閉す
重なりて居りし葉を分け花びらはおのが姿を開き咲きたり
生れ来し故のあはれの動脈瘤病めるは生きる証にあらん

空洞となりて老木立ち居るを過去うすれゆく我の向ひぬ
たるみたる肉塊ようやく運び居り八十余年生き来る果
破れ易き紙にてはなを拭ひたり我より出ずしもの疎ましく
儲けたる金は何する当もなし売るのは高く売らねばならぬ
覚えざる男が話かけてくる過去を引摺り生くるの一つに
春の日の営として花敷の落ちし跡より青き実の覗く
包丁にやすく肉の切られゆく泳ぎもちゐし柔らかなるは
訃報あり君はこの世に居らぬなりわれはわが死に思ひの沈む
うかび来し君の笑ひて居りし顔訃報を机の上に置きたり
怖いから怖くないといふ言葉間に挟み死を誇りをり
天つたふ差して来れる億光年星の光りはわが目に届く
平かな池の面の一ところ魚の群れゐて波?みなし
小さなるつぼみと思ひゐたりしが重なる葉を分け花開きたり
タイヤガラス青く輝き窓外はもゆる日差しに早苗のむかふ

水の香を胸に満たして白鳥を象どる船は風を切りたり
八王子神の名のこり池にdすむ魚は異国の種属の住むと
太き杭打ち込まれをりゆるぎなきものを詠むべきわが歌の為
毒と聞く茸が今日のふくらみをもちをり即ち蹴り飛ばしたり
突風に飛びたる帽子に足早め弱りし脛に思ひ移りぬ
太き茎大きなる葉にひまわりは夏の日差しをむさぼりてをり
おのずから出でて来れる言葉あり己れ充たして一人ゐるべし
水底の意志の光りて泳ぎゐる鴨にゆれゐる影の届きぬ
光らざる電池をおもふ電池入れ光り放てる灯り携げつつ
夕焼けの詞に赤く夕焼は唄へる声とひろがりてゆく
澄む水の底を知らざる青き水たたかふ我となりて立つかな
報ぜらる世界の流れ株の値の資料となして我は読みをり
株の値に写して動く世の流れ読みつつこれに過ぎるはかなさ
散りてゆく日の近づくを知るようにうすき花びら震へてゐたり
くれなひの花体一片ひとひららを散らして風は走り去りたり

黒雲は憎しみもつごと急速にふくれて空を覆ひゆきたり
雷鳴が黒雲おこし黒雲が雷鳴呼びて窓を震はす
わが乗れし汽車の向へる山蔭にとびゐし鳥は消えてゆきたり
戦場になりたる後を基地となり骨髄に生るる平和を叫ぶ
共産圏に直と向きたる沖縄の宿命おもふ戦場に基地

2015年1月10日